113 / 155
第113話
しおりを挟む
なお、想定外の遭遇に手を取られた結果、食材など扱う市場の者達も店仕舞いを終える時間帯になってしまい、修道院仕込みのクリームシチューをフィアに振る舞ってもらう話が流れ、目端に留まった小さな食堂へ吸い込まれる。
そこで腹拵えを済ませた帰り道、料理の味が好みだったようで調子よさげに聖歌の旋律を口遊みながら、数歩ほど前を歩いていたリィナがくるりと反転して、琥珀色の瞳を向けてきた。
「さっき、公子の御一行にしてた助言、大丈夫なの?」
「あぁ、昏睡事件が速やかに解決するなら、誰の手であっても構わないさ」
多分、聖マリア教会の大司教殿も同様だと、簡潔に言い添えて司祭の娘を見遣れば、にこにこ顔で我が意を得たりと何度も頷く。
「ふふっ、流石です、分かっていますね。我々、地母神派の本懐は救いの手を差し伸べることであって、賞賛や喝采を求めることではありません」
「でも、それを徹底し過ぎると寄進が減って、私達の育った女子修道院も潰れるわね。綺麗ごとだけで喰っていけないの、あんたも知ってるじゃない」
幼少の砌、秋の収穫祭で供された御菓子に色めき立ち、孤児の皆で奪い合ったのを思い出しなさいと半人造の少女が呆れるも、涼しげな顔でフィアは微笑んだ。
ただし、目元は笑っておらず、何らかの理不尽な想いを堪えている。
「えぇ、覚えていますよ、南瓜のタルトを幼馴染に掠め盗られたこと」
「ごめん、普通に忘れてたわ」
「…… 奔放だな、今も昔も」
胡乱な視線を投げると理想論に反駁し損ねた上、見事に切り返されたリィナは気まずそうな表情で身体の向きを変えて、逃げるように足を進めていく。
溜息交じりに追随する司祭の娘に速度を合わせて、月明かりが照らす夜道を暫く歩けば、今度は隣から外套の裾を軽く引っ張られた。
「明日以降の話ですけど、私達も幽世の夜鬼とやらの探索と討伐を?」
「いや、それは第一王子らと教皇派の連中に任せる」
市井に潜む怪異の排除は当てが外れた時の保険であり、もう少し効率的な解決法を考えていると伝えて、海都の魔導書『ルルイエ異本』を手元に顕現させる。
これ単体で成せる儀式とは言えず、幾つか水属性の鉱石も使う羽目になるが、余裕ぶってあくどい表情など作ると、心配そうに柳眉を顰められてしまった。
「夷を以て夷を制す、また蕃神の外法ですか……」
「御せるか否かは呪物の遣い手次第だろう」
眇めたジト目で見詰めてくるフィアに怯まず、任せておけと見得を切った次の日は準備に費やし、武装も整えて俺達が赴いたのは地下隧道に通じる入口のひとつ。
その先に続くのは浸食領域の第一及び第二層であり、大昔に安全を確保して造られた上下水道が各所に張り巡らされ、王都に暮らす約十万人の生活を支えていた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
よくファンタジーでの時代背景に使われる中世の都市人口を鑑みるに、長らくの間に於いて最大規模を誇るロンドン、パリが20~40万ほどだったと記憶しています。
各国の首都あたりの人口は10万人前後が妥当かと思う次第です。
そこで腹拵えを済ませた帰り道、料理の味が好みだったようで調子よさげに聖歌の旋律を口遊みながら、数歩ほど前を歩いていたリィナがくるりと反転して、琥珀色の瞳を向けてきた。
「さっき、公子の御一行にしてた助言、大丈夫なの?」
「あぁ、昏睡事件が速やかに解決するなら、誰の手であっても構わないさ」
多分、聖マリア教会の大司教殿も同様だと、簡潔に言い添えて司祭の娘を見遣れば、にこにこ顔で我が意を得たりと何度も頷く。
「ふふっ、流石です、分かっていますね。我々、地母神派の本懐は救いの手を差し伸べることであって、賞賛や喝采を求めることではありません」
「でも、それを徹底し過ぎると寄進が減って、私達の育った女子修道院も潰れるわね。綺麗ごとだけで喰っていけないの、あんたも知ってるじゃない」
幼少の砌、秋の収穫祭で供された御菓子に色めき立ち、孤児の皆で奪い合ったのを思い出しなさいと半人造の少女が呆れるも、涼しげな顔でフィアは微笑んだ。
ただし、目元は笑っておらず、何らかの理不尽な想いを堪えている。
「えぇ、覚えていますよ、南瓜のタルトを幼馴染に掠め盗られたこと」
「ごめん、普通に忘れてたわ」
「…… 奔放だな、今も昔も」
胡乱な視線を投げると理想論に反駁し損ねた上、見事に切り返されたリィナは気まずそうな表情で身体の向きを変えて、逃げるように足を進めていく。
溜息交じりに追随する司祭の娘に速度を合わせて、月明かりが照らす夜道を暫く歩けば、今度は隣から外套の裾を軽く引っ張られた。
「明日以降の話ですけど、私達も幽世の夜鬼とやらの探索と討伐を?」
「いや、それは第一王子らと教皇派の連中に任せる」
市井に潜む怪異の排除は当てが外れた時の保険であり、もう少し効率的な解決法を考えていると伝えて、海都の魔導書『ルルイエ異本』を手元に顕現させる。
これ単体で成せる儀式とは言えず、幾つか水属性の鉱石も使う羽目になるが、余裕ぶってあくどい表情など作ると、心配そうに柳眉を顰められてしまった。
「夷を以て夷を制す、また蕃神の外法ですか……」
「御せるか否かは呪物の遣い手次第だろう」
眇めたジト目で見詰めてくるフィアに怯まず、任せておけと見得を切った次の日は準備に費やし、武装も整えて俺達が赴いたのは地下隧道に通じる入口のひとつ。
その先に続くのは浸食領域の第一及び第二層であり、大昔に安全を確保して造られた上下水道が各所に張り巡らされ、王都に暮らす約十万人の生活を支えていた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
よくファンタジーでの時代背景に使われる中世の都市人口を鑑みるに、長らくの間に於いて最大規模を誇るロンドン、パリが20~40万ほどだったと記憶しています。
各国の首都あたりの人口は10万人前後が妥当かと思う次第です。
31
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる