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第143話
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「善は急げ、か……」
お菓子好きな母フローディアの推しで、金貸しの系譜である領主家より融資を受けた焼き菓子の専門店、“女王蜂の巣” は独立都市イルファに進出することを計画しており、有望な商品があるに越したことはない。
経営に失敗されても貸付金と未払い利息が返ってこないし、リィナとフィアが姉の一人と慕う元修道女の店主に身売りさせるのも気まずいため、多少の手間を厭わずに某女史の下へ向かう。
因みに考古学関連の教授方が巣食っている区画とは疎遠であり、あてどなく棟内の上下階を彷徨った末、漸く俺は目当ての室名プレートを見つけた。
慎重を期してもう一度だけ、金属板の下部に彫られているヴァネッサ・ディアベリの文字を確かめた上、植物系の油による混合塗料で表面仕上げされた扉を続けて三回叩けば、“取り込み中です、出直してください” と声が響いてくる。
「何処ぞの錬金術師から、用事があると聞いたんだが?」
「…… ウェルゼリア卿の嫡男、ジェオ・クライスト?」
「あぁ、相違ない」
疑問に疑問で返されて答えると、軽い足音の後にドアノブが廻り、いつぞやの公開講義で睨まれたこともある淑女が現れて、やはり雑多な研究室に入れてくれた。
身体の稜線が強調されるタイトな上着や、丈の短めなスカート、ストッキングを黒系統の色で揃え、白衣など羽織った彼女は発掘機械が散見される室内を歩き、窓際の執務机まで進むと読み掛けの本を書棚へ仕舞う。
「余り忙しそうな状況に見えないな」
「嘘も方便と言うでしょう? 読書を優先したい気分だったの」
悪戯っぽい微笑を挟み、机上に持ち出されたのは… 精巧かつ複雑な機構を有する模型であり、内部の絡繰りが理解し易いように大半は硝子部品で作られていた。
十中八九、これが呼ばれた件の本題に関わるのだろう。ただ、どのような用途に使われるものか、その形状で類推するのは非常に難しい。
「“論より証拠” の逆で現物を見ても分からない、これは?」
「先史文明期にLNGガスや石油を喰い潰された地球で唯一、現生人類が手を伸ばせる機械的な動力装置のミニチュア、蒸気を扱う外燃機関の模型よ」
もう手軽に掘れる地層では、内燃機関に用いるような資源は殆ど残ってないと持論を述べ、謎の知識をひけらかした女史が続ける。
魔法という技術体系があるため、不確定な要素はあるものの、現状に於ける人々は “蒸気機関” とやらを洗練、発展させて独自の文明を築く可能性が高いと。
「まるで旧時代、第一次産業革命の頃に流行ったスチームパンクの世界かな?」
「話の理解が追いつかない、独白したいだけなら帰るぞ」
「ぐっ、この捻くれた反応… やっぱり、あいつの弟子ね」
「ということは、貴女も “討ち手” の部類か?」
現生人類などと、我が師以外から聞いた覚えのない言葉もあり、機械だらけの研究室へ引き籠る考古学の徒に問えば、一瞬だけ面喰った彼女は首振りで否定した。
お菓子好きな母フローディアの推しで、金貸しの系譜である領主家より融資を受けた焼き菓子の専門店、“女王蜂の巣” は独立都市イルファに進出することを計画しており、有望な商品があるに越したことはない。
経営に失敗されても貸付金と未払い利息が返ってこないし、リィナとフィアが姉の一人と慕う元修道女の店主に身売りさせるのも気まずいため、多少の手間を厭わずに某女史の下へ向かう。
因みに考古学関連の教授方が巣食っている区画とは疎遠であり、あてどなく棟内の上下階を彷徨った末、漸く俺は目当ての室名プレートを見つけた。
慎重を期してもう一度だけ、金属板の下部に彫られているヴァネッサ・ディアベリの文字を確かめた上、植物系の油による混合塗料で表面仕上げされた扉を続けて三回叩けば、“取り込み中です、出直してください” と声が響いてくる。
「何処ぞの錬金術師から、用事があると聞いたんだが?」
「…… ウェルゼリア卿の嫡男、ジェオ・クライスト?」
「あぁ、相違ない」
疑問に疑問で返されて答えると、軽い足音の後にドアノブが廻り、いつぞやの公開講義で睨まれたこともある淑女が現れて、やはり雑多な研究室に入れてくれた。
身体の稜線が強調されるタイトな上着や、丈の短めなスカート、ストッキングを黒系統の色で揃え、白衣など羽織った彼女は発掘機械が散見される室内を歩き、窓際の執務机まで進むと読み掛けの本を書棚へ仕舞う。
「余り忙しそうな状況に見えないな」
「嘘も方便と言うでしょう? 読書を優先したい気分だったの」
悪戯っぽい微笑を挟み、机上に持ち出されたのは… 精巧かつ複雑な機構を有する模型であり、内部の絡繰りが理解し易いように大半は硝子部品で作られていた。
十中八九、これが呼ばれた件の本題に関わるのだろう。ただ、どのような用途に使われるものか、その形状で類推するのは非常に難しい。
「“論より証拠” の逆で現物を見ても分からない、これは?」
「先史文明期にLNGガスや石油を喰い潰された地球で唯一、現生人類が手を伸ばせる機械的な動力装置のミニチュア、蒸気を扱う外燃機関の模型よ」
もう手軽に掘れる地層では、内燃機関に用いるような資源は殆ど残ってないと持論を述べ、謎の知識をひけらかした女史が続ける。
魔法という技術体系があるため、不確定な要素はあるものの、現状に於ける人々は “蒸気機関” とやらを洗練、発展させて独自の文明を築く可能性が高いと。
「まるで旧時代、第一次産業革命の頃に流行ったスチームパンクの世界かな?」
「話の理解が追いつかない、独白したいだけなら帰るぞ」
「ぐっ、この捻くれた反応… やっぱり、あいつの弟子ね」
「ということは、貴女も “討ち手” の部類か?」
現生人類などと、我が師以外から聞いた覚えのない言葉もあり、機械だらけの研究室へ引き籠る考古学の徒に問えば、一瞬だけ面喰った彼女は首振りで否定した。
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