《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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152. 転移晶を求めて

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 賢王の治世によって繁栄し栄光の元にあったと思われていた国家は、かつて一人の女性の手によって暴虐と血にまみれていた事が判明した。
 「記録を抹消されし女王」彼女の復讐心は果たして満たされたのか…それは誰にも分からない。
 
 「…始まったね」

 「ええ…」

 今私とひいばあがいるこの場所は、正王国の歴代の王族が眠る「トノンの霊廟」の一角にある待機室だ。 真王国の王に事情を説明した後、舟を飛ばして正王国へ到着した時には国王の意識は昏迷していたものの、何とか息のある状態だった。
 王子がキアが戻ってきたことを告げると、一時的に意識を取り戻した国王は最後の力を振り絞り、我々と会話を行う。
  
 厄災を撃ち漏らした事を告げると、無念そうな表情になったのも一瞬で宿命の子たる私なら必ず倒せるだろうと、この世界の行く末を託された。
 王子が二人の王で国を治めるよう決まった事を告げると、祭王として民の心によりそうようにと返して、キアには王子を頼むと言い残し、その直後に静かに息を引き取る…。 

 国王崩御の鐘が鳴らされると、国民は誰しもがその死を悲しんだ。 生涯病弱であり、王らしいこと等何も出来なかったと言っていたが、このように民から思われているのであれば、少なくとも暗愚の王では無かったのだろう。

 葬儀は王の願いで国葬では無く、家族葬のような形式になるので私たちは参列する事が出来なかった為に、このような場所で葬儀を見守っている。 私たちの視線のその先では白い煙りがやがて、一筋の光のように天に立ち昇って行く。

 「本当に良かった…のかな?」

 「国王が強く望んだ事よ」

 「……」

 あの立ち上る煙は火が燃えているからなのだが、何の為かというと国王の遺骸を焼く為に他ならない…こちらで火葬は行わないとつい最近聞いたばかりなのだが、自ら荼毘にふす事を望んだのにはとある理由がある。

 「妻はその身を残す事無くこの世を去っていったのに、どうして私だけ亡骸を残す事が出来ようか…」 

 国王の妻、即ち王妃は病弱であった夫に代って自ら軍を率いて戦い、厄災戦において命を落とした。 いや、正確には真王国軍との戦闘の最中に厄災の襲撃を受け止む無く敗走し、その際にしんがりを務めたのだと言う。
 当初は行方不明の扱いだったが、数日後に王妃の騎乗していた竜が息も絶え絶えに戻ってきた、その前足に一房の赤い髪を握りしめて…。

 「王妃様と、空の上で会えるのかな…?」
 
 「ええ、きっと会えるでしょう」
 
 
 「我が身は灰となって天に昇る、そこから国の行く末を見守ろう…愛する妻と共に」

 このような考え方は一般的では無いかもしれない、それでも私は信じたい。 王は愛する王妃と共に、雲の上から統一されたラウ王国の繁栄を見守るのだ。
 そこには、祭王となったアトル王と王妃となったキアが仲睦まじく暮らしている、きっとそうに違い無い。

 「…お茶でも入れようか」

 まだ葬儀には時間が掛かるであろうから、お茶でも飲んで何か口にした方が良いだろう、とっくに昼は過ぎている。

 『おや、管理者からだ…ヒナが目覚めた?』

 「え!? ヒナさんが!」

 「舟に向かいましょう」 

 総督府の上空に待機していた舟に戻ると、途中世良さんとも合流する。 

 「世良さんヒナさんが…」

 「ええ、急ぎましょう」

 医療フロアへと移動し、彼女が治療を受けていた部屋に入るとそこには見知った人物の姿が見える。

 「ヒナさん!!」

 「羽音、それにみんな…心配を掛けてごめんなさい、もう大丈夫よ」

 「謝るのは私の方です! ヒナさんを危険な目に遭わせてしまって」

 「貴女の所為では無いわ…」

 溶液が空になったカプセルの傍にある椅子に、患者服を着たヒナさんが座っているのだが、いかにも医療用といった感じで背もたれは倒されほぼ仰向けの状態になっている。  
 くつろげているように見えるもののやボーっとしているようにも感じるのは、昏睡状態から目覚めたばかりだからだろう。
 
 「管理者から聞きました、厄災を逃してしまったのですね…」

 「ええ、恐らくはあちらに向かったのでしょう」

 「皆が危ないんです! ヒナさんが落ち着いたら、転移装置を動かして…」

 「言いにくいのだけれど、転移出来るのは現状三人までよ」

 「え! どうしてですか!?」

 「それは…」

 ヒナさん曰く、ラウ城の地下にある装置の動力となっている転移晶に残された力は、事が全て終わった後に私と
ひいばあ、そして世良さんの三人が還るように残していたと言う。
 力を使い切ってしまうのは最終的に装置を封印する為だというが、自身をカウントしていないのがまたヒナさんらしい。

 「じゃあ、残り三人分の転移晶を補充する必要があるんですね?」

 「いいえ、それがそうもいかないの…」
 
 「そうもいかない?」

 転移する際に必要な力の妙とも言えるのは、例えば一人が転移する時に必要な力があったとして、二人転移させたい時は二倍であれば良いかというとそうでも無く、それ以上の力が必要なのだそうだ。

 「マジっすか…」

 しかもこれは、人数が増えるとより強い力が必要になるので、六人ともなればこれまで発見された事の無いほどの高純度の晶が必要になって来るのだと言う。

 「転移って大変なんですね…改めて思い知りました」

 「ええ、厄災の最大の強みは転移を簡単に行えることよ」

 厄災は結界を除くありとあらゆる場所に出現する、人が転移するのは大事おおごとなのに比べて難なく行ってしまえるのだから、根本的な理屈からして違うのだろうと言われている様だが、詳しい内容を聞いても私ではさっぱりだろう。
 いずれにしても、問題なのはこれからどうするかなのだが…。 

 「やはり、かの地に行くしか無いでしょう」
 
 「かの地?」

 『北の極地か』

 「それってもしかして、北極?」

 北極には私たちの望む晶が存在するかもしれない、何故かというとかつてこの惑星に飛来してきた隕石の欠片の大半は、北の極地に落下したからだ。
 そう…不思議な力を宿した石や晶はあの隕石からもたらされた物なのだが、皮肉な事に同じ隕石でもあちらにはそのような力は備わっていなかった。 
 もし、違っていたならあちらはどうなっていたのだろうと考えずにはいられない…。

 「やる事は決まりましたね、でも見つかるんでしょうか」

 『地表をスキャンすれば、クレーターを見つけるのは造作も無い』

 「行くしかないか…みんなで探せば、より早く見つかるかもしれませんし」

 「それなのだけれど、二手に別れた方が良いと思うの」
 
 「世良さん? 二手に別れるとは一体…」

 何故そのような事をしなければならないのか、もしかしたらまだ厄災の残党が存在しており、皆で晶を探しに行った隙をついてラウ城を襲撃し、転移装置を破壊されてしまうかもしれないからだと言う。

 「そっか、皆で離れてしまうのは危険なんですね」
 
 そうなって来ると次の問題はチーム分けだ、戦力を分散してしまう事になるのでバランスを考えねばならない。 だが、病み上がりのヒナさんを晶の探索に駆り出す訳にもいかないので、必然的に残って貰うようになる。

 「ヒナさんは残るとして、後二人は…」

 「羽音、貴女はどうするの?」

 「私? 私は…出来れば探索の方がいいかなぁ」

 「私はどうしようかな?」

 「世良さんは出来れば私と探索に…」

 人選を考えている最中、突如部屋の扉が開いて飛び込んで来る人物が現れる。

 「ヒナ殿の意識が戻ったのですか!」

 「キア! 葬儀を抜けてきていいの?」
 
 「…後は灰になるのを待つだけなのです」

 キアが来ているのは喪服になるのだろうが、私の知る衣装のどれにも該当しないので形容し難いとして、葬祭時の色が黒なのはあちらと変わらないようだ。

 「国王が亡くなったのね、ご冥福をお祈り申し上げます…そう言えばノーマは?」

 「雑務があるとかで、真王国に残ったんです」

 「軍を退役する手続きを行うとも言っていたわね」

 人の世の争いは終わったのだから、戦鳥の戦士が軍に所属する必要は最早何処にも無い。 もちろんそれは世良さんやひいばあにも言えた事だ。
 
 「私も退役します、諜報部も必要ないので解体するようですね」

 平和になれば自ずと軍縮の方向に進むとして、後は厄災さえいなくなれば国庫を圧迫していた軍事費も大幅に削減されるだろう。

 「と、話が逸れてしまったわね」 

 二つのチームに別れるのだが、その人選とは果たしてどのように決まるのか…。
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