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第57話
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「人の身体に於ける水の割合は約60%、命の源とはよく言ったものだが……」
『ルルイエ異本』より得た “海を起源とする生物” の知識によれば、他にも炭素、水素、窒素、カルシウム、リン、カリウムという物質が入り混じっているらしい。
それらは森の土壌にも含まれており、降雨を通じて地下水脈に溶けているようなので、空間魔法と水魔法を組み合わせた際に一手間加えて、諸々の元素を濃縮しながら手元の水球へ取り込ませた。
さらに無機物のみで人体錬成を成功させるのは敷居が高いため、ふわりと浮かぶ水球に酸性を持たせて先ほど投じた端肉を溶かし、幾ばくかの体細胞も手に入れる。
“生命のスープ” と言うべき、仄かな赤みのある液状球体になったところで、大気中のマナも存分に吸収させて、すべての下拵えを終えた。
「少しだけ場所を開けてくれ、フィア」
「…… 些か、外法の類に見えますけど、致し方ありません」
地母神派の教会でも人造生命に纏わる規制は多いことから、侍祭の娘が疑惑の視線を向けてきたものの、清濁併せ吞むような感じで聖光の灯った両手を遠ざける。
すぐさま意識のないリイナの欠損部に薄赤い球体を押し当てれば、新陳代謝を促す治癒魔法の影響で内包された細胞が増殖し始めて、液色を真紅に近づけていった。
「私の魔法に反応してる?」
皆が息を飲んで見守る中、被術者の魂魄に刻まれた種としての設計図に従い、失われた臓器の一部や血管が徐々に修復されていく。
その一方で聖魔法の術式を維持する負担も増えたのか、汗で黄金色の前髪を額に張り付けたフィアの顔色は悪くなっていた。
見兼ねた槍術士の娘が彼女の荷物から、マナ回復薬を取り出して瓶の蓋も開け、やや強引に飲ませる。
「うぅ、お腹が……」
「…… 頑張ってくれ、としか言えないな」
既にかなりの量を摂取しているようで、今度は別の意味で苦しそうな侍祭の娘を励ましつつ、自身も同様の薬液をがぶ飲みすること数本、どうにかリィナの肉体が元の姿形を取り戻した。
時折、呻き声など上げる半人造の存在となった斥候の娘を見遣り、容態の安定を確かめて一息吐く。
「取り敢えず、命は取り留めたな」
「暫くは宿屋で寝たきりでしょうけどね」
「ありがとう、二人とも!!」
「「ぐぇ!?」」
感極まったクレアが両腕を広げ、不意討ち気味に抱き着いてきたせいで、思わず変な声が漏れてしまう。
突然のハグより逃れて人心地着けば鈍色の籠手が魔導書に戻り、空いている左手の掌に収まったので、何やら考え込んでいる様子のサイアスを窺った。
「まぁ、及第点だな、それはお前が責任を持って管理しろ」
「いいのか、探していたんだろう?」
「構わんさ、私からの餞別だ」
さりげなく告げられた言葉で別れの気配を察するが、ここでは触れずに捨て置き、学べることを取り零さないようにだけ心掛けておく。
色々と考えるべき事柄は多くとも、軽々とリィナを担いで歩き出した師に続き、ひとまずは星拝の祭壇から離れて、迎撃都市への帰路に就いた。
『ルルイエ異本』より得た “海を起源とする生物” の知識によれば、他にも炭素、水素、窒素、カルシウム、リン、カリウムという物質が入り混じっているらしい。
それらは森の土壌にも含まれており、降雨を通じて地下水脈に溶けているようなので、空間魔法と水魔法を組み合わせた際に一手間加えて、諸々の元素を濃縮しながら手元の水球へ取り込ませた。
さらに無機物のみで人体錬成を成功させるのは敷居が高いため、ふわりと浮かぶ水球に酸性を持たせて先ほど投じた端肉を溶かし、幾ばくかの体細胞も手に入れる。
“生命のスープ” と言うべき、仄かな赤みのある液状球体になったところで、大気中のマナも存分に吸収させて、すべての下拵えを終えた。
「少しだけ場所を開けてくれ、フィア」
「…… 些か、外法の類に見えますけど、致し方ありません」
地母神派の教会でも人造生命に纏わる規制は多いことから、侍祭の娘が疑惑の視線を向けてきたものの、清濁併せ吞むような感じで聖光の灯った両手を遠ざける。
すぐさま意識のないリイナの欠損部に薄赤い球体を押し当てれば、新陳代謝を促す治癒魔法の影響で内包された細胞が増殖し始めて、液色を真紅に近づけていった。
「私の魔法に反応してる?」
皆が息を飲んで見守る中、被術者の魂魄に刻まれた種としての設計図に従い、失われた臓器の一部や血管が徐々に修復されていく。
その一方で聖魔法の術式を維持する負担も増えたのか、汗で黄金色の前髪を額に張り付けたフィアの顔色は悪くなっていた。
見兼ねた槍術士の娘が彼女の荷物から、マナ回復薬を取り出して瓶の蓋も開け、やや強引に飲ませる。
「うぅ、お腹が……」
「…… 頑張ってくれ、としか言えないな」
既にかなりの量を摂取しているようで、今度は別の意味で苦しそうな侍祭の娘を励ましつつ、自身も同様の薬液をがぶ飲みすること数本、どうにかリィナの肉体が元の姿形を取り戻した。
時折、呻き声など上げる半人造の存在となった斥候の娘を見遣り、容態の安定を確かめて一息吐く。
「取り敢えず、命は取り留めたな」
「暫くは宿屋で寝たきりでしょうけどね」
「ありがとう、二人とも!!」
「「ぐぇ!?」」
感極まったクレアが両腕を広げ、不意討ち気味に抱き着いてきたせいで、思わず変な声が漏れてしまう。
突然のハグより逃れて人心地着けば鈍色の籠手が魔導書に戻り、空いている左手の掌に収まったので、何やら考え込んでいる様子のサイアスを窺った。
「まぁ、及第点だな、それはお前が責任を持って管理しろ」
「いいのか、探していたんだろう?」
「構わんさ、私からの餞別だ」
さりげなく告げられた言葉で別れの気配を察するが、ここでは触れずに捨て置き、学べることを取り零さないようにだけ心掛けておく。
色々と考えるべき事柄は多くとも、軽々とリィナを担いで歩き出した師に続き、ひとまずは星拝の祭壇から離れて、迎撃都市への帰路に就いた。
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