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第1-2話 フルム・フォンテイン
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「はぁ……。本当に自分でもどうかしているよ」
自宅から一時間ほど歩いた場所で、1人後悔をしていた。
こんな場所で何してんだ。
今からでも帰った方がいいんじゃないか?
頭の中に浮かぶ言葉たちが、僕を責める。
「本当にそうだ。何してるんだよ」
願いを叶える祠なんて嘘に決まってる。考えるまでもなく当然だ。なのに、何故僕は数時間も歩いて目指しているのか。
目的地までの距離は長い。
まだ、あと半日ほど歩く必要がある。
「僕が【魔法】も使えてお金を稼げたらな」
お金があれば馬だって借りられる。けど、僕の手持ちでは厳しかった。
野菜を育てるだけでは、生活をするのがやっと。畑だって【魔法】を使って耕す農家が多い中、手作業で育てているのは僕と叔父だけ。
叔父も【魔法】を使えるけど、僕に気を使ってか【魔法】を用いるのを辞めた。
そのことが、僕の足を進ませる。
「……。でも、行ってみよう」
例え本に記されていた事が嘘でも縋《すが》りたい。
普通の人間として暮らすために。
◇
「……着いた」
半日ほど歩いた僕は【願いの祠】がある森にやってきていた。日は既に暮れ、森は人を拒絶するように漆黒を纏い、木々を揺らして不気味に威嚇する。
森の広大な闇を借りた獣達が、自分の縄張りを主張するかのように吠える。
「……今日はここで夜が明けるのを待とう」
夜の森に入るほど、流石の僕も馬鹿じゃない。
夜は獣が活動する時間帯。
何度、畑が夜の内に荒らされたことか。
僕は森から離れた場所で、休息を取れるようなスペースがないか探そうと背を向けた。すると、「ぼやぁ」と、背中越しでも森が光ったのを感じた。
「なんだ……?」
慌てて振り返ると、やはり、森の奥深くから眩い光が発せられてた。
僕を誘うかのように淡く点滅する。
「まさか……本当に!」
僕の願いが――【魔法】が使えるようになるかも知れない。
そう考えると足が勝手に走り出す。
光に向かって森の中を駆ける。
森に入って数分。
道しるべにしていた光が唐突に消えた。
「え……?」
光を見失った僕は、ぐるりと周囲を見渡す。
けど、そうすることで余計に方向が分からなくなってしまった。
「ど、どうしよう……」
獣に襲われたら、力を持たない僕は直ぐに餌になることだろう。
不安を押し殺してその場に座る。
大人しく日が登るのを待とう。
――だが、野生はそこまで甘くない。
僕の――餌の匂いを嗅ぎつけたのか、一匹の獣が草木を掻き分けて姿を見せた。
「オオカミ!?」
獰猛な性格で、鋭い牙は人間の骨すらも砕く強度を誇る獣。
一度、狙った獲物は決して逃さない脚力と嗅覚を持っている。
「どうしよう……」
口から垂れる涎、「ハッハッ」と、荒い息で繰り返される呼吸は獣特有の臭さを含んでいた。
僕は思わず数歩下がる。
獣は一定の距離を保つように静かに動く。人間である僕のことを警戒しているのか。ならば、このまま、去ってくれと願うが、僕の祈りは届かない。
「ガアッ!」
オオカミは大きな口を開いて僕の頭部に齧《かじ》り付こうとする。
両手を頭の上で交差させて防御をするが、鋭い牙を前にすれば防御にもなりはしない。食べられる順番が頭から腕になるだけだ。
目を瞑り、痛みを覚悟するが、オオカミの牙はいつまでたっても僕を貫くことはなかった。
「いつまでそうしているのかしら? 私の颯爽とした登場を見逃すなんて、罪深いわね。なんて助けがいのない子なの?」
こんな夜中で森の中。
聞こえるはずのない女性の声が耳に届いた。
僕が目を開くと、そこには闇夜の中で、【火】に照らされた少女が、僕の前に立っていた。
闇夜の中でも揺らめく美しい黒髪。
手の平に浮かぶ炎の光を反射させる白い肌。
知的の中に冷たさを感じる視線。
この森に済むとされる【神】は、もしかしたら彼女なのかもしれない――。
「ありがとう――ございます」
僕は彼女を敬うべく、両手を地面に付けて頭を垂れた。
ムギュ。
女神は僕の頭を迷うことなく踏みつけた。
自宅から一時間ほど歩いた場所で、1人後悔をしていた。
こんな場所で何してんだ。
今からでも帰った方がいいんじゃないか?
頭の中に浮かぶ言葉たちが、僕を責める。
「本当にそうだ。何してるんだよ」
願いを叶える祠なんて嘘に決まってる。考えるまでもなく当然だ。なのに、何故僕は数時間も歩いて目指しているのか。
目的地までの距離は長い。
まだ、あと半日ほど歩く必要がある。
「僕が【魔法】も使えてお金を稼げたらな」
お金があれば馬だって借りられる。けど、僕の手持ちでは厳しかった。
野菜を育てるだけでは、生活をするのがやっと。畑だって【魔法】を使って耕す農家が多い中、手作業で育てているのは僕と叔父だけ。
叔父も【魔法】を使えるけど、僕に気を使ってか【魔法】を用いるのを辞めた。
そのことが、僕の足を進ませる。
「……。でも、行ってみよう」
例え本に記されていた事が嘘でも縋《すが》りたい。
普通の人間として暮らすために。
◇
「……着いた」
半日ほど歩いた僕は【願いの祠】がある森にやってきていた。日は既に暮れ、森は人を拒絶するように漆黒を纏い、木々を揺らして不気味に威嚇する。
森の広大な闇を借りた獣達が、自分の縄張りを主張するかのように吠える。
「……今日はここで夜が明けるのを待とう」
夜の森に入るほど、流石の僕も馬鹿じゃない。
夜は獣が活動する時間帯。
何度、畑が夜の内に荒らされたことか。
僕は森から離れた場所で、休息を取れるようなスペースがないか探そうと背を向けた。すると、「ぼやぁ」と、背中越しでも森が光ったのを感じた。
「なんだ……?」
慌てて振り返ると、やはり、森の奥深くから眩い光が発せられてた。
僕を誘うかのように淡く点滅する。
「まさか……本当に!」
僕の願いが――【魔法】が使えるようになるかも知れない。
そう考えると足が勝手に走り出す。
光に向かって森の中を駆ける。
森に入って数分。
道しるべにしていた光が唐突に消えた。
「え……?」
光を見失った僕は、ぐるりと周囲を見渡す。
けど、そうすることで余計に方向が分からなくなってしまった。
「ど、どうしよう……」
獣に襲われたら、力を持たない僕は直ぐに餌になることだろう。
不安を押し殺してその場に座る。
大人しく日が登るのを待とう。
――だが、野生はそこまで甘くない。
僕の――餌の匂いを嗅ぎつけたのか、一匹の獣が草木を掻き分けて姿を見せた。
「オオカミ!?」
獰猛な性格で、鋭い牙は人間の骨すらも砕く強度を誇る獣。
一度、狙った獲物は決して逃さない脚力と嗅覚を持っている。
「どうしよう……」
口から垂れる涎、「ハッハッ」と、荒い息で繰り返される呼吸は獣特有の臭さを含んでいた。
僕は思わず数歩下がる。
獣は一定の距離を保つように静かに動く。人間である僕のことを警戒しているのか。ならば、このまま、去ってくれと願うが、僕の祈りは届かない。
「ガアッ!」
オオカミは大きな口を開いて僕の頭部に齧《かじ》り付こうとする。
両手を頭の上で交差させて防御をするが、鋭い牙を前にすれば防御にもなりはしない。食べられる順番が頭から腕になるだけだ。
目を瞑り、痛みを覚悟するが、オオカミの牙はいつまでたっても僕を貫くことはなかった。
「いつまでそうしているのかしら? 私の颯爽とした登場を見逃すなんて、罪深いわね。なんて助けがいのない子なの?」
こんな夜中で森の中。
聞こえるはずのない女性の声が耳に届いた。
僕が目を開くと、そこには闇夜の中で、【火】に照らされた少女が、僕の前に立っていた。
闇夜の中でも揺らめく美しい黒髪。
手の平に浮かぶ炎の光を反射させる白い肌。
知的の中に冷たさを感じる視線。
この森に済むとされる【神】は、もしかしたら彼女なのかもしれない――。
「ありがとう――ございます」
僕は彼女を敬うべく、両手を地面に付けて頭を垂れた。
ムギュ。
女神は僕の頭を迷うことなく踏みつけた。
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