悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

文字の大きさ
147 / 155

第147話

しおりを挟む
 ぱくりと女給服や下着をくわえて、木陰に隠れた黒狼がケモ耳少女の姿で出てくるのを待つ間、こちらも少々乱れている服装をととのえてから都市正門に向かうと、ぎょっとした様子で常備兵らが直立不動の体勢を取る。

「いつもながら唐突に戻ってきますね、若君わかぎみは」
「しかも徒歩って、王都への移住に使った馬車はどうしたんです?」

「印刷局の製紙工場に置いてきた。手荷物が少ないから、必要もない」
「討伐に随行ずいこうした時と変わらず、お嬢様方ご健脚なのは恐ろしい限り……」

 まだ年端としはのいかない人狼娘を見遣みやり、“お前もか” と胡乱うろんな表情になった領兵長の前を素通りして領主家の屋敷へ戻れば、伝書鳩による手紙を送っていたこともあり、妹と御付きのメイドが出迎えてくれた。

 晴れやかな笑顔で手を振ったディアが駆け寄ろうとするも、歳の近い獣人種の少女を意識にとらえてとどまり、こてんと小首をかしげる。

「この子、誰ですか?」

「地下隧道ずいどうで拾ったウルリカだ、身のまわりの世話を頼んでいる」
「金貨三枚で買われた恩は返す、あたしはご主人のモノ」

 羨ましいだろうと言わんばかりに胸を張り、事実ながらも誤解しか生まない台詞セリフを並べた人狼娘のせいで、妹の後ろにひかえるクレアの視線が鋭く細められてしまう。

 彼女の脳内では端的な情報にもとづき、ろくでもない補完がされているようだ。

「念のため、聞いておくが……」
「皆まで言うな、益体のない妄想に付き合うのは不毛だ」

「身分こそ奴隷ですけど、無碍むげにされてないのは司祭の私が保証します」
「最初から保護目的の買い取りだし、現状は甘々だよね」

 包み隠さずに日々の餌付けや、よく一緒のベッドで眠ることまで幼馴染の二人フィア & リィナに教えられて、今度は違った意味で冷ややかな表情を向けられる。

 その一方で実家を離れて以来、触れ合いが極度に少ないディアは眉根を寄せて、ねたましそうに人狼の少女を眺めていた。

「…… 兄様、今夜は部屋にお伺うかがいしても?」
「やめてくれ、クレアの眼つきが物騒になっている」

 綺麗な花にまとわりつく害虫の扱いは御免被ごめんこうむりたいので、様々なリスクを瞬時に勘案した上で即断するも、さびしげに妹のまぶたが伏せられる。

 やや気まずい空気がただよう中で、軽く左脇腹を小突かれて一瞥いちべつすれば、どや顔のリィナが視界の真ん中に飛び込んできた。

(ッ、あれを此処ここで使えと?)

 帰省の前日、半人造の少女ハーフホムンクルスうながされるまま市街地へ繰り出して、瀟洒しょうしゃな雑貨屋で買わされた手土産の木櫛きぐしふところから取り出す。

 その片隅へ開いた穿孔せんこうを通る革ひもにて、小さな木彫りの子犬がくくり付けられた逸品いっぴんであり、所々に肉球をモチーフとする焼印もほどこされていた。

我儘わがままを聞けない代わりと言ってはなんだが、王都で珍しいくしを見つけてな……」
「ふぁ、可愛い… ありがとう、兄様!!」

「ん、一件落着かな?  女の子なんて現金な生き物だからね」
「いや、お嬢を修道院育ちの私達と同類にされても困る」

 孤児なら普遍的に持つ “もらえる物はもらっておけ” の精神を思い出したのか、自嘲じちょう混じりの苦笑など浮かべたクレアが悪友の言葉をいさめ、行儀見習いの同僚に仕込まれた心構えをく。

 冒険者三人娘の一角だった頃、女の子らしい立ち位置に憧れていたのを思うと、当家でのメイド仕事は性分に合っているのかもしれない。

 いまだに雑多な言葉づかいはさておき、淑女レディたらんと努力する元槍術士を前にして、そんな他愛の無い考えを胸裏に抱いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎
ファンタジー
 前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。  これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。 ※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します ※本作品は他サイト様でも同時掲載しております ※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ) ※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい

夢見望
ファンタジー
 レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

処理中です...