40 / 155
第40話
しおりを挟む
仄暗い森の中で時折に現れる遺物、異界の言語が刻まれた石柱群などを眺めて、次元融合の作用で地図上の面積より広い浸食領域を進むこと半刻……
いまだ普通の野生動物にしか出遭っていないため、こんなものかと拍子抜けしていると、地図片手に先頭をいく斥候の娘が歩速を緩めて止まった。
「さっきから、微かにだけど翅音とか聞こえない?」
「ふむ、ぎりぎりの及第点とは言えるな……」
呆れたような我が師、サイアスの言葉で緊迫感が跳ね上がった直後、四方八方の木陰より不協和音が鳴り響き、僅か数メートルの距離まで俺達に忍び寄っていた拳大の蜂が何匹も突撃してくる。
「ッ、軍隊蜂か!?」
「刺されないよう、注意してください!」
咄嗟に為されたフィアの警告を聞き流して、互いの動きを妨げないように散開しつつ、連続的に迫る二匹の大蜂を左右の拳打で叩き潰せば、黒い体液が飛び散った。
さらに死角から襲ってくる伏兵の蜂も翅音で捉え、身体を旋回させての裏拳で斃したが、如何せん大蜂の数が多い。
「うぐ、小さくて槍が当たらない!」
「熱ッ、刺されたんだけど!!」
敏捷性を重視した装いで、薄着になっている部分を狙われたのか、切れ気味なリィナの怒声が鼓膜を打つ。
幸いなことに軍隊蜂は魔素の影響で肉食化した “クマバチ” が原種となっており、獲物を賽子状の肉塊に割断する強靭な顎と牙はあっても、針のある雌は半数のみで毒性も低いのが救いだ。
ただ、膜翅目の例に漏れず、数分後に過剰な身体反応が起こる可能性は否定できないため、こちらと同じく大蜂を相手取りながらもフィアが幼馴染に近寄り、免疫系の抑制効果がある “不活性化” と思しき治癒魔法を施す。
(地母神派の侍祭だけあって、手馴れている)
蜂毒などの被害は森林部だけでなく市街地でも頻繁に発生するので、全身症状を起こして教会に運ばれる住民も少なくない。
手当が遅れた場合、死に至る危険性を熟知していることから、動きの合間に歴史の中で培われた対処術式を組んでいたのだろう。
それを可能にする動体視力や体捌きはマナ制御の賜物だが、元々の素養がある聖職者とはいえ、短期間で身につけているのは大したものだ。
深く感心する一方で、ひとり軍隊蜂の包囲網を抜け、外縁で捕まえた魔蟲を投げてくるサイアスには苛立ちしか覚えない。
「ギィイッ!!」
空中で体勢を整えた大蜂が怒り、眼前の俺に毒針を突き刺そうとするも、真横から右拳のフックで弾き飛ばして仕留める。
さらに次々と周囲へ投擲されて襲い掛かってきた数匹も、そのサイズと素早さに応じて選んだ徒手空拳を振るい、八つ当たりのように撃墜した。
「せめて大人しくできないのか、馬鹿師匠!!」
「失敬な… 弟子の成長を願う親心、分からないとは嘆かわしい」
そう嘯いて悲嘆するどころか、口端に笑みを浮かべているあたり、まったく以って腹立たしい限りである。
いまだ普通の野生動物にしか出遭っていないため、こんなものかと拍子抜けしていると、地図片手に先頭をいく斥候の娘が歩速を緩めて止まった。
「さっきから、微かにだけど翅音とか聞こえない?」
「ふむ、ぎりぎりの及第点とは言えるな……」
呆れたような我が師、サイアスの言葉で緊迫感が跳ね上がった直後、四方八方の木陰より不協和音が鳴り響き、僅か数メートルの距離まで俺達に忍び寄っていた拳大の蜂が何匹も突撃してくる。
「ッ、軍隊蜂か!?」
「刺されないよう、注意してください!」
咄嗟に為されたフィアの警告を聞き流して、互いの動きを妨げないように散開しつつ、連続的に迫る二匹の大蜂を左右の拳打で叩き潰せば、黒い体液が飛び散った。
さらに死角から襲ってくる伏兵の蜂も翅音で捉え、身体を旋回させての裏拳で斃したが、如何せん大蜂の数が多い。
「うぐ、小さくて槍が当たらない!」
「熱ッ、刺されたんだけど!!」
敏捷性を重視した装いで、薄着になっている部分を狙われたのか、切れ気味なリィナの怒声が鼓膜を打つ。
幸いなことに軍隊蜂は魔素の影響で肉食化した “クマバチ” が原種となっており、獲物を賽子状の肉塊に割断する強靭な顎と牙はあっても、針のある雌は半数のみで毒性も低いのが救いだ。
ただ、膜翅目の例に漏れず、数分後に過剰な身体反応が起こる可能性は否定できないため、こちらと同じく大蜂を相手取りながらもフィアが幼馴染に近寄り、免疫系の抑制効果がある “不活性化” と思しき治癒魔法を施す。
(地母神派の侍祭だけあって、手馴れている)
蜂毒などの被害は森林部だけでなく市街地でも頻繁に発生するので、全身症状を起こして教会に運ばれる住民も少なくない。
手当が遅れた場合、死に至る危険性を熟知していることから、動きの合間に歴史の中で培われた対処術式を組んでいたのだろう。
それを可能にする動体視力や体捌きはマナ制御の賜物だが、元々の素養がある聖職者とはいえ、短期間で身につけているのは大したものだ。
深く感心する一方で、ひとり軍隊蜂の包囲網を抜け、外縁で捕まえた魔蟲を投げてくるサイアスには苛立ちしか覚えない。
「ギィイッ!!」
空中で体勢を整えた大蜂が怒り、眼前の俺に毒針を突き刺そうとするも、真横から右拳のフックで弾き飛ばして仕留める。
さらに次々と周囲へ投擲されて襲い掛かってきた数匹も、そのサイズと素早さに応じて選んだ徒手空拳を振るい、八つ当たりのように撃墜した。
「せめて大人しくできないのか、馬鹿師匠!!」
「失敬な… 弟子の成長を願う親心、分からないとは嘆かわしい」
そう嘯いて悲嘆するどころか、口端に笑みを浮かべているあたり、まったく以って腹立たしい限りである。
84
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる