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第112話
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「うぅ、身体だるいし、気持ち悪い… って、誰?」
「通りすがりの司祭です。あ、すぐに起きようとしたら危ないかも?」
老婆心で漏れ出たフィアの緩い忠告を聞かず、上半身を起こしたセリカは続けて立ち上がろうとするものの、バランスを損なって転倒しかける。
それを見越していたらしく、支えようとした第一王子ルベルトの機先を制する形で普公派の騎士が動き、そっと猫娘の身体を支えて寄り添った。
「… 獣人のこと嫌いじゃないの?」
「ふん、勘違いするな、私は物事を分けて判断する主義だ」
曰く、この世界に侵食領域の球門を通じて各氏族が顕れた折、只人に蛮行を働いて戦争になった経緯から獣人全般は好きではないが、友諠を結んだ個々の者達まで毛嫌いするつもりは無いと。
総論反対、各論賛成という一通りの話を聞いた双子の姉妹は、其々に何とも言えない、神妙な表情になった。
「結構、セルムスって難儀な性格だったんだ」
「普公教会の歪んだ歴史観には異論があるけど、ここで論破するのもね……」
ちらりと、こちらの様子を窺う姉に促されて頃合いと見たフィアが頷き、魂魄の深い部分に刻まれた呪いは解けておらず、いつマナの再収奪が行われてもおかしくない旨を伝える。
身内の被害者入りが確定した猫虎人は片手で顔を覆い、やや重めの溜息を吐いた。
「昏睡事件を解決すべき理由、一つ増えたわ」
「うぐっ、ごめんね、リア姉」
小さく呻いて凹んだ猫娘に触発され、憐れみを覚えた俺は多少の打算など込めて、誰に聞かせるでもなく独り言を漏らす。
「…… 仮に事件の首謀者がいる場合、今暫くの主目的はマナの集積と思しいが、手駒の夜鬼を顕現させるにも、多大なマナが費やされているはずだ」
「ん~、ダーリンの言いたいこと分かったかも、嫌がらせのように片っ端から、その手足を潰せば良いんだよね?」
聡い半人造の少女が身を寄せ、褒めろと頭を突き出してくるので、条件反射的に綺麗な白藤色の髪を梳いて撫ぜながら、彼女の耳元に顔を寄せて正解だと囁いた。
その振る舞いで皆の視線が痛くなったのに気づき、姿勢を糺して締め括る。
「恐らく妨害を続ければ、呪いの大元も襤褸を出すだろう」
「と、うちのジェオ君が申しております」
僅かに重くなった空気を読み、微笑した司祭の娘が合いの手を入れるも、表情を硬くした相手方は黙り込み、十秒足らずの沈黙が場に訪れてしまう。
少しの間を置いて、第一王子たる銀髪の優男が “困ったものだ” と嘆いた。
「あれを仕留めるには戦力が足りない、そちらに協力を願い出ても?」
「ルベルト様、彼らと組むのは構いませんが、グラシアの地母神派は王権が罷り通る国教会の傘下、教皇を慕う諸派の御歴々は “槍の乙女” 殿に難癖を付けてきますよ」
取り急ぎ悪魔祓いを手配するので、再考して欲しいと普公派の騎士が言い募るのを眺めつつ、大枠である国王派と教皇派に別れて相争う、王都の現状について図らずも見聞を深める。
最終的には後ろ盾のご機嫌を優先したのか、こちらの取り込みを諦めた公子に見送られて、家屋の明かりが点き始める表通りへ出た。
「通りすがりの司祭です。あ、すぐに起きようとしたら危ないかも?」
老婆心で漏れ出たフィアの緩い忠告を聞かず、上半身を起こしたセリカは続けて立ち上がろうとするものの、バランスを損なって転倒しかける。
それを見越していたらしく、支えようとした第一王子ルベルトの機先を制する形で普公派の騎士が動き、そっと猫娘の身体を支えて寄り添った。
「… 獣人のこと嫌いじゃないの?」
「ふん、勘違いするな、私は物事を分けて判断する主義だ」
曰く、この世界に侵食領域の球門を通じて各氏族が顕れた折、只人に蛮行を働いて戦争になった経緯から獣人全般は好きではないが、友諠を結んだ個々の者達まで毛嫌いするつもりは無いと。
総論反対、各論賛成という一通りの話を聞いた双子の姉妹は、其々に何とも言えない、神妙な表情になった。
「結構、セルムスって難儀な性格だったんだ」
「普公教会の歪んだ歴史観には異論があるけど、ここで論破するのもね……」
ちらりと、こちらの様子を窺う姉に促されて頃合いと見たフィアが頷き、魂魄の深い部分に刻まれた呪いは解けておらず、いつマナの再収奪が行われてもおかしくない旨を伝える。
身内の被害者入りが確定した猫虎人は片手で顔を覆い、やや重めの溜息を吐いた。
「昏睡事件を解決すべき理由、一つ増えたわ」
「うぐっ、ごめんね、リア姉」
小さく呻いて凹んだ猫娘に触発され、憐れみを覚えた俺は多少の打算など込めて、誰に聞かせるでもなく独り言を漏らす。
「…… 仮に事件の首謀者がいる場合、今暫くの主目的はマナの集積と思しいが、手駒の夜鬼を顕現させるにも、多大なマナが費やされているはずだ」
「ん~、ダーリンの言いたいこと分かったかも、嫌がらせのように片っ端から、その手足を潰せば良いんだよね?」
聡い半人造の少女が身を寄せ、褒めろと頭を突き出してくるので、条件反射的に綺麗な白藤色の髪を梳いて撫ぜながら、彼女の耳元に顔を寄せて正解だと囁いた。
その振る舞いで皆の視線が痛くなったのに気づき、姿勢を糺して締め括る。
「恐らく妨害を続ければ、呪いの大元も襤褸を出すだろう」
「と、うちのジェオ君が申しております」
僅かに重くなった空気を読み、微笑した司祭の娘が合いの手を入れるも、表情を硬くした相手方は黙り込み、十秒足らずの沈黙が場に訪れてしまう。
少しの間を置いて、第一王子たる銀髪の優男が “困ったものだ” と嘆いた。
「あれを仕留めるには戦力が足りない、そちらに協力を願い出ても?」
「ルベルト様、彼らと組むのは構いませんが、グラシアの地母神派は王権が罷り通る国教会の傘下、教皇を慕う諸派の御歴々は “槍の乙女” 殿に難癖を付けてきますよ」
取り急ぎ悪魔祓いを手配するので、再考して欲しいと普公派の騎士が言い募るのを眺めつつ、大枠である国王派と教皇派に別れて相争う、王都の現状について図らずも見聞を深める。
最終的には後ろ盾のご機嫌を優先したのか、こちらの取り込みを諦めた公子に見送られて、家屋の明かりが点き始める表通りへ出た。
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