Anniversary

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Anniversary 1st Season

『星に願いを…。』[2]

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「なんかね、聞いたところによると……GWに毎年、天文部主催で、新入部員の勧誘も兼ねた観測会をしてるんだって。部員以外の一般生徒も自由参加OKな、むしろ“部活”って云うより“学校行事”の一環みたいなイベントとしてね。それが終わった後に、そのまま天文部員は新入生歓迎合宿になだれこむらしいんだわ」
 部室へと向かって廊下を歩きながら、それを言ったミカコを振り返りつつ、私は尋ねる。
「――それ、誰から情報?」
「――顧問センセイ……」
「…………」
 天文部に入部してから、もうや約一ヶ月。――驚いたことにミカコは既に、あーんな尊大で横柄で性格の悪い上に底意地まで悪い極端なヘビースモーカーの不良教師であるウチの顧問を手懐けるすべを、サッサと身に付けてしまったらしい。
 よくも、あそこまで歪みきった性格の持ち主と和やかに会話ができるものだと……そこらへん、ものすごく尊敬する。
 確かに…確かにさっ、生徒にとって、少しは“話せる”部類の先生らしくて、ウチの部の部員連中――注:男子生徒only――は何事でも無いようなカオで全然フツーに懐いてるみたいだけどっ! …みっきー先輩も然り。
 でも、私は慣れないのよおぅっ!! くっそう、あんのバカ教師ー!! ヒトの顔見るたび、いっつもいっつも鼻で小バカにしやがってえええええっっ……!!
 思い出すなり即座にぶんムクれた私を目の当たりにして、途端に“しまった”とでも思ったのかミカコが慌てて、
「あ、イヤ、えっと、…そう! 吉原部長も同じこと言ってたし! それに、ひょっとしたら観測会の時に新入部員ゲットできて、合宿参加人数も増えるかもー…とか何とか……」
「…………」
 ――でも全然それフォローにすらなってないし……。
 しかもそれ、めっちゃくちゃ“希望的観測”なモノ言いじゃない!? ――確かに、観測会を通じて新入部員が増えるかもしれない…という点については否定しないけど。
(でも、入ったその日に学校に泊り込みしたいと思うよーな奇特な人間なんて……ドコ探したって、居るもんかいっ……!!)
 おまけに、何が哀しゅーてGWの真っ只中に用も無いのにワザワザ観測会に参加するためだけに好き好んで学校に来ようと思うかなあ、そもそも。
 絶対、その観測会だって、一般参加者なんて限りなくゼロに近いに違いない。
「ありえないよ、それ限りなく絶対……」
 浮いてきた血管でヒクヒクしかけているコメカミを軽く指で押さえつつ……そうボヤきながら、部室の前に到着した私たちは、そこで何気なく、ドアを開けた。


 ―――実際に天文部に籍を置いてみて、理解わかったことがある。
 それは、“別称《オタク部》”である天文部、イコール実は“明るいオタク君たちの集い”、だったってコト。
 そこまでネクラなオタク集団では無かったとはいえ……女子部員の寄り付かないワケが、めっちゃくちゃ、理解できたわよ。
“オタク”てゆーか……ぶっちゃけ“オヤジーず”だよね既に。特に三年生の先輩連中。唯一、部長の吉原先輩だけは、まだマトモな方だけど。――ハジけてるの……! 妙な方向にハジけ過ぎてるのよ皆……!!


「うっ……!!」
 ドアを開けるなり、途端に押し寄せてきた白いケムリと刺激臭。
「――だぁかぁらぁああああっ……!!」
 血管、浮いてくるどころじゃない既に。――もう切れる、あとヒトイキで。
 そこで低く呻いた私は、そのまま息を止めると無言でツカツカ部室の中央を横切りベランダへ向かって歩いていき、おもむろにガラピシャと、乱暴に窓という窓すべてを全開にする。
 外から入ってきた新鮮な空気を、まず、思う存分、吸い込んで。
 そうしてから、努めてにこやか~に、振り返った。
 私の視線に映るのは……それぞれタバコ片手に即席雀卓に向かったままコチラを見やっている、三年生の坂本さかもと葛城かつらぎ田所たどころ先輩の、お三方がた。
「――ねえ、先輩っ?」
 ニッコリとした私の笑みとミョーに優しげなその言葉で、ハッと我に返ったように三人は、それぞれ手にしていたタバコを、即座に灰皿がわりの空き缶に放り込む。――が、〈時、既に遅し〉。
 そんなことくらいで……私の切れそーになってる血管がやんわりと、――癒されてくれるハズなんて、ないでしょうがああああっっ!!


「何度も何度も何度も何度も……!! 『部室内禁煙!』って言ってるのに、どぉして守ってくれないんですかああああああッッッ!!!!」


 大絶叫をかますや否や、窓付近の戸棚に常備してある“お部屋の臭い取り”用の消臭スプレーをガッと握り締めるなり、三人の先輩たちに向かって勢いよく吹き付ける。――おまけに、シッカリ常備済みの“トイレの臭い取り”用のスプレーと合わせて。
 部室中に広がる、サワヤカなミントの香りと甘ったるいキンモクセイの香り。
「ぐああああっっ……!! ややややや、ヤメロ小泉こいずみ!!」
「わああ、俺たちが悪かったっ……げほごほげほげほっ……!!」
「つーか高階サンっ!! そんなスミッコで笑ってないで、小泉止めてっ……!!」
 毎度毎度のこの騒ぎに、こーなるとミカコも慣れたもので。シッカリとハンカチを口許に、しかもいつの間にやら風上である窓際に移動していて、ニコニコと涼しげなカオで傍観者に徹してくれている。
 ――が、それも甘い。
 ナニを隠そう、ミカコこそ最終兵器。
「うるさいうるさいうーるーさーいーーッッ! ミカコに助けを求めるなんて百年早いのよっ!! ――よし、やるのだミカコ!!」
「ラジャ~♪」
 そして彼女が取り出したもの。――それは、“汗の臭い取り”用の消臭デオドラントスプレー。
 再び部室中に広がってゆく……今度は、むせかえるようなセッケンの香。
「うがあああああっっ………!!!」
 そうして、ようやく三年生のオヤジーず三人が机に突っ伏して撃沈したところで、私もミカコも、スプレーから手を放した。
「ぅお…オレらはゴキブリかい……!」
「高校生の分際でタバコ吸う人間なんて、それ以下です!!」
「…………!!」
 そんな呻きを洩らす彼らに残った気力の最後の最後までを叩きつぶしてから。
 そして、誰も反論できなくなったのをいいことに、もう毎度毎度繰り返し続けてるセリフを私は怒鳴り散らす。まるで八つ当たりの如くに。
「てゆーか先輩方、タバコなんて吸ってることがガッコにバレたら退学だって、解ってるんですかそこらへん!? 天文部だって、…ただでさえ今ヒト少なくて“同好会”扱いになってるってーのに、今度こそ廃部になっちゃうじゃないですか!! あのインケン中年クサレ教師がトコロ構わずスパスパ吸いやがってるからニオイ残っててわからないとでも思ってるんでしょうけど、そんな考え甘いですからね!! つーか、そもそも何でせっかくヤツが居ない時にまでワザワザ吸うんですかっっ!! 信じらんないっっ!!」


「――ほおぉ? 仮にも“先生”に対して随分な言い草だなキサマ……?」


 そこで聞こえてきた、――地の底を這うように低い…そんでもってシベリアの永久凍土よりも固く冷たい氷のような、声………。


 反射的にドアの方向を見やった私の視界に映ったのは、長身の体を軽く屈めるようにして今しも扉をくぐらんとしている、くわえタバコに眼鏡をかけ白衣をだらしなく羽織っている一人の男性の姿。
 コイツこそ私の天敵、ウチの部の顧問である理科教師。
 天文部顧問、――またの名を碓氷うすい恭平きょうへい、二五歳。地学担当教諭で一年C組副担任。…つまり何の因果か私のクラスの副担任。…イヤガラセかしら?
 ホントこんなヤツ、名前を呼ぶのもオゾマシイわよ! つーか、名前を呼んでやる価値すら無いわよ!
 ヤツは部室に入るなり、部屋中に蔓延しているミントとキンモクセイとセッケンの香に気付いて、眉をしかめる。
「…まーた派手にやりやがったな、小泉桃花」
「…また出たわね、諸悪の根源ッ!!」
 ――片や、不機嫌そうにタバコの煙を吐き出しながら高い位置にある視線で見下す、長身のムサいオヤジ。
 ――片や、両足広げて両手を腰に屹立してキッと上を見上げる、余りにもこぢんまりとしたサイズの私。
 そんなの……どっちにがあるかなんて、一目瞭然じゃないの悔しいけど……!!
 睨み合っては視線にバチバチ火花を散らしていることに飽きたのか、ふいにヤツがニヤリと笑った。しかも鼻で。フフン…ってカンジで。
 そして、さもイヤガラセのように、悠然と息を吸い込むと、フーッと深く、白い煙と共に吐き出した息を、あろうことか私の鼻先に向かって吹きかけて下さりやがる。――それこそ、“どんなに消臭したって所詮ムダムダムダムダ…(以下無限)”とでも言ってるみたいな……、


(………ッッ!!!!??)


 ――そんな私の視界のスミに……ミカコが耳を塞いでその場に蹲ったのが見え……そして、いつの間に起き上がっていたのか、三人の先輩たちがコソコソと部室のスミの方に移動していったのが解り………、
 そして私は震えるこぶしを握り締めて、思いっきり、息を吸い込む。


「こんッの…クサレ外道インケン中年教師ぃいいいいい―――――ッッ!!!!!!!」


 カーン!! ――その部室中に響き渡る絶叫は、まるで“試合開始”のゴングのようだと……ミカコがいつもシミジミと言う。


「だれが『中年』だ、このジャリガキ!!」
「どー見たって中年以外のナニモノでもないでしょうが、このクソオヤジ!!」
「誰が『オヤジ』だクソガキ!? ふざけんなよ!! 俺はまだ二十代だッ!!」
「どうサバ読んだトコロで、所詮、四捨五入すれば三十でしょうが!! 充分にオヤジじゃない!!」
「なんだとぅ!? 三十男を馬鹿にすんなよ!? …ま、オマエみたいなちちくせェジャリガキ程度にはわからないだろーけどなっ、この魅力が!!」
「わかってたまるか、そんなものッ!! つーか所詮オヤジ!! あくまでもオヤジ!! そんなん、モテない中年のタワゴトじゃんか!! うすらハゲ!!」
「誰が『ハゲ』だ!! 大人しく言わせておけばイイ気になりやがってこのチビガキ……!!」
「『チビ』言うな!! そういうアンタこそ、〈ウドの大木〉並みのムダにデカい図体してるクセして!! ヒトのこと言えるかー!!」
「ほおぅ…? 言ったな? それを言ったな? ――てめぇ、そんなに地学の点数、欲しくねえようだなぁ……?」
「うがっ!! ――ちょっと、だから、毎回ソレ持ち出すの卑怯っっ……!!」
「敬うべき先生サマを毎回トコトン罵倒してくれやがる罰と思い知れ、クソチビガキ」
「なっ…なによなによなによーッッ!! そーやってすぐ成績をタテに脅すよーな、可愛い生徒を『クソチビガキ』呼ばわりするよーな、そんな極悪非道教師の一体ドコを敬えってゆーのッ……!!」
「全部だ全部!! どこもかしこも敬いやがれ!! 神様だと思って、それ以上に崇め奉れ!! そのくらい、ヒトとしてトーゼンだろーが!?」
「ふっ…ふざけんじゃないわよ!! 間違ってるわよヒトとしてソレは!! アンタ一体、何様のつもり!?」
「“先生サマ”で“神様”で“俺様”だ!! その少ない脳ミソかっぽじってよーく叩き込んでおくんだな!! ――解ったか、たかが“ヒラ生徒”?」
「――――ッ!!!??」


 こうして……最後には口で言い負かされる私の手が、まるで鬱憤晴らしの如く無意識に動いてしまうのは、もはや毎度のことで、あり………。


「くッ……!! このサイテー教師!! 失格教師!! 外道、非道、極道教師ぃいいいいいッッ……!!!!!」


 再びの雄叫びと共にブンと唸りを上げて宙を舞った消臭スプレーズだったが、しかし、このクソ教師はそれを難なくヒョイッと避けて下さりやがり……、


「うがッッ……!!?」


 そして過たず、標的を失った二本の缶は、今まさにドアを開けて入ってきたそのヒト――みっきー先輩の、頭部めがけて真っ直ぐに、そして勢い良くヒットしてしまうことと、あいなってしまったのであった………。


 ――モチロン、その後の私が半狂乱になって余計に暴れまくったことは、言うまでも無い。



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