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第57話 クーシャとサロメ
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翌日。
僕たちがギルドに向かうと、昨日の静けさが嘘のように冒険者で賑わっていた。受付嬢のユーケットさんも忙しそうだ。
ギルドに入ってきた僕に気付いたのか、招き猫みたいに腕を動かして僕を呼び出す。
「あそこにいるのが、クーシャさん。彼女にも話はしてあるから、二人で顔合わせしてくれない? 忙しくてごめんね」
「気にしないでください!」
因みに今日は僕一人でギルドにやってきていた。
アディさんにも、新しくメンバーになるかも知れない相手を見て欲しかったのだけど、「ユライ君が見極めた相手なら信用できる。悪いが私は別の用件を済ましていいだろうか?」とのことだった。なんでも、パーティーが揃う前にやっておきたいことがあるらしい。
なんだか、アディさんが無理しそうな空気を出していたので、ロウに偵察を頼んでいる。故に僕は今一人だった。
でも、それで逆に良かったのかも知れない。
相手も一人でやってきていたのだから。
クーシャさんと呼ばれた相手は、深い赤を基調としたドレスに、紫の髪を縦に巻く彼女は、どこか毒々しく禍々しい雰囲気を纏っていた。
「初めましてですわ。あなたがユライ・エヴァンスさんで間違いないかしら?」
僕がユーケットさんと話していたところを見ていたのだろう。近付く僕に上品に挨拶をしてくれた。
「そうです、よろしくお願いします。クーシャさん」
「それにしても……もう一人のメンバーはどこにいるのかしら? まさか、会わないでメンバーを決めようだなんてしてませんわよね?」
「いえ、彼女は僕に一任してくれているので……。でも、そういうそちらも一人しか居ないと思うんですが?」
互いにこの場にいるのは一人。
なら、条件は同じと思うのだが、彼女は違うと言い切った。
「まさか。私たちはあなた方にテストを受けて貰おうと思ってるの。もう一人はそちらの準備をしているわ」
「テスト!?」
「当然。私たちのパーティーに相応しいか、判断するのは大事なことでしょう?」
【予選大会】を勝ち残るには、少しでも腕の立つ人間の方がいい。それは誰もが思うことなのだろう。
僕はどんな人とも組むつもりだったけど、相手側は違うらしい。
「テストって一体、なにするんですか?」
「それは行ってからのお楽しみよ? でも困ったわね。一人でテストを受けて貰うことになるんだけど……、一人じゃ絶対クリアできないわよね」
僕だけでは用意したテストをクリアできないと、顎に手を当て考える。
「でも、まあ、一応やって貰おうかしらね。駄目だったら今度は二人で挑んで貰えば良いだけですわ」
クーシャさんは、迷った末に一人で結論を出すと、「付いてくるといいですわ」と、ギルドから出た。
街を東に抜けていくと、草原にやってきた。
「お待たせしました、サロメ!!」
草原に一人佇む少年がいた。
僕より2、3歳年下に見える少年。自分の背と同じくらいの刀を背負っている。気力のない顔で、クーシャさんを見る。
「遅いよ、それにもう一人は?」
「それが、挨拶に一人しか来なかったのですわ。全く、私たちも舐められたものよね」
「べ、別に僕はあなた方を舐めているなんてつもりはなくて……。ただ、もう一人にも用事があるみたいでして」
「だそうよ。一人でも、もしかしたらテストに合格できるかも知れないと思って連れてきたけど、早速やってみましょうか」
クーシャさんは、「パン」と手を叩いてテストの内容を説明する。
「テストは簡単。私の弟であるサロメの一撃を防げばいいだけですわ」
「弟さんの一撃を……?」
それだけならば、一人でもクリアできそうな内容だ。
僕は改めてサロメくんを見る。
刀が武器ということは、前衛である戦い方をすると予想できる。僕は、「初めまして、サロメくん」と挨拶をしながら、手札看破を発動する。
「なっ……!?」
サロメくんの使用魔法を見た僕は、思わず驚きの声を上げてしまう。何故なら、彼の頭上に浮かぶ魔法は一枚だけ。
しかも、その内容は【身体能力強化《中》】だけだったのだから。
「どうしたの?」
「あ、えっと……。そう言えば、クーシャさんがテストの準備してるって言ってたけど、もしかして魔法を既に使ったりしてる?」
「テストの準備?」
サロメさんが不思議そうに首を傾げた。
「僕は面倒だから行かなかっただけだよ」
「……え?」
僕はクーシャさんを見る。彼女は「あら、そうだったかしら?」と、悪びれることなくとぼけていた。それでよくも僕たちの人数について言えたモノである。
「そんなことより、テストすればいいんだよね?」
「ええ、そうですわ。いつものように、手加減せずやってちょうだい」
「分かった」
サロメくんは、やる気のない風体で僕から離れて距離を取った。
「準備できたら教えて」
「ありがと」
相手の武器と魔法が分かってるなら、魔法を選択しておこうか?
それとも、【選択領域】でいつものように、出方を伺った方がいいのか?
「僕はいつでもいいよ」
結局。
僕はいつもと同じ戦法を取ることにした。相手の魔法が【身体能力強化《中》】だけならば、注意すべきは武器の刀だけ。
「じゃあ行くよ?」
サロメくんは「スッ」と足幅を開いて腰を落とす。まだ、魔法は使っていない。肉弾戦を仕掛けてくるのは、強化してからだろう。
手札看破で魔法を注視していた僕の前で、サロメくんの姿が消えた。
否。
消えたと思うほどの速度で、距離を詰めてきたのだ。
「せ、【選択領域】!!」
ギリギリだった。
僕の腹部の数センチ前で、刀が止まる。動きを止めたサロメくんを手札看破で見るが、やはり、魔法は使っていなかった。
「じゃあ、この身体能力で強化してないってこと?」
有り得ない。
身体能力は冒険者個人によって差異がある。だが、それは【身体能力強化《小》】を使えばひっくり返るほどしか離れていない。
肉体で差を付けるのは不可能。
だからこそ、生まれ持っている魔法と回数で冒険者の強さは決まってしまうんだ。
「と、とにかく一撃を防げばいいんだよね? つまり、この状況を突破すればいいんだろうけど……」
僕はサロメくんの持つ身体能力から思考を遠ざけて、目の前に浮かぶ手札に集中する。
6枚の魔法。
この中に都合よく欲しい魔法が来てればいいんだけど。
僕が欲しい魔法は、【フェンリルの牙】か【斬撃波】。
どちらも出の早い魔法だ。
「……あ、あった!!」
手札の中には【フェンリルの牙】が来ていた。いつも、欲しい場面で来てくれる【フェンリルの牙】は、ロウから貰ったから特別なのだろうか?
ロウの僕を助けたいという思いが、きっと魔法にも乗り移ってるんだ。
【選択領域】を解除した僕は、即座に【フェンリルの牙】を放つ。サロメくんの刀身が腹部に当たったところで、狼の顎が出現した。
ガチィン。
刀が牙を挟み、押し返そうとする。
だが、
「……っ!!」
サロメくんは、魔法と力比べをしていた。降り抜く刀に力を込めて、【フェンリルの牙】ごと僕を切り裂こうとする。
固い岩石の装甲を持つ魔物――槌臼《つちうす》の鎧さえも砕いた魔法と渡り合うって、腕力も人並外れているではないか。
ならば、素直に力比べをすべきではない。
相手は直接刀を振るい、僕は魔法を発動する。
今、僕が優位に立つには――。
すっ。
大きく後ろに一歩下がった。
いや、一歩じゃまだ足りない、二歩、三歩と距離を稼いでいく。
一撃じゃ捕らえきれない距離まで。
僕の行動に、見守っていたクーシャさんは手を叩く。
「見た目に反して賢いじゃない」
魔法と力比べをしていたサロメくんは、正面からの突破を諦め、頭上に弾いた。
グッと刀を地面に付き刺すと恨めしそうに僕を睨んだ。
「逃げた、ズルい」
「僕の目的は一撃を防ぐことですから」
これが本当の戦いであれば、サロメくんも正面突破に拘らず、追撃に切り替えただろう。
だが、ルールがあるのであれば、それを生かして戦うことが大事だと僕は思う。
地形や天候、道具など様々な手段があるのだから。
「でも、まさか、サロメの一撃を初見で防げる人間がいるとは思わなかったですわ。流石、【占星の騎士団】の元メンバー。あんな魔法、見たこともないですわ」
「うん。俺の速さ、力と互角なんて……」
「いや、僕としては魔法と互角な身体能力の方が不思議なんですけど……。一体、サロメくんは何者なのですか?」
互いに疑問点をぶつける僕たち。
そしてまた、深入りして欲しくないのも同じだったのか、
「まあ、テストは合格ですわね」
クーシャさんが話を纏めて終わらせた。
「と言うことは、僕達とパーティーを組んでくれるってことでいいんですよね?」
「勿論ですわ。今まで、何人かテストを受けて貰ったのだけど、全員、あばら骨を折って入院しているのに、まさか無傷とは思いませんでしたわ」
「……なるほど」
仲間になるかも知れない冒険者の実力を確かめるとはいえ、病院送りにしていたら――なるほど。
性格に難があるとユーケットさんが行っていたのも頷ける。
だけど、腕が経つのは間違いなさそうだ。
僕たちがギルドに向かうと、昨日の静けさが嘘のように冒険者で賑わっていた。受付嬢のユーケットさんも忙しそうだ。
ギルドに入ってきた僕に気付いたのか、招き猫みたいに腕を動かして僕を呼び出す。
「あそこにいるのが、クーシャさん。彼女にも話はしてあるから、二人で顔合わせしてくれない? 忙しくてごめんね」
「気にしないでください!」
因みに今日は僕一人でギルドにやってきていた。
アディさんにも、新しくメンバーになるかも知れない相手を見て欲しかったのだけど、「ユライ君が見極めた相手なら信用できる。悪いが私は別の用件を済ましていいだろうか?」とのことだった。なんでも、パーティーが揃う前にやっておきたいことがあるらしい。
なんだか、アディさんが無理しそうな空気を出していたので、ロウに偵察を頼んでいる。故に僕は今一人だった。
でも、それで逆に良かったのかも知れない。
相手も一人でやってきていたのだから。
クーシャさんと呼ばれた相手は、深い赤を基調としたドレスに、紫の髪を縦に巻く彼女は、どこか毒々しく禍々しい雰囲気を纏っていた。
「初めましてですわ。あなたがユライ・エヴァンスさんで間違いないかしら?」
僕がユーケットさんと話していたところを見ていたのだろう。近付く僕に上品に挨拶をしてくれた。
「そうです、よろしくお願いします。クーシャさん」
「それにしても……もう一人のメンバーはどこにいるのかしら? まさか、会わないでメンバーを決めようだなんてしてませんわよね?」
「いえ、彼女は僕に一任してくれているので……。でも、そういうそちらも一人しか居ないと思うんですが?」
互いにこの場にいるのは一人。
なら、条件は同じと思うのだが、彼女は違うと言い切った。
「まさか。私たちはあなた方にテストを受けて貰おうと思ってるの。もう一人はそちらの準備をしているわ」
「テスト!?」
「当然。私たちのパーティーに相応しいか、判断するのは大事なことでしょう?」
【予選大会】を勝ち残るには、少しでも腕の立つ人間の方がいい。それは誰もが思うことなのだろう。
僕はどんな人とも組むつもりだったけど、相手側は違うらしい。
「テストって一体、なにするんですか?」
「それは行ってからのお楽しみよ? でも困ったわね。一人でテストを受けて貰うことになるんだけど……、一人じゃ絶対クリアできないわよね」
僕だけでは用意したテストをクリアできないと、顎に手を当て考える。
「でも、まあ、一応やって貰おうかしらね。駄目だったら今度は二人で挑んで貰えば良いだけですわ」
クーシャさんは、迷った末に一人で結論を出すと、「付いてくるといいですわ」と、ギルドから出た。
街を東に抜けていくと、草原にやってきた。
「お待たせしました、サロメ!!」
草原に一人佇む少年がいた。
僕より2、3歳年下に見える少年。自分の背と同じくらいの刀を背負っている。気力のない顔で、クーシャさんを見る。
「遅いよ、それにもう一人は?」
「それが、挨拶に一人しか来なかったのですわ。全く、私たちも舐められたものよね」
「べ、別に僕はあなた方を舐めているなんてつもりはなくて……。ただ、もう一人にも用事があるみたいでして」
「だそうよ。一人でも、もしかしたらテストに合格できるかも知れないと思って連れてきたけど、早速やってみましょうか」
クーシャさんは、「パン」と手を叩いてテストの内容を説明する。
「テストは簡単。私の弟であるサロメの一撃を防げばいいだけですわ」
「弟さんの一撃を……?」
それだけならば、一人でもクリアできそうな内容だ。
僕は改めてサロメくんを見る。
刀が武器ということは、前衛である戦い方をすると予想できる。僕は、「初めまして、サロメくん」と挨拶をしながら、手札看破を発動する。
「なっ……!?」
サロメくんの使用魔法を見た僕は、思わず驚きの声を上げてしまう。何故なら、彼の頭上に浮かぶ魔法は一枚だけ。
しかも、その内容は【身体能力強化《中》】だけだったのだから。
「どうしたの?」
「あ、えっと……。そう言えば、クーシャさんがテストの準備してるって言ってたけど、もしかして魔法を既に使ったりしてる?」
「テストの準備?」
サロメさんが不思議そうに首を傾げた。
「僕は面倒だから行かなかっただけだよ」
「……え?」
僕はクーシャさんを見る。彼女は「あら、そうだったかしら?」と、悪びれることなくとぼけていた。それでよくも僕たちの人数について言えたモノである。
「そんなことより、テストすればいいんだよね?」
「ええ、そうですわ。いつものように、手加減せずやってちょうだい」
「分かった」
サロメくんは、やる気のない風体で僕から離れて距離を取った。
「準備できたら教えて」
「ありがと」
相手の武器と魔法が分かってるなら、魔法を選択しておこうか?
それとも、【選択領域】でいつものように、出方を伺った方がいいのか?
「僕はいつでもいいよ」
結局。
僕はいつもと同じ戦法を取ることにした。相手の魔法が【身体能力強化《中》】だけならば、注意すべきは武器の刀だけ。
「じゃあ行くよ?」
サロメくんは「スッ」と足幅を開いて腰を落とす。まだ、魔法は使っていない。肉弾戦を仕掛けてくるのは、強化してからだろう。
手札看破で魔法を注視していた僕の前で、サロメくんの姿が消えた。
否。
消えたと思うほどの速度で、距離を詰めてきたのだ。
「せ、【選択領域】!!」
ギリギリだった。
僕の腹部の数センチ前で、刀が止まる。動きを止めたサロメくんを手札看破で見るが、やはり、魔法は使っていなかった。
「じゃあ、この身体能力で強化してないってこと?」
有り得ない。
身体能力は冒険者個人によって差異がある。だが、それは【身体能力強化《小》】を使えばひっくり返るほどしか離れていない。
肉体で差を付けるのは不可能。
だからこそ、生まれ持っている魔法と回数で冒険者の強さは決まってしまうんだ。
「と、とにかく一撃を防げばいいんだよね? つまり、この状況を突破すればいいんだろうけど……」
僕はサロメくんの持つ身体能力から思考を遠ざけて、目の前に浮かぶ手札に集中する。
6枚の魔法。
この中に都合よく欲しい魔法が来てればいいんだけど。
僕が欲しい魔法は、【フェンリルの牙】か【斬撃波】。
どちらも出の早い魔法だ。
「……あ、あった!!」
手札の中には【フェンリルの牙】が来ていた。いつも、欲しい場面で来てくれる【フェンリルの牙】は、ロウから貰ったから特別なのだろうか?
ロウの僕を助けたいという思いが、きっと魔法にも乗り移ってるんだ。
【選択領域】を解除した僕は、即座に【フェンリルの牙】を放つ。サロメくんの刀身が腹部に当たったところで、狼の顎が出現した。
ガチィン。
刀が牙を挟み、押し返そうとする。
だが、
「……っ!!」
サロメくんは、魔法と力比べをしていた。降り抜く刀に力を込めて、【フェンリルの牙】ごと僕を切り裂こうとする。
固い岩石の装甲を持つ魔物――槌臼《つちうす》の鎧さえも砕いた魔法と渡り合うって、腕力も人並外れているではないか。
ならば、素直に力比べをすべきではない。
相手は直接刀を振るい、僕は魔法を発動する。
今、僕が優位に立つには――。
すっ。
大きく後ろに一歩下がった。
いや、一歩じゃまだ足りない、二歩、三歩と距離を稼いでいく。
一撃じゃ捕らえきれない距離まで。
僕の行動に、見守っていたクーシャさんは手を叩く。
「見た目に反して賢いじゃない」
魔法と力比べをしていたサロメくんは、正面からの突破を諦め、頭上に弾いた。
グッと刀を地面に付き刺すと恨めしそうに僕を睨んだ。
「逃げた、ズルい」
「僕の目的は一撃を防ぐことですから」
これが本当の戦いであれば、サロメくんも正面突破に拘らず、追撃に切り替えただろう。
だが、ルールがあるのであれば、それを生かして戦うことが大事だと僕は思う。
地形や天候、道具など様々な手段があるのだから。
「でも、まさか、サロメの一撃を初見で防げる人間がいるとは思わなかったですわ。流石、【占星の騎士団】の元メンバー。あんな魔法、見たこともないですわ」
「うん。俺の速さ、力と互角なんて……」
「いや、僕としては魔法と互角な身体能力の方が不思議なんですけど……。一体、サロメくんは何者なのですか?」
互いに疑問点をぶつける僕たち。
そしてまた、深入りして欲しくないのも同じだったのか、
「まあ、テストは合格ですわね」
クーシャさんが話を纏めて終わらせた。
「と言うことは、僕達とパーティーを組んでくれるってことでいいんですよね?」
「勿論ですわ。今まで、何人かテストを受けて貰ったのだけど、全員、あばら骨を折って入院しているのに、まさか無傷とは思いませんでしたわ」
「……なるほど」
仲間になるかも知れない冒険者の実力を確かめるとはいえ、病院送りにしていたら――なるほど。
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