6 / 37
Anniversary 1st Season
『星に願いを…。』[2]
しおりを挟む*
「なんかね、聞いたところによると……GWに毎年、天文部主催で、新入部員の勧誘も兼ねた観測会をしてるんだって。部員以外の一般生徒も自由参加OKな、むしろ“部活”って云うより“学校行事”の一環みたいなイベントとしてね。それが終わった後に、そのまま天文部員は新入生歓迎合宿になだれこむらしいんだわ」
部室へと向かって廊下を歩きながら、それを言ったミカコを振り返りつつ、私は尋ねる。
「――それ、誰から情報?」
「――顧問……」
「…………」
天文部に入部してから、もう早や約一ヶ月。――驚いたことにミカコは既に、あーんな尊大で横柄で性格の悪い上に底意地まで悪い極端なヘビースモーカーの不良教師であるウチの顧問を手懐ける術を、サッサと身に付けてしまったらしい。
よくも、あそこまで歪みきった性格の持ち主と和やかに会話ができるものだと……そこらへん、ものすごく尊敬する。
確かに…確かにさっ、生徒にとって、少しは“話せる”部類の先生らしくて、ウチの部の部員連中――注:男子生徒only――は何事でも無いようなカオで全然フツーに懐いてるみたいだけどっ! …みっきー先輩も然り。
でも、私は慣れないのよおぅっ!! くっそう、あんのバカ教師ー!! ヒトの顔見るたび、いっつもいっつも鼻で小バカにしやがってえええええっっ……!!
思い出すなり即座にぶんムクれた私を目の当たりにして、途端に“しまった”とでも思ったのかミカコが慌てて、
「あ、イヤ、えっと、…そう! 吉原部長も同じこと言ってたし! それに、ひょっとしたら観測会の時に新入部員ゲットできて、合宿参加人数も増えるかもー…とか何とか……」
「…………」
――でも全然それフォローにすらなってないし……。
しかもそれ、めっちゃくちゃ“希望的観測”なモノ言いじゃない!? ――確かに、観測会を通じて新入部員が増えるかもしれない…という点については否定しないけど。
(でも、入ったその日に学校に泊り込みしたいと思うよーな奇特な人間なんて……ドコ探したって、居るもんかいっ……!!)
おまけに、何が哀しゅーてGWの真っ只中に用も無いのにワザワザ観測会に参加するためだけに好き好んで学校に来ようと思うかなあ、そもそも。
絶対、その観測会だって、一般参加者なんて限りなくゼロに近いに違いない。
「ありえないよ、それ限りなく絶対……」
浮いてきた血管でヒクヒクしかけているコメカミを軽く指で押さえつつ……そうボヤきながら、部室の前に到着した私たちは、そこで何気なく、ドアを開けた。
―――実際に天文部に籍を置いてみて、理解ったことがある。
それは、“別称《オタク部》”である天文部、=実は“明るいオタク君たちの集い”、だったってコト。
そこまでネクラなオタク集団では無かったとはいえ……女子部員の寄り付かないワケが、めっちゃくちゃ、理解できたわよ。
“オタク”てゆーか……ぶっちゃけ“オヤジーず”だよね既に。特に三年生の先輩連中。唯一、部長の吉原先輩だけは、まだマトモな方だけど。――ハジけてるの……! 妙な方向にハジけ過ぎてるのよ皆……!!
「うっ……!!」
ドアを開けるなり、途端に押し寄せてきた白いケムリと刺激臭。
「――だぁかぁらぁああああっ……!!」
血管、浮いてくるどころじゃない既に。――もう切れる、あとヒトイキで。
そこで低く呻いた私は、そのまま息を止めると無言でツカツカ部室の中央を横切りベランダへ向かって歩いていき、おもむろにガラピシャと、乱暴に窓という窓すべてを全開にする。
外から入ってきた新鮮な空気を、まず、思う存分、吸い込んで。
そうしてから、努めてにこやか~に、振り返った。
私の視線に映るのは……それぞれタバコ片手に即席雀卓に向かったままコチラを見やっている、三年生の坂本・葛城・田所先輩の、お三方がた。
「――ねえ、先輩っ?」
ニッコリとした私の笑みとミョーに優しげなその言葉で、ハッと我に返ったように三人は、それぞれ手にしていたタバコを、即座に灰皿がわりの空き缶に放り込む。――が、〈時、既に遅し〉。
そんなことくらいで……私の切れそーになってる血管がやんわりと、――癒されてくれるハズなんて、ないでしょうがああああっっ!!
「何度も何度も何度も何度も……!! 『部室内禁煙!』って言ってるのに、どぉして守ってくれないんですかああああああッッッ!!!!」
大絶叫をかますや否や、窓付近の戸棚に常備してある“お部屋の臭い取り”用の消臭スプレーをガッと握り締めるなり、三人の先輩たちに向かって勢いよく吹き付ける。――おまけに、シッカリ常備済みの“トイレの臭い取り”用のスプレーと合わせて。
部室中に広がる、サワヤカなミントの香りと甘ったるいキンモクセイの香り。
「ぐああああっっ……!! ややややや、ヤメロ小泉!!」
「わああ、俺たちが悪かったっ……げほごほげほげほっ……!!」
「つーか高階サンっ!! そんなスミッコで笑ってないで、小泉止めてっ……!!」
毎度毎度のこの騒ぎに、こーなるとミカコも慣れたもので。シッカリとハンカチを口許に、しかもいつの間にやら風上である窓際に移動していて、ニコニコと涼しげなカオで傍観者に徹してくれている。
――が、それも甘い。
ナニを隠そう、ミカコこそ最終兵器。
「うるさいうるさいうーるーさーいーーッッ! ミカコに助けを求めるなんて百年早いのよっ!! ――よし、やるのだミカコ!!」
「ラジャ~♪」
そして彼女が取り出したもの。――それは、“汗の臭い取り”用の消臭デオドラントスプレー。
再び部室中に広がってゆく……今度は、むせかえるようなセッケンの香。
「うがあああああっっ………!!!」
そうして、ようやく三年生のオヤジーず三人が机に突っ伏して撃沈したところで、私もミカコも、スプレーから手を放した。
「ぅお…オレらはゴキブリかい……!」
「高校生の分際でタバコ吸う人間なんて、それ以下です!!」
「…………!!」
そんな呻きを洩らす彼らに残った気力の最後の最後までを叩きつぶしてから。
そして、誰も反論できなくなったのをいいことに、もう毎度毎度繰り返し続けてるセリフを私は怒鳴り散らす。まるで八つ当たりの如くに。
「てゆーか先輩方、タバコなんて吸ってることがガッコにバレたら退学だって、解ってるんですかそこらへん!? 天文部だって、…ただでさえ今ヒト少なくて“同好会”扱いになってるってーのに、今度こそ廃部になっちゃうじゃないですか!! あのインケン中年クサレ教師がトコロ構わずスパスパ吸いやがってるからニオイ残っててわからないとでも思ってるんでしょうけど、そんな考え甘いですからね!! つーか、そもそも何でせっかくヤツが居ない時にまでワザワザ吸うんですかっっ!! 信じらんないっっ!!」
「――ほおぉ? 仮にも“先生”に対して随分な言い草だなキサマ……?」
そこで聞こえてきた、――地の底を這うように低い…そんでもってシベリアの永久凍土よりも固く冷たい氷のような、声………。
反射的にドアの方向を見やった私の視界に映ったのは、長身の体を軽く屈めるようにして今しも扉をくぐらんとしている、くわえタバコに眼鏡をかけ白衣をだらしなく羽織っている一人の男性の姿。
コイツこそ私の天敵、ウチの部の顧問である理科教師。
天文部顧問、――またの名を碓氷恭平、二五歳。地学担当教諭で一年C組副担任。…つまり何の因果か私のクラスの副担任。…イヤガラセかしら?
ホントこんなヤツ、名前を呼ぶのもオゾマシイわよ! つーか、名前を呼んでやる価値すら無いわよ!
ヤツは部室に入るなり、部屋中に蔓延しているミントとキンモクセイとセッケンの香に気付いて、眉をしかめる。
「…まーた派手にやりやがったな、小泉桃花」
「…また出たわね、諸悪の根源ッ!!」
――片や、不機嫌そうにタバコの煙を吐き出しながら高い位置にある視線で見下す、長身のムサいオヤジ。
――片や、両足広げて両手を腰に屹立してキッと上を見上げる、余りにもこぢんまりとしたサイズの私。
そんなの……どっちに分があるかなんて、一目瞭然じゃないの悔しいけど……!!
睨み合っては視線にバチバチ火花を散らしていることに飽きたのか、ふいにヤツがニヤリと笑った。しかも鼻で。フフン…ってカンジで。
そして、さもイヤガラセのように、悠然と息を吸い込むと、フーッと深く、白い煙と共に吐き出した息を、あろうことか私の鼻先に向かって吹きかけて下さりやがる。――それこそ、“どんなに消臭したって所詮ムダムダムダムダ…(以下無限)”とでも言ってるみたいな……、
(………ッッ!!!!??)
――そんな私の視界のスミに……ミカコが耳を塞いでその場に蹲ったのが見え……そして、いつの間に起き上がっていたのか、三人の先輩たちがコソコソと部室のスミの方に移動していったのが解り………、
そして私は震える拳を握り締めて、思いっきり、息を吸い込む。
「こんッの…クサレ外道インケン中年教師ぃいいいいい―――――ッッ!!!!!!!」
カーン!! ――その部室中に響き渡る絶叫は、まるで“試合開始”のゴングのようだと……ミカコがいつもシミジミと言う。
「だれが『中年』だ、このジャリガキ!!」
「どー見たって中年以外のナニモノでもないでしょうが、このクソオヤジ!!」
「誰が『オヤジ』だクソガキ!? ふざけんなよ!! 俺はまだ二十代だッ!!」
「どうサバ読んだトコロで、所詮、四捨五入すれば三十でしょうが!! 充分にオヤジじゃない!!」
「なんだとぅ!? 三十男を馬鹿にすんなよ!? …ま、オマエみたいな乳臭ェジャリガキ程度にはわからないだろーけどなっ、この魅力が!!」
「わかってたまるか、そんなものッ!! つーか所詮オヤジ!! あくまでもオヤジ!! そんなん、モテない中年のタワゴトじゃんか!! うすらハゲ!!」
「誰が『ハゲ』だ!! 大人しく言わせておけばイイ気になりやがってこのチビガキ……!!」
「『チビ』言うな!! そういうアンタこそ、〈ウドの大木〉並みのムダにデカい図体してるクセして!! ヒトのこと言えるかー!!」
「ほおぅ…? 言ったな? それを言ったな? ――てめぇ、そんなに地学の点数、欲しくねえようだなぁ……?」
「うがっ!! ――ちょっと、だから、毎回ソレ持ち出すの卑怯っっ……!!」
「敬うべき先生サマを毎回トコトン罵倒してくれやがる罰と思い知れ、クソチビガキ」
「なっ…なによなによなによーッッ!! そーやってすぐ成績をタテに脅すよーな、可愛い生徒を『クソチビガキ』呼ばわりするよーな、そんな極悪非道教師の一体ドコを敬えってゆーのッ……!!」
「全部だ全部!! どこもかしこも敬いやがれ!! 神様だと思って、それ以上に崇め奉れ!! そのくらい、ヒトとしてトーゼンだろーが!?」
「ふっ…ふざけんじゃないわよ!! 間違ってるわよヒトとしてソレは!! アンタ一体、何様のつもり!?」
「“先生サマ”で“神様”で“俺様”だ!! その少ない脳ミソかっぽじってよーく叩き込んでおくんだな!! ――解ったか、たかが“ヒラ生徒”?」
「――――ッ!!!??」
こうして……最後には口で言い負かされる私の手が、まるで鬱憤晴らしの如く無意識に動いてしまうのは、もはや毎度のことで、あり………。
「くッ……!! このサイテー教師!! 失格教師!! 外道、非道、極道教師ぃいいいいいッッ……!!!!!」
再びの雄叫びと共にブンと唸りを上げて宙を舞った消臭スプレーズだったが、しかし、このクソ教師はそれを難なくヒョイッと避けて下さりやがり……、
「うがッッ……!!?」
そして過たず、標的を失った二本の缶は、今まさにドアを開けて入ってきたそのヒト――みっきー先輩の、頭部めがけて真っ直ぐに、そして勢い良くヒットしてしまうことと、あいなってしまったのであった………。
――モチロン、その後の私が半狂乱になって余計に暴れまくったことは、言うまでも無い。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編9が完結しました!(2026.3.6)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件
鉄人じゅす
恋愛
平凡な男子高校生【山田太陽】にとっての日常は極めて容姿端麗で女性にモテる親友の恋模様を観察することだ。
ある時、太陽はその親友の妹からこんな言葉を隠れて聞くことになる。
「私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない」
親友の妹【神凪月夜】は千回告白されてもYESと言わない学園のかぐや姫と噂される笑顔がとても愛らしい美少女だった。
月夜を親友の妹としか見ていなかった太陽だったがその言葉から始まる月夜の熱烈なラブコールに日常は急変化する。
恋に対して空回り気味でポンコツを露呈する月夜に苦笑いしつつも、柔和で優しい笑顔に太陽はどんどん魅せられていく。
恋に不慣れな2人が互いに最も大切な人になるまでの話。
7月14日 本編完結です。
小説化になろう、カクヨム、マグネット、ノベルアップ+で掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる