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第25話 同じ目にあった者

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「つまり、お前は【炎の闘士】を裏切り、【占星の騎士団】を見限って、ここにいるってわけだ。なるほど、なるほど。って、そんな奴を一緒に連れていけると思うか!?」

 森の中。
 僕達三人は焚火を削っていた。ロウの叫びで空気が震えたのか炎が揺れる。

 アディさんに引き留められた後、結局、街に帰ることはなかった。その理由はアディさんが、「私は君を守りたいんだ。邪魔したいわけじゃない」と、街に引き返すことを良しとしなかったから。

 そして、アディさんから僕が追放されてからの出来事を聞いた。
 バニス達は【選抜騎士】に任命され、前回大会の代表者と戦ったこと。そこでバニスは呆気なく敗北したこと。
 最終テストの代わりにリベリオーガを倒しに山を目指し――敗北したことを知った。

「なるほど……。そこで嫌になって【占星の騎士団】を抜けてきたんだ。アディさんも大変な目にあったんだね」

 アディさんは、パチパチと音を立てる炎を見つめる。闇夜に揺れる炎は、まるで優雅な踊りのようだ。

「ユライ!! 注目する部分はソコか? 大事なのはお前を守るとかほざきながら、人を裏切りまくってるコイツの性格だろ!!」
「でも……本当に性格悪かったら、そんなことを全部言うかな?」
「だから、絶対隠してることがあるんだ。そうだろ!?」

 チョコチョコと足を動かしアディさんの足元に詰め寄る。
 まあ、三頭身の豚と間違われるフェンリルなので、やっぱり迫力は皆無なんだけど。

「…………」

 フゴフゴと鼻を鳴らすロウから、逃げるように視線を逸らした。

「ほら、見ろ! やましいことがあるから答えられないんだろ! そういう訳でお前はさっさと街に帰るんだな」
「駄目だ。私は帰るわけには行かない」
「はぁ? なんでだよ! だったら、隠してること全部言えや!」
「それは……言えない。だが、これだけは信じて欲しい。隠してるのではなく、言えないんだ。まだ……心の整理が着いていないから」
「お前なぁ!! 言えないんなら付いてくんなって!」

 僕たちに伝えていない内容はある。だけど、それは『隠したい』からではなく、『言えない』からだとアディさんは言う。
 ロウは彼女の態度を我儘だと受け取ったのか、遂には牙を覗かせた。
 しかし、ロウの威嚇にもアディさんは退かない。

「何と言われようと、私はユライくんを守る。そうしないと駄目なんだ」
「駄目って――お前何言ってんだよ。ちょっとヤバいぞ?」

 一歩も引かずに、妄信的に僕を守ると言い続けるアディさんに、気味悪さを感じたのかロウが僕の頭に駆けあがった。

「絶対、何か企んでるって。な、だからお前からも言ってやれよ」
「うーん」

 ロウはそう言ってるけど、悪い人には見えないんだよね。お金欲しさに裏切ったというより、妹のためって感じだし。
 何か隠してるのは、事実だろうけど――何よりも彼女自身が一番苦しそうだ。決して離れぬ黒く冷たい水に纏わり憑かれているように見える。
 僕と一緒にいることで、彼女が楽になるのであれば助けたい。

「なんだよ、それ。どうなっても知らないぞ? 金で何度も裏切る奴はどんな理由があっても裏切るんだ」
「……ロウもそんな経験があるの?」

 頑なにアディさんを信じないロウ。もしかしたら、過去に何かあったのかも?
 僕の問いにロウは頭から、ピョンと飛び降りた。

「うるせぇ! 俺はもう寝る」

 焚火に近付くと身体を丸めて眠ってしまう。
 その姿を見つめていた僕は、視線をアディさんに戻した。視線が重なるとアディさんが口を開いた。

「確かに私は全てを話していない。ただ、それは事実を隠したいのではなく、話す気力が湧かないからなんだ。こんな私でも傍にいていいだろうか?」
「勿論。優秀な人が一緒に居てくれたから心強いよ。それにしてもバニスは【選抜騎士】の資格を剥奪されて、監禁されたんだ。一度、話を聞きに行きたいな」
「何故だ? あんな奴、どうなってもいいだろ?」
「そうなんですけども……」

 でも、バニス達がリベリオーガに負けるとは思えなかった。
 ひょっとして、僕が抜けたから――なんて、それは流石に都合のいい妄想か。バニスはどんな状況になろうと「俺達にはお前が必要だった」なんて絶対に言わない。
 だから、会いに行くだけ無駄……だよね。

「じゃあ、今、【占星の騎士団】はオストラかプリスがリーダーをやってる感じですか?」
「いや……。その2人は素性が確認できないみたいだ。もしかしたら、リベリオーガ達に……」
「無事だと良いんですけど――」

 既にリベリオーガのクエストは発令されたらしい。アディさん曰く、いくつものパーティーが討伐に向かったから大丈夫だと思うんだけど……。
 それでも一週間経過している。
 既に手遅れかも知れない。
 オストラとプリスを心配していると、アディさんが微笑んだ。

「ふっ。君は本当に優しいんだな」
「え?」
「本気で元のパーティーを心配しているし、こんな私を許している。ここまで器が広い人間を私は見たことがない」

 炎を反射させるアディさんは、とても綺麗だった。
 儚げで今にも崩れそうな危うい表情で笑う。

「だから、絶対に私が君を守る。どんなクエストでも受けてくれ」
「ありがとうございます。でも、僕は器が広いんじゃなくて、偶然、余裕を手に入れただけなんです」

 そこだけは絶対に履き違えてはいけない。
 僕は自分に言い聞かせる。

 僕は弱い。
 ロウによって強くして貰っただけ。なのに強さに溺れたらバニスよりも最低な男になる気がする。

「手に入れた余裕に呑まれないことが、難しいと私は思うんだけどな」

 アディさんは背を向けて地面に寝そべる。衣服が重力に負けて身体のラインを炎が照らす。彼女は胸に手を伸ばし、ボタンを外すと――

「すぅ、すぅ」

 余程、憑かれていたのかアディさんは瞬く間に眠りに落ちていった。
 背中に感じる寝息の音。久しぶりにロウ以外と眠るな。
 パーティーを組んでた時は野宿はしょっちゅう会ったけど、今ではそれが懐かしい。

「ふふふ」
「おい、なに笑ってんだよ。俺は警告したからな、知らないからなぁ!」
「大丈夫。彼女は悪い人じゃないよ。それに、ロウは寝てたんじゃないの?」
「寝てたよ。これは寝言だ」
「はいはい」

 ロウの背中を撫で、僕も眠りに付いた。
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