悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

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第1話

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 昏い森の奥で茫然とたたずみ、慙愧ざんきの念を込めて呟く。

「腹違いとはいえ、血を分けた兄弟達だ。皇位継承の争いはしても、本気で死んで欲しいなんて、一度も思ったことはない。当然、付き従ってくれた者達もな……」

 個々の思惑は人それぞれ自由であるため、俺を次代のみかどに仕立てようとした母方の縁者や、そそのかされて挙兵した一部の欲深い氏族らにも遺恨はない。

 絶え間なく沸き上がるいきどおりは無能で身のたけを知らない、彼らの傀儡にすらなってやれなかった、愚かな自身に向けたものだ。

 幼い頃より甘やかされて育ち、したる努力もなしに怠惰な日々を過ごしていたにもかかわらず、自信過剰で何も現実が見えてなかった。

 その結果、自身を神輿みこしにして引き起こされた内乱で実兄を自害に追い込み、懐いてくれていた腹違いの弟に討たれようとしている。後悔したところで全てが遅い。

「ッ、う… ま、また酷い顔になってますよ、みや様……」

 必死に抱き留めた腕の中、樹々の合間より飛来した数本の矢を胸に受けて吐血しながら、最後まで共にいてくれた傍付そばつきの娘がこちらの頬に手を伸ばして… 血塗れなのに気付き、触れる寸前で躊躇ためらう。

 今更なにを遠慮する必要があるのかと、頬を押し当てれば見目みめが良かったという理由だけで、かつて下層民の中から拾い上げた彼女は息苦しそうに微笑んだ。

「私は… 貴方の気まぐれで随分ずいぶん、振り回されましたけど…… 多分、幸せでした」
「…… こんな終わり方でもか?」

「はい、次があるなら、もう、い、ち…………」

 つむごうとした言葉の途中で事切れて重くなった肢体を片手で支え、ゆっくりと見開いた彼女のまぶたを閉じさせた後、律儀にも主従のり取りを遠巻きに待っていた敵方の陰陽師や武士、その麾下きかにある雑兵達と向き合う。

「御同行を願えますか、二ノ宮」
「黙れ下郎、貴様らの思い通りになってやる気はない」

 多くの一族郎党や臣民を死なせた上、無様に生き恥をさらすつもりもないため、懐から取り出した護身用の短刀にて、無造作に己の喉笛を掻き切っていく。

 言わずもがな当然の如く痛いし、苦しい、口の中が血の味しかしない。

 憐れみなど、様々な感情の籠った視線が突き刺さる状況で死にぎわの見栄を張り、狼狽ろうばいする武士達の頭目とうもくに向けて、不敵に口端を吊り上げてやる。

 わずか数十秒ほど激痛を我慢すると感覚が鈍くなり、早くも意識は暗転し始めて自重を支えることができず、俺は傍付そばつきの娘を抱えたまま前のめりにたおれた。

……………
………



 らと、現世ではない何処か、人類に共通した普遍的無意識アーキタイプが醸成される深層にて、魂だけの状態で|根源たるマナの流れに身を任せること幾星霜……

 と言ってみても、時間の経過なんて定かではないが、おりに触れて茫洋とした意識で自身の生涯を省みる。

(覚悟が足りない、熱量が足りない、修練が足りない、知識が足りない、教養が足りない、思慮が足りない、優しさが足りない、感謝が足りない、無いもの尽くしだな)

 それでも国の第二皇子という立場だったので、望めば他人の物だろうと容易たやすく手に入った。こうして振り返れば、ありきたりな権力を振りかざし、非道な行いをしてきたものだ。

 生来の環境に溺れた挙句あげく、長々と視野狭窄に陥っていたようだが、周囲に漂う魂らしきものと触れ合うことで生じた “誰かの人生の疑似体験” を通して、ようやく客観的なモノの見方が可能となる。

 海を越えた先にある華国かこくでいう “邯鄲かんたんの夢” の中、俺は気狂いの賢者や、名もなき異国の英雄、飢えて土を喰いながら死ぬ農民、欲望に塗れた愛を知らぬ商人、幼くして親に殺される子供となり、その生涯を終えていく。

 延々と流れ込む “他我” に揉み洗われ続け、長い時間を掛けて徐々に “自我” が漂白されていくも…… 仮に輪廻転生の仏教的な思想が正鵠せいこくを射ており、次の人生があるなら二度も同じてつを踏むわけにいかない。

(こんな愚者のせいで、運命を歪めてしまった皆のためにも、な……)

 何某なにがしかの強制力で散逸さんいつさせられる思考を必死に搔き集め、無知蒙昧さ故のとが依代よりしろとする事で、最低限の自己同一性アイデンティティを維持している内に意識は眩いばかりの光に染められていった。
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