魔力は自由だ!~魔法を使えない僕は、悪役令嬢を追放された彼女に命を救われる。恩返しするため、魔力放出を鍛えます~

白慨 揶揄

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第閑−0話 許嫁

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 ブレイズ城。
 左右非対称の棟数と高さが、芸術的な美しさを生み出す、至る所が黄金で装飾された城。
 フレアはそこで暮らしていた。
 城に帰ったフレアは自分の部屋に入るよりも先に、父の元を訪ねた。
 勢いよく扉を開け、憤怒の表情で父を呼ぶ。

「父上!! 話があります」

「どうした、フレア? この時間は【アカデミー】の時間ではなかったのか?」

 時刻は昼前。
 本来であればまだ、【アカデミー】で【魔法】の知識や技術を学んでいる時間帯。そのことを咎めるようにして、フレアの父であり、現国王であるマグア・ブレイズは息子を睨んだ。

 国王の厳格な視線に、怯んだように状態を逸らすが、すぐに一歩前に踏み出した。

「……俺は王の息子。本来なら、通わなくてもいいはずです!」

「そういう訳にもいかん。同年代の子達と過ごし、声を聞くことが大事だと何度も説明しておるだろう」

 国王たるもの民の声を聞け。
 それがマグア・ブレイズの掲げる思想であった。民に近い国王として、人々の信頼も熱い。フレアを【アカデミー】に通わせる理由の一つにも、その思いがあった。
 まだ、幼いフレアには理解できていないようだが。

「……分かりました」

 フレアは不満げな表情を隠すように俯《うつむ》いた。今、父に報告したいことは【アカデミー】に通う必要の有無ではない。
 許嫁であるフルムの不貞についてだ。

「ただ、もう一つ、聞いて欲しいことがあるんです」

 フレアは顔を上げながら言った。

「なんだ? まだ、言いたいことがあるのか? 私も忙しいんだがな……。夜では駄目なのか?」

 話は終わりだと思ったのだろう。マグアは仕事に戻っていたが、まだ続く息子の話に顔を顰めた。

「はい。一刻を争う話なんです。我が未来の妻、フルム・フォンテインの不貞なのですから!」

「……なに?」

「彼女は王の息子たる俺がいるにも関わらず、他の男と寝てやがったんです! それは絶対に許されないことではありませんか!?」

 父に詰め寄り作業している机を叩いて感情を露にする。フレアは自分以上に父が怒るのではないかと考えていたが、反応は酷く冷たかった。

「……そうか」

 叩かれた衝撃でズレた書類たちの位置を直す。そして、何もなかったかのように仕事を始めた。

「そうかって、怒ってもいいでしょう!? なんで、そんな冷静なんですか!?」

 再び机を叩くフレア。
 息子の怒りから逃げるようにして、背を向けた。

「……彼女に子が出来ていなければそれで良い」

「そんな!? なんで!?」

「彼女は才能に恵まれている。あれだけの属性を持つ人間は珍しいからな。濃度・・――どちらも申し分ない。是非とも我がブレイズ家の跡継ぎを産んで貰いたい。それだけだ」

 王国きっての天才の遺伝子。
 それが欲しいとマグアは言い切る。属性は親からの遺伝で決まることが多いからだ。

 両親が【火】ならば、子供も【火】を。
 父が【火】、母が【水】ならば、そのどちらかを、もしくは両方を受け継ぐ可能性が高い。つまり、複数の【魔法】を持つフルムの子供は、3つの属性を持てる希望がある。
 それに加えて強力な【魔力】。
 なんとしてもマグアは、天才の血が欲しかった。

 しかし、フレアは、フルムが才能だけで特別視されることが納得できなかった。才能であれば自分も負けていないと父を説得する。

「確かに、フルムは【属性】を複数持ってます。でも、【魔力】の量、濃度なら俺だって負けてませんよ!! だから、【属性】にこだわるのは――」

「……フレア。この話はこれで終わりだ。今日は無理に【アカデミー】に行かなくても良い。ゆっくり休め」

「いや、終われません! しかも、その相手がよりによってアウラの――【魔法】も使えない無能なんだ!」

 アウラの名前に正面に向き直る。そして直ぐに頭を抱え、「なんで、また……」と大きく息を吐いた。

「な、な! 許せないでしょう?」

 ようやく、自分の思いが通じたとフレアは喚起する。
 父の口からフォンテイン家の称号剥奪とアウラの国外追放が聞けると言葉を待つ。
 だが、聞こえたのは信じられない内容だった。 

「やはり、この話はこれで終わりじゃ。仮にフルムに子が宿っていたとしても、何も変わらん」

「は?」

 別の子を宿していても、許嫁は変わらない?
 何を言っているんだ。
 フレアは父の言葉が信じられなかった。





「くそ! なんで、親父は俺の言うことを聞いてくれないんだ!?」

 父の煮え切らない態度に苛立ちを露に、自室の扉を蹴った。
 愛すべき息子の妻となる者が、他の男に寝取られている。これに怒らずして、何を怒ると言うのか。

「それに……アウラの名前を出したら態度が変わった?」

 アウラの名が出る前までは、子供が出来ていなければ問題ないと言っていた。だが、その直後、子供がいても構わないと父は意見を変えた。

 ただの気まぐれなのか、それともアウラに何か秘密があるのか。

「ちっ。駄目だ。考えても出てこねぇ。それにどうせ追放しちまえば関係ないさ」

 扉に向けて何度目かの蹴りを放った所で、ふと、次に何をすべきか思い浮かんだ。

「そうだ。俺が直接、フォンテイン家に行けばいい」

 国王である父から伝えた方が、信憑性が高いだろうが、フレアも次期国王。子供だからと意見は無下に出来ない筈。
 思いついたフレアは直ぐに行動に移した。

 フォンテイン家は城から一番近い街、通称【貴族街】にある。
 立派な住居が立ち並ぶ中、一際小さな住居の扉を叩いた。

「おい! 誰かいないのか!」

 フレアの呼びかけにゆっくりと扉が開いた。
 中から出てきたのはフォンテイン家に使える侍女であった。黒い髪を後ろで一つに纏めた侍女――アム。
 王の息子が1人でやってきたことに驚いた表情を浮かべるが、直ぐに、「フルム様はいらっしゃいません」と言葉を発した。

「ふん。それくらい知っている。あいつは他の男と一夜を共にしていたんだからな。今日も泊まりじゃないのか?」

「それは本当ですか!?」

 フルムの淫らな情報に口を押さえて驚く。

「フルム様はそんなこと絶対に致しません!! 彼女のことは私が良く知っています!」

「俺だけでなく他の奴らも見ていたから事実だ。故に今日はそのことについて話をしにきた。当主を出して貰おうか!!」

 侍女を払いのけて中に入っていく。許嫁として何度も食事へ招待されているので、勝手は分かる。
 階段を上り、ふと、一室を見つめて言う。
 明らかに異様な雰囲気を醸し出す部屋。そこは引き籠ることになってしまったフルムの妹、クレス・フォンテインの部屋だった。

「まだクレスは部屋から出てこないのか」

「はい。心の傷は簡単には癒えませんから……」

「そうか」

 フレアはそっと扉に手を触れ、嘲笑うかのように言う。

「クレスよ。俺で良かったら話を聞いてやらんこともない。まあ、もうすぐフォンテイン家も終わりだろうがな」

 返事を待たず扉から離れる。そして、振り向くことなく足を進めた。目指すはフルムの父が過ごしている書斎だった。
 部屋に付くと侍女であるアムがノックをする。

「ムーン・フォンテイン様。フレア・ブレイズ次期国王がお見えです。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「あ、当たり前だ!」

 扉の内側でバタバタと音が響くと、内側から扉が開いた。

「フレア様。今日はどういったご用件で?」

 ニコニコと表情を崩し、腰を低く折り曲げた中年の男。
 あからさまなご機嫌取りに、フレアは少し機嫌を良くしたのか、ゆっくりと部屋の中に入り、奥に置かれていた椅子に深く腰かけた。

 先ほどまで、この椅子で作業をしていたのだろう。まだ、温もりが残されていた。
 ドン。
 足を机の上に投げ出し、睨みつけて言う。

「お前の娘。フルムは俺という男がいながら、不貞を働いた」

 愛すべき娘の行為。相手がフレアという次期国王でなければ、「出鱈目でたらめを言うな」と怒鳴り返しただろう。
 だが、相手が国王の息子であることに間違いはない。

「そんな……信じられない」

 頭を抱えて膝を付いた。

「そのことに対して、国王たる父も大変怒っておられる。父が行動を起こす前に、誠意を見せることを、俺はオススメするぞ?」

 誠意に反応したムーンは、深く頭を下げて何度も何度も謝った。

「ごめんなさい。どうか、どうかお許しを!! と、とにかく、娘が帰ってきたら直ぐにそちらに向かわして頂くので!!」

「どの顔を下げて来ようというのだ? まあ、一つ、王の怒りを沈める方法があるとすれば、不貞を働いたあの泥臭い農家――アウラを殺すことだ。期待しているぞ?」

 フレアは邪悪な笑みを浮かべ、頭を下げるムーンの耳元で囁いた。
 返事を待たずに外に出たフレアは、怒りに任せて壁を殴る。 

「あの無能が……。人を怒らせることだけは得意みたいだな……。俺を怒らせたことを後悔させてやるよ!!」

 恨みを燃やすフレアは、背を見つめる視線に気付くことはなかった。
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