魔力は自由だ!~魔法を使えない僕は、悪役令嬢を追放された彼女に命を救われる。恩返しするため、魔力放出を鍛えます~

白慨 揶揄

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第4−3話 針鼠

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 馬車を走らせること半日。
 日は既に沈み、辺りは真っ暗になっていた。馬車の中を蝋燭の火が揺れる。不安になる僕たちを笑うかのようだ。
 僕は前に座るフルムさんを見た。

「なによ」

「い、いえ、別に……」

 フルムさんは余程、デネボラ村のことが心配なのだろう。抱えた膝をトントンと叩く。
 馬車での移動では限界がある。
 だから、フルムさんは【風属性限定魔法――飛行】で先を急ごうとしたのだが、その先には【獣人】がいる。
【魔力】を温存するべきだと言う僕の意見を受け入れてくれた。

 ようやく村に戻ってきた。

「そんな……」

 僕たちが見た光景は、壊滅した街だった。
 殆んどの建物は崩れるか燃やされており、残っているのは残骸と残り火のみ。
 人々が命がけで守った村は、見るも無残に滅ぼされていた。

「折角、あの【獣人】から解放されたっていうのに――」

 何故――この村ばかりこんな目に合うのか。理不尽な現象に拳を握り怒りに叫びたくなる。
 ……駄目だ、冷静になれ。
 今、やらなければ行けないのは村の人を守ること。
 皆は何処にいるのだろうか?

 僕は村に入り、「大丈夫ですか!?」と大声で駆けまわる。
 だが、返事をする人はいない。
 まさか、全員、殺されてしまったのではないか。
 胸の内を不安が過《よぎ》る。
 その時だった。

「危ない!!」

 フルムさんが、【風】を生み出し、僕の背中を付き飛ばした。

 バシュン。

 衣服を僅かに破り、針が地面に突き刺さる。
 フルムさんの反応が遅ければ、僕を脳から貫いていただろう。身体が一気に冷えるのを感じた。

「あ、ありがとう……ございます」

「礼は後よ。さっそく――【獣人】が現れたわね。この責任はきっちり取って貰わないといけないわね」

 フルムさんは、僕と目を合わせることなく、針が飛んできた方向を睨んだ。積み上げられた宿の残骸。
 その上に背中が針で覆われた【獣人】が立っていた。

「あらあら、無意味に尖っちゃって。恥ずかしいわね。ていうか、動き辛くない?」

 フルムさんの挑発にも【獣人】は冷静だった。
 両手を背に回して針を引き抜くと、槍投げのように、僕たち目掛けて投擲《とうてき》した。

 僕たちがいる場所まで約10メートル強。
 普通の人間であれば、人を殺せるほどの正確さと殺傷性を持って投擲するなど不可能だ。
 しかし、相手は獣の力を持つ【獣人】。
 人間離れした腕力は、真っ直ぐにフルムさんの頭蓋を目指す。

「フルムさん!!」

「やーね。でも、こんな針で私を倒せると思わないで欲しいわね。【土《アース》・盾《シールド》】」

 フルムさんから数メートル離れた場所に、岩の壁が現れた。
 盾というよりも小さな山のようだ。
 針は山を貫き先端を覗かせて――制止した。

「あら。【盾《シールド》】の中で一番の強度を誇る【土】を貫くなんて、意外にやるじゃないの」

 土の壁が針と共に崩れていく。
 一本の針ではフルムさんは殺せない。そのことに気付いた【獣人】は、一本で無理ならば、無数を投げれば防御を打ち破れる。
 そう言わんばかりに、背から次々と針を抜いては、僕たちに向けて投げ付ける。

 針の投擲。
 僕は厄介だと思っていたのだけど、フルムさんは違った。

「ふん。というか、そんなことしなくても、普通に【魔法】の方が速くないかしら? 【風《エアー》・弾《バレット》】」

 風で作られた弾丸を、相手が投げる針よりも多く早く放っていく。
 弾と針は互いにぶつかり、弾けるように勢いを失い地面に落ちていく。

「流石、フルムさん。凄い正確性だ」

「まあね。詠唱するだけだから、こういったことも出来るのよ」

 そうか。
 詠唱は全自動で【魔法】の効力が決まる。だから、照準合わせに専念することも出来るのか。
 一概に自由度が高い【放出】のほうが有利とは言い切れないのか。
 納得する僕に、フルムさんが付け足した。

「あ、でも言っておくけど、これは私だからできることよ」

「……」

 元も子もなかった。
 僕の考えを読み取ったフルムさんが、得意気に僕の足元に【弾《バレット》】を打ち込んだ。まあ、飛んでる物体を打ち込むなんて、そうでしょうね。
 フルムさんは、【獣人】を前にして余裕だった。

「……ちっ!」

 このまま遠距離での攻撃を続ける意味がないと【獣人】は悟ったのか。
 針を投げることをやめて、握ったまま瓦礫の上から飛び降りた。どうやら、剣の代わりに使うらしい。

「接近戦がお望みかしら。でも、残念。私はあなたに付き合うつもりはないのよ」

 地面に着地するよりも先に、両手から別々の属性を持つ【波《ウェーブ》】を生み出す。

【風】と【火】

 二つの属性が空中で混じり、勢いを増した炎の波となって【獣人】を襲う。 

「2つの属性を同時にだと!!?」

 フルムさんの才能に驚く【獣人】。咄嗟に回避を試みるが相手に翼はない。
 避けられないならばと、【獣人】は、身体を丸めて全身を針で覆った。
 防御態勢という訳か。
 炎の波に流されながらも、身は守れているようだ。
 2つの属性の混じった【魔法】を受けきれる防御力。それは確かに厄介ではあるが、身体を丸めているからか動けないようだ。
 ならば、僕が相手の動きをそのまま封じてしまえばいい。

「【鎖《チェーン》!】」

「【土《アース》・鎖《チェーン》!】

 フルムさんも僕と同じことを思ったのか。【波】を止めて新たな詠唱を行った。
 僕とフルムさんは【鎖】を作り出し、身体を丸めた【獣人】を絡め拘束する。

「やった!!」

【獣人】の人間離れした身体能力を使われれば、当てることは困難。だが、この【獣人】は俊敏性を捨て、防御に徹してくれた。
 動かぬ的にならば、僕だって当てられる。

 拘束された【獣人】は、身体を丸めたまま叫んだ。

「くそ! 話がちげぇじゃねぇか! 人間を捨てる代わりに強くなるって――」

 それは誰への恨み言なのだろう。
 
 ヒュン。
 ザス。

【獣人】の言葉が終わらぬ内に、丸まった球体を真っ二つに、土の刃が切り裂いた。
 容赦のない一撃に、呆気なく【獣人】の命が尽きた……。
 何が――起こったんだ?
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