悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba

文字の大きさ
119 / 155

第119話

しおりを挟む
「人為的な鉱床ってところね、他のももらって良い?」
「ぶれない金銭感覚は結構ですけど、話がれていませんか、二人とも」

 現金な性格すぎる幼馴染リィナに絶対零度の視線を投げつつ、すぐにでも半死半生な人狼の少女をいやさせろと司祭の娘が言外の圧力を掛けてくる。

 ただ、結論から言うと吸命の錬成陣が健在な限り、注いだ魔力もすべてマナに還元されて奪われるため、現状では徒労に終わることだろう。

「では、どうしろと?」

 まだ救えそうな命を諦めるなど、なさけ深いフィアの選択肢には無いようで… 大まかな見識を述べると、豊かな胸を揺らしながらめ寄ってきた。

「一応、相手の出方を待つのも手だが… 伏兵の夜鬼を討った時点で黒幕には雲隠れされる可能性の方が高いな、この錬成陣はいさぎよく破壊しよう」

 それと同時に少女を生き長らえさせている効果も消し飛ぶので、治癒魔法を掛け直せるように伝えてから、領域爆破の魔法で石畳ごと要所を穿うがち、すべての権能を術式から完全に消失させる。

 直後、司祭の娘が聖槍の石突いしづきで地面を叩き、新たに環状法陣を被術者の真下へ顕現けんげんさせて、中途半端に放置されている大小様々な全身の傷をふさいでいった。

「もう生命の危険は無いでしょうけど、これが私の限界ですね」

 手に負えない濁り腐った眼球や、人肉のえぐれた欠損部に表情をしかめて、自身のいたらなさを嘆いたフィアがうながすように見めてくる。

 こういう時は手段を選ばないのかと溜息交じりに一歩進んでひざまずき、外法呼ばわりされることも多い人体錬成をほどこすにあたり、術式解読の際に見つけた邪魔になりそうな異物を取り出すため、少女の口腔こうくうへ右手を突っ込んだ。

「うぇえ、ぁあ!」

 驚いた相手が噛みつき、必死で腕に爪を立ててくるも、軒並のきなみ潰されているのでほどの傷にはならない。

 執拗しつように何度もえずかせて嘔吐おうと反射を引き起こさせると、数回に分けて丸められている胃液塗れの羊皮紙を吐き出した。

「魔導書の断片か、よく頑張ったな」
「うぅ……」

 そっと恨めしそうな涙目で睨む人狼の少女を抱き締め、落ち着くまで獣耳ごと薄汚れて固まった濡れ羽色の髪を撫でる。

 そうして油断させた刹那せつな、隠し持つナイフで傷口をえぐり、切り取った肉片を拝借すれば、凄まじい絶望が込められた表情を向けられてしまった。

 多少の罪悪を感じつつも、直下に広げた魔力波の定位反射で窒素やカリウムなど含んだ地下水脈を探り、空間魔法と水魔法の併用にて諸々もろもろの元素を濃縮させながら、掌上に水球を形作らせる。

 さらに少女の端肉を投じて溶かし込み、大気中のマナも加えて欠損部に押し当てると、見守っていたフィアが聖魔法のヒーリングライトを発動させて、薄赤い水球に内包される体細胞の賦活化ふかつかと増殖を引き起こした。

「このやり方で私の身体もおぎなわれたのね」
「あぁ、他人の体細胞を使うと免疫系の拒絶反応が出るからな」

 意識を集中させる必要性もあって、素っ気なくリィナに答えている間も、少女の魂魄こんぱくに刻まれた設計図にもとづき、失われた筋肉や血管が元通りに復元されていく。

 取りえず、おおよその治療が終わったところで、過去の反省も踏まえて存在を変質させないように施術を止めれば、こちらに疑問符を浮かべるの視線が投げられた。

「ダーリン、腐った眼球と折れた犬歯を忘れてない?」

「完治させるのは行政府の官吏かんりに虐待の跡を見せてからだな、製紙工場で身柄を預かるにしても、公的な手続きを踏まえないと問題になる」

 仕方ないだろうと不服そうなフィアを一瞥いちべつして、口に手を突っ込まれたり、端肉を切除されたりする反面で、優しくもされて混乱中の人狼娘を抱えて立ち上がる。

 両手が使えないこともあり、呪術に用いられていた魔導書の断片とマナ結晶体はリィナに回収を頼み、幾つかの戦利品? を得た俺達は水妖らと合流しつつ、過去に迷宮浅層だった地下空間の出口へ向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです

一色孝太郎
ファンタジー
 前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。  これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。 ※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します ※本作品は他サイト様でも同時掲載しております ※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ) ※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました

神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」 Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。 しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。 彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。 それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。 無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。 【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。 一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。 なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。 これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい

夢見望
ファンタジー
 レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...