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第82話 ~とある半人造少女の視点④~
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僅かに遡ること暫し……
初手より一瞬も止まらず、流れるような動きで襲撃者らの形骸化を済ませた私はひと息吐き、ダーリンに鍛えて貰った呪錬の双短剣を掌中に収めたまま、“槍の乙女” と呼称される幼馴染の後ろ姿を眺めていた。
「ん~、護衛役が茫然自失になるのも、当然かな?」
肉体を賦活させる聖魔法と強化系の相性が良いのに加えて、マナ制御に係る天与の才もあったのか、ただの横撃で武装した男二人を数メートルも弾き飛ばしている。
その戦闘力に偽りはなくとも、最小限のリスクで確実に生き残るため、基本的に鉄火場では躊躇いなく命を奪う自身と違って、地母神派の司祭故に甘さを捨て切れないのが好ましくも疎ましい。
(殺意には殺意を以って返すべき、なんだけどね)
個々の理由や経緯はどうあれ、我欲で人を殺めようとする不埒者は生きていても罪を重ねるだけ。
女子修道院の育ちなので、人権的な平等性を否定する気はないが、だからこそ軽々に殺し合いを仕掛けてくる人間など百害あって一利なし。
ただ、正当防衛が罷り通る状況なら、忌憚なく殺しても構わないのかと言えば否だろう、殺人鬼の輩になるつもりはない。
「“早々に結論づけず、背負っていくものだ” か……」
妙に悟っている想い人の苦言を呟き、心優しい司祭の娘に代わって一人分だけ多く受け持ってやろうと、成熟が極端に遅くなった自身よりも大きい彼女の背中に隠れて、敵味方の動向に傾注しながら緩りと歩を進めていく。
「…… 聞くだけ無駄でしょうけど、どなた様の差し金ですか?」
「さぁな、俺も聞いたらヤバそうだったから、確認はしなかった」
結構な額を前金で貰っているし、深入りしないのは荒事家業の礼儀だと間者の男は嘯いて、“慈善行為の皮を被った経済的な調略が恨みを買ってるんだよ” と、皮肉混じりの言葉をフィアに向けた。
少なくない焦りはあるが、いまだ相手の声には余裕も感じられる。
「ぱっと思いつく範囲なら都市ごと行政区を失った共和国の総督府、それを隠れ蓑にしたグラシア王国に反感を持つ連中、教皇派の過激組織あたりか?」
「うぅ、否定できないのが悔しい」
「ははっ、大変だな、あんたらもさ!!」
突然の大声に反応して覗き見ると、襲撃犯の頭目は腰元の革製ホルダーに手を伸ばして、掌に収まる黒鉄製のグリップ付き短筒を引き抜いた。
「ッ、自動式拳銃!?」
先史文明の中でも古い時代の遺物、使用可能な状態で発掘されることもある特殊兵装の名をフィアが叫んだ直後、二発分の雷鳴が狭い通りに響き渡る。
即時展開できる小さな魔法障壁の燐光を連続的に生じさせつつ、惜しげもない大股開きで彼女が片手を地に突いて屈めば、初弾は二重の浮遊障壁に阻まれたものの、次弾が貫通して頭上を越えた。
初手より一瞬も止まらず、流れるような動きで襲撃者らの形骸化を済ませた私はひと息吐き、ダーリンに鍛えて貰った呪錬の双短剣を掌中に収めたまま、“槍の乙女” と呼称される幼馴染の後ろ姿を眺めていた。
「ん~、護衛役が茫然自失になるのも、当然かな?」
肉体を賦活させる聖魔法と強化系の相性が良いのに加えて、マナ制御に係る天与の才もあったのか、ただの横撃で武装した男二人を数メートルも弾き飛ばしている。
その戦闘力に偽りはなくとも、最小限のリスクで確実に生き残るため、基本的に鉄火場では躊躇いなく命を奪う自身と違って、地母神派の司祭故に甘さを捨て切れないのが好ましくも疎ましい。
(殺意には殺意を以って返すべき、なんだけどね)
個々の理由や経緯はどうあれ、我欲で人を殺めようとする不埒者は生きていても罪を重ねるだけ。
女子修道院の育ちなので、人権的な平等性を否定する気はないが、だからこそ軽々に殺し合いを仕掛けてくる人間など百害あって一利なし。
ただ、正当防衛が罷り通る状況なら、忌憚なく殺しても構わないのかと言えば否だろう、殺人鬼の輩になるつもりはない。
「“早々に結論づけず、背負っていくものだ” か……」
妙に悟っている想い人の苦言を呟き、心優しい司祭の娘に代わって一人分だけ多く受け持ってやろうと、成熟が極端に遅くなった自身よりも大きい彼女の背中に隠れて、敵味方の動向に傾注しながら緩りと歩を進めていく。
「…… 聞くだけ無駄でしょうけど、どなた様の差し金ですか?」
「さぁな、俺も聞いたらヤバそうだったから、確認はしなかった」
結構な額を前金で貰っているし、深入りしないのは荒事家業の礼儀だと間者の男は嘯いて、“慈善行為の皮を被った経済的な調略が恨みを買ってるんだよ” と、皮肉混じりの言葉をフィアに向けた。
少なくない焦りはあるが、いまだ相手の声には余裕も感じられる。
「ぱっと思いつく範囲なら都市ごと行政区を失った共和国の総督府、それを隠れ蓑にしたグラシア王国に反感を持つ連中、教皇派の過激組織あたりか?」
「うぅ、否定できないのが悔しい」
「ははっ、大変だな、あんたらもさ!!」
突然の大声に反応して覗き見ると、襲撃犯の頭目は腰元の革製ホルダーに手を伸ばして、掌に収まる黒鉄製のグリップ付き短筒を引き抜いた。
「ッ、自動式拳銃!?」
先史文明の中でも古い時代の遺物、使用可能な状態で発掘されることもある特殊兵装の名をフィアが叫んだ直後、二発分の雷鳴が狭い通りに響き渡る。
即時展開できる小さな魔法障壁の燐光を連続的に生じさせつつ、惜しげもない大股開きで彼女が片手を地に突いて屈めば、初弾は二重の浮遊障壁に阻まれたものの、次弾が貫通して頭上を越えた。
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