《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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06. 七十三年目の真実

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    駅前やモール周辺は酷く混乱していたので、その場を離れるのも一苦労だった。
    帰りはなるべく人通りの少ない道を選び、人との接触を避けるようにして進む。
    駅の方が気になる人が道路にあふれ通行の妨げになっているばかりか、好奇心の強い人は、駅方面から来たであろう人を捕まえて何が起こったか聞いているのでそれを避ける為だ。
    やや遠回りする事になってしまい時間が掛かってしまったが、何とか無事にたどり着いた。

     (あー、疲れたー)

    家に着き、家族全員の無事を確認してようやく落ち着く。
    全員がそれぞれの用事で外出していたのだが、駅方面に居たのは私達だけで皆午前中で用事は済んでいた為、先に帰って来ていた。
    家族は私達の帰りを待っていたのだが、駅を離れて直ぐに家に連絡を入れたので、必要以上に心配をかける事にはならなかったと思う。

    一息ついてテレビを見ると、どの局も空飛ぶ人形の襲撃を特番で報じている。
    テレビで初めて知ったのだが、あの人形が現れたのは私達の居た駅周辺だけで無く、他の駅や繁華街といった人の集まる場所にも出現していた。
    最も、他の場所では人形達の数は十体前後で一定時間暴れ回った後、いつの間にか消えてしまったのだという。

    「んー……    これもダメだな」

    「何がダメなの?」

    おにぃはタブレットでSNSや動画を見ているのだが、その表情はパッとしない。

    「ほら、これ。    投稿された動画だけどさ」

    「何これ?    全然写って無いじゃん    どうなってるの?」

    撮影された動画はピンぼけも良い所で、何が何やらさっぱり分からない。
    全てにモザイクが掛かっていると言った方がわやり易いかもしれないが、どうやらまともに撮れたものは現時点では確認されていないようだ。
    撮影した人は命懸けだったろうからこう言ってしまうと申し訳無いが、はっきり言ってこれは朗報だ。
    まともな映像が残らないなら、ひいばあの正体を知られる可能性はかなり低くなる。
    今は誰でも何処でも自由に動画を撮影出来るし、直ぐにSNSで拡散出来てしまう。
    ひいばあが黒鳥を纏う所など、映えなんてものでは済まされない。

    「淳平、羽音」

    「あっ、お父さん」

    「ひいばあが呼んでる。大事な話があるそうだ」

    大事な話とは何だろうか、私は不安に駆られながらおにぃと共に茶の間に移動する。

    家族全員が集合するが、皆何事だろうかといった表情だ。
    唯一、じぃじだけが神妙な面持ちでひいばあを見つめている。

    「皆集まったわね。    私がこれから話す事は、私とひいじい……。    周平と秘密にしていた私の出自に関する事なの」

    ひいばあの出身は確か秋田だった筈だが違うのだろうか。
    皆がそうだと聞かされている。

    「貴方達が知っている私の生まれは、本当の事を隠す為に周平が考えたものなの。    名前もそう、理音という名も周平が付けてくれたものよ」 

    私はおにぃと、父は母と顔を見合わせるが、じぃじは以前ひいばあを押し黙り見つめている。
    ひいばあは出自と名前を偽っており、それを家族に……息子であるじぃじにさえ黙っていた。
    しかも、協力していたのは他ならぬ夫であるひいじいなのだ。
    何故そんな事をしたのか、皆がひいばあの話に全神経を集中させている。

    「私の本当の名はリーネと言うの」

    (リーネ……)

    「正しくは、ラウの国の首都スレアの出身、国王ナルザの娘リーネ」

    「私の生まれた国では、自身の出身、誰と血縁にあるか又は婚姻しているかや、どんな職業かが名字に当たるの。    これが私の本当の名よ」

    「ラウの国?」

    「国王の娘……ひいばあはお姫様なの?」

    「いや、しかしラウの国なんて聞いた事が無い」

    「そうねぇ、もしかして中央アジア辺りとか?」

    「知らないのも無理はないわ、この世界には存在しない国よ。    ここでは無い他の世界にかつて存在した国なの」

    「この世界じゃない?    うーん……異世界という事か。    しかし、何でばあちゃんは自分の居た世界からここに来たんだい?」 

    「これから話すわ。    全てを」

    かつてひいばあが暮らしていた国は、緑豊かでその恩恵を受けつつも慎ましく生きる民と、それを良く納め賢王と称えられた父の治世により平和の中にあった。
    誰もがこの平穏な暮らしが続くと信じて疑わなかったが、平和の時はある日突如として終わりを迎える。
    今日こちらにも現れて人々を襲った異形の存在。
    ひいばあの国でも各地に出現し街や村を襲撃し、しかも人々を拐っていったという。
    それ故に厄災と名付けられ、事態を重く見た国王と国王に遣える高官達は厄災を打ち払う為に、様々な対策を講じようとしていた。
    だが厄災の動きは早く現れてから一月も経たない内に王都に攻め要り都を焼いた。
    ひいばあは勿論黒鳥を纏い抵抗したが、戦力差が大きく殆ど太刀打ち出来なかったばかりか、王都の防衛に付いていた国王も討たれて、完全に敗北してしまった。
    最早これ迄と自身も国と命運を共にしようと覚悟した時、王宮に遣える魔法使いのネフィアという人物に導かれてこの世界に逃れて来たのだ。

    「ひいばあの世界には魔法使いが居るんだ。    凄いな……    そのネフィアって人はどうなったの?」

    「私を転移させる為にあちらに残ったわ。    でも、助かる見込みの無い傷を負っていたから恐らくは……」

    ネフィアという人は命懸けでひいばあを逃がしてくれたが、それは当人の意思とは関係無く強制的に行われたものだった。
    図らずとも生き延びる事になったひいばあだが、全く知らない世界に放り出されたばかりか、転移した当時はこちらも大変な事になっていたのだ。

    「こっちに来たばかりの時ってどうしてたの?」

    「途方に暮れたわね。    こちらも辺り一面焼け野原だったから、一瞬元の世界かと思ったわ」

    焦土と化したその場所で一人、亡国の王女は何を思ったのだろうか。

    「ここが元居た世界で無いとはっきり分かった時、私は死のうと思ったの。   近くに大きな橋が見えたからそこから身を投げようとしたのよ」

    何も分からず、言葉も通じないであろうこの世界で生きていける筈がない。
    それに国を守れなかった責任を取ると決めたのだ。
    橋の低い欄干を超えその身を乗り出そうとしたその時、手を掴み引き戻した人物がいた。

    「母さんの身投げを止めたのが父さんなのか……」

    「そうよ。    それが周平との出会いなの」

    助けられた亡国の王女は保護され、山代家に身を寄せる。
    最もひいじいは早くに父を亡くしており母と妹の三人暮らしだったのだが、先の戦争で その二人も亡くし、天涯孤独の身の上だった。
    家も半壊しており、かろうじて焼かれずに済んだ部屋で二人、身を寄せ合うようにして暮らす日々が始まったのだ。

    ひいばあの話は余りにも衝撃的過ぎて、一堂呆気にとられてしまい言葉も出ない。
    暫し沈黙がその場を支配したが、じぃじの一言で打ち破られる。

    「一息入れよう。    まだ聞く事は山程ある」
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