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2.好きな人
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今日の最後の講義が終わり、私は荷物を鞄に入れて帰り支度をする。そこへ見知った顔の男性が声をかけてきた。
「日吉さん。これからみんなでカラオケ行くんだけど、良かった一緒に行かないですか?」
カラオケ・・私はそういった中身のない盛り上がりが苦手であった。声をかけてきた人間にも興味がないことからすぐにお断りする。
「ごめんなさい。別の約束があるから」
すごく残念そうな顔をしたが、その男性はすぐに引き下がり、多分一緒にカラオケに行く人々であろうグループの元へ戻っていた。私はすぐに、そもそもそんな出来事など無かったかのように、彼らの存在を無視して教室を後にする。
私が校庭に出ると、すぐにさっきとは違う、別の男性が声をかけてくる。
「日吉さん。例の件考えてくれた?」
彼の言っている例の件とはサークルの誘いであった。何度か断っているのだがしつこく誘ってくる。
「私、テニスやりたくないので・・」
「いやいや、テニスなんてそんなにやらなくていいんだよ。集まってワイワイやるだけでいい軽いサークルだから大丈夫だよ」
大丈夫・・何が大丈夫なんだろうか。軽いサークルの何が大丈夫なんだろうか。テニスサークルなのにテニスをあまりやらず、ワイワイ集まるだけのそんなものになぜ私が入らなければいけないのか。少し怒りすら感じる彼の言葉に、私は少しきつめにお断りをする。
「悪いですけど他をあたってもらえますか。正直興味がないです」
彼はそんな対応に少し驚いていたが、すぐに作り笑いでごまかすと、私の元を離れていった。
私の容姿は、一般的に見てかなり美人である。自分で言うのもなんだが、少し幼く見えるので、美少女と言って良いレベルであると自己評価する。その為、必要以上に異性からの誘いがある。それは私にとってすごく煩わしいことであった。
郊外に出たところで、鞄から優しい音楽が流れる。それはスマホの着信音に設定している音で、友人からのメッセージを知らせてくれた。私は鞄からスマホで取り出すと着信を確認する。
紅麗《クララ》からだ・・それは今現在、唯一まともな付き合いのある友人からのものであった。付き合いは短く、まだ知り合って3ヶ月ほどだが、彼女のサバサバした性格が一緒にいて疲れないので、友人としての関係を維持していた。
紅麗からのメッセージは、暇なら飲みにでも行かないかとの誘いであった。少し悩んだが、この後、特に予定もないのでそれを了承するメッセージを返した。
◇
若者の住みたい街ランキングにて、三年連続12位と中途半端な人気を誇る街、そんな駅の改札前で、真木紅麗《まきくらら》は、友人である日吉愛梨《ひよしあいり》を待っていた。
古着屋やライブハウスなど、若者好みの店が多い街なので、日が暮れたこの時間でも、多くの若者が紅麗の前を通りすぎる。通りすぎる女性の中には、紅麗の姿をチラリと見ると、二度見する者が稀にいた。それは紅麗を見て、絶世の美少年と勘違いして、一瞬で心を奪われてしまった行動なのだが、よく見るとボーイッシュだが、女性的なファッション、小柄で華奢なスタイルと、性別の判断を迷う者が多かった。
愛梨は、紅麗の指定した駅の改札を出ると、駅前の小さな広場へと移動する。人は多かったが、すぐに待ち合わせの人物を見つけることができた。
「紅麗。お待たせ」
「愛梨。今日も可愛いね」
紅麗はいつも会うとこうやって私を褒めてくれる。嫌な男性から同じように言われると不愉快に感じるが、同性である紅麗から言われると素直に嬉しく思えた。
「どこ行くの?」
「ちょっとね、友達のバイトしている店なんだけど・・」
「へえ、珍しいな。紅麗が友達の店に連れて行こうとするなんて」
「いや、話を聞くと良さそうな店だから。愛梨と一緒に行きたくなったんだ」
「そかそか。それじゃ、早速行ってみましょうか」
自然と愛梨は紅麗の手を握っていた。いつもそんな積極的な行動はしないのだが、なぜか今はそうしたかった。愛梨に手を握られた紅麗はちょっと照れたような笑みを浮かべる。二人はそのまま目的の店へと歩みを進めた。
◇
「嶺二。ちょっとその皿取ってくれ」
「はい。これですね」
「ありがとよ」
金曜の夜ということもあって、まだ早い時間であったが店内は混み合っていた。
「嶺二くん」
注文の生ビールをお客さんのテーブルに運んだ後に、そう声をかけられた。見ると、真木さんが店の入り口でこちらを見ている。
「真木さん。来てくれたんだ」
「あれだけ話聞いてると来てみたくなっちゃうよ。それよりいっぱいだね」
「あっ、ちょっと待って、あそこお客さん、お会計終わってるから、すぐ空くと思うよ」
「じゃあ、ちょっと待ってる。あっそうだ、この子、私の友達で日吉愛梨。愛梨、この人がさっき話した、友達の氷見嶺二くん」
日吉愛梨と呼ばれた女の子は、真木さんに紹介されて、僕に小さくお辞儀する。僕もその子に同じようにお辞儀を返した。
「嶺二! これ持っててくれ」
「あっはい」
慌てて返事をしながら、真木さんに謝る。
「ごめん。少しだけ待ってね」
お会計を済ましたお客さんは、思ったより長居し、10分ほど居座った。僕はすぐにテーブルを片付けて、真木さんと日吉さんを席に案内する。
「待たせてごめんね」
「いいよ。それだけ人気ってことだから期待しちゃうな」
「何飲む?」
「そうだな・・私はハイボール、愛梨は何にする?」
「生搾りオレンジサワーにする」
「ハイボールは色々あるけど何が良い?」
僕がそう聞くと、真木さんはメニューを眺めて、角を指定した。
「角ハイボールと生搾りオレンジサワーね」
二人にそう言うと、僕は厨房に戻り、指定された飲み物を用意した。その飲み物を持っていく時に、オーナーが僕に声をかけてきた。
「あの子らは嶺二の友達か?」
「あっそうですよ」
僕が答えるとオーナーはうんうんと小さく頷いた。
宮本理沙《みやもとりさ》は面白くなかった。先日、私に告白してきた男子が、私より綺麗な女の子と楽しそうに話しているのが気に入らなかったのだ。告白は断ったけど、なぜかその行動は、自分に対する裏切りに見えた。
「宮本さん。どうしたの?」
桑原が聞くと、満面の笑みで、彼女はこう答えた。
「なんでもないです」
彼女は、そのままお客さんに呼ばれて、飛び出していく。氷見嶺二が、宮本理沙に告白したことは、桑原は知っていた。その結果も嶺二から聞いていて知っているのだが・・それで嶺二が落ち込むのは理解するけど、宮本理沙の様子がおかしくなるのは腑に落ちなかった。
「真木さん。これうちのオーナから、サービスだって」
「うわ・・ありがとう。美味しそうね」
それは希少部位ばかりの焼き鳥の串盛りだった。僕の友達ってことで、オーナーが気にしてくれたみたいだ。
「日吉さん。飲み物頼みますか?」
彼女の飲み物がなくなりそうなのを見て、僕はそう聞いた。彼女は少し悩んでから、僕におすすめを聞いてきた。女性客に人気のカシスオレンジを進めると、彼女はそれを注文してくれた。
少しお客の波が緩やかになり、少し休憩を取る余裕が出てきた。僕はオーナーに言われて、裏口にある休憩所で少し休ませてもらっていた。そこへ宮本理沙がやってくる。僕が少し気まずくしていると、彼女の方から口を開いてきた。
「3番テーブルにいる客は誰ですか?」
「あっ、友達だよ」
「仲良さそうね」
「え・・と。知り合ってそんなに経ってないけど、気が合うみたいで仲良いよ」
「ふ~ん・・・」
何が言いたいんだろう。何か気に入らないように見えるけど、それが何か理解できなかった。
「それよりこの前はごめん・・君に気がないのにあんなこと言って・・」
「別に・・・」
やはり気まずい。沈黙が嫌で話を進めたけど、さらに気まずさが残る。
「そろそろ戻るね」
気まずさに耐えれなくなった僕は、そのまま休憩所を後にしようとした。
「ちょっと嶺二くん・・・」
宮本理沙に呼ばれて足を止める。振り返って話を聞いた。
「どうしたの宮本さん」
「・・・デートならいいよ。前はいきなり付き合ってって言われたから断ったけど・・順序良く行くなら考える・・・」
意外な言葉が彼女の口から伝えられた。デートで様子を見て、良さそうなら付き合おうって意味かな・・その言葉を聞いて、すごく嬉しいはずなのだけど・・なぜか素直に喜べなかった。
とりあえずデートの約束をして、その場を後にする。告白した手前、彼女のその話を、なぜか気が乗らないと断る勇気は僕にはなかった。
ホールに戻ると、真木さんが僕を手招きする。すぐに彼女たちの元へと向かう。追加の注文を聞きながら、真木さんに意外な誘いを受けた。
「さっき愛梨と話ししてたんだけど、来週の日曜日、等々力渓谷に絵を描きにいくんだ。それに嶺二くんもどうかと思って。嶺二くん写真撮るの好きって言ってたでしょ。あそこの自然は良い被写体になると思うんだけど」
等々力渓谷には行ったことなかった。確かに東京ではあそこの自然は良いと話を聞いている。純粋な興味もあるし、真木さんの誘いが素直に嬉しかった。僕は二時返事でそれをOKする。
真木さんは美大生で、絵の勉強をしている。ポケットサックスの演奏を聴いた時は、音楽の道を目指しているのかと勝手に思っていたけど、そっちは完全に趣味で、本道は美術の方らしい。
彼女たちはそれからしばらく店にいて、帰って行った。その後、真木さんからメッセージが送られてきた。そこには、安いとか美味しいとか、店を褒めてくれる内容が書かれていた。そして最後に、接客してくれた店員さんが、気さくで親切でとても良いと書いてくれていた。
外食評価サイトの口コミのようなそのメッセージの内容に、僕は店からの投稿に対する返事のような返信を送った。硬い口調で書かれたそのメッセージを見て、真木さんがどんな表情をするか想像して僕は微笑む。
「日吉さん。これからみんなでカラオケ行くんだけど、良かった一緒に行かないですか?」
カラオケ・・私はそういった中身のない盛り上がりが苦手であった。声をかけてきた人間にも興味がないことからすぐにお断りする。
「ごめんなさい。別の約束があるから」
すごく残念そうな顔をしたが、その男性はすぐに引き下がり、多分一緒にカラオケに行く人々であろうグループの元へ戻っていた。私はすぐに、そもそもそんな出来事など無かったかのように、彼らの存在を無視して教室を後にする。
私が校庭に出ると、すぐにさっきとは違う、別の男性が声をかけてくる。
「日吉さん。例の件考えてくれた?」
彼の言っている例の件とはサークルの誘いであった。何度か断っているのだがしつこく誘ってくる。
「私、テニスやりたくないので・・」
「いやいや、テニスなんてそんなにやらなくていいんだよ。集まってワイワイやるだけでいい軽いサークルだから大丈夫だよ」
大丈夫・・何が大丈夫なんだろうか。軽いサークルの何が大丈夫なんだろうか。テニスサークルなのにテニスをあまりやらず、ワイワイ集まるだけのそんなものになぜ私が入らなければいけないのか。少し怒りすら感じる彼の言葉に、私は少しきつめにお断りをする。
「悪いですけど他をあたってもらえますか。正直興味がないです」
彼はそんな対応に少し驚いていたが、すぐに作り笑いでごまかすと、私の元を離れていった。
私の容姿は、一般的に見てかなり美人である。自分で言うのもなんだが、少し幼く見えるので、美少女と言って良いレベルであると自己評価する。その為、必要以上に異性からの誘いがある。それは私にとってすごく煩わしいことであった。
郊外に出たところで、鞄から優しい音楽が流れる。それはスマホの着信音に設定している音で、友人からのメッセージを知らせてくれた。私は鞄からスマホで取り出すと着信を確認する。
紅麗《クララ》からだ・・それは今現在、唯一まともな付き合いのある友人からのものであった。付き合いは短く、まだ知り合って3ヶ月ほどだが、彼女のサバサバした性格が一緒にいて疲れないので、友人としての関係を維持していた。
紅麗からのメッセージは、暇なら飲みにでも行かないかとの誘いであった。少し悩んだが、この後、特に予定もないのでそれを了承するメッセージを返した。
◇
若者の住みたい街ランキングにて、三年連続12位と中途半端な人気を誇る街、そんな駅の改札前で、真木紅麗《まきくらら》は、友人である日吉愛梨《ひよしあいり》を待っていた。
古着屋やライブハウスなど、若者好みの店が多い街なので、日が暮れたこの時間でも、多くの若者が紅麗の前を通りすぎる。通りすぎる女性の中には、紅麗の姿をチラリと見ると、二度見する者が稀にいた。それは紅麗を見て、絶世の美少年と勘違いして、一瞬で心を奪われてしまった行動なのだが、よく見るとボーイッシュだが、女性的なファッション、小柄で華奢なスタイルと、性別の判断を迷う者が多かった。
愛梨は、紅麗の指定した駅の改札を出ると、駅前の小さな広場へと移動する。人は多かったが、すぐに待ち合わせの人物を見つけることができた。
「紅麗。お待たせ」
「愛梨。今日も可愛いね」
紅麗はいつも会うとこうやって私を褒めてくれる。嫌な男性から同じように言われると不愉快に感じるが、同性である紅麗から言われると素直に嬉しく思えた。
「どこ行くの?」
「ちょっとね、友達のバイトしている店なんだけど・・」
「へえ、珍しいな。紅麗が友達の店に連れて行こうとするなんて」
「いや、話を聞くと良さそうな店だから。愛梨と一緒に行きたくなったんだ」
「そかそか。それじゃ、早速行ってみましょうか」
自然と愛梨は紅麗の手を握っていた。いつもそんな積極的な行動はしないのだが、なぜか今はそうしたかった。愛梨に手を握られた紅麗はちょっと照れたような笑みを浮かべる。二人はそのまま目的の店へと歩みを進めた。
◇
「嶺二。ちょっとその皿取ってくれ」
「はい。これですね」
「ありがとよ」
金曜の夜ということもあって、まだ早い時間であったが店内は混み合っていた。
「嶺二くん」
注文の生ビールをお客さんのテーブルに運んだ後に、そう声をかけられた。見ると、真木さんが店の入り口でこちらを見ている。
「真木さん。来てくれたんだ」
「あれだけ話聞いてると来てみたくなっちゃうよ。それよりいっぱいだね」
「あっ、ちょっと待って、あそこお客さん、お会計終わってるから、すぐ空くと思うよ」
「じゃあ、ちょっと待ってる。あっそうだ、この子、私の友達で日吉愛梨。愛梨、この人がさっき話した、友達の氷見嶺二くん」
日吉愛梨と呼ばれた女の子は、真木さんに紹介されて、僕に小さくお辞儀する。僕もその子に同じようにお辞儀を返した。
「嶺二! これ持っててくれ」
「あっはい」
慌てて返事をしながら、真木さんに謝る。
「ごめん。少しだけ待ってね」
お会計を済ましたお客さんは、思ったより長居し、10分ほど居座った。僕はすぐにテーブルを片付けて、真木さんと日吉さんを席に案内する。
「待たせてごめんね」
「いいよ。それだけ人気ってことだから期待しちゃうな」
「何飲む?」
「そうだな・・私はハイボール、愛梨は何にする?」
「生搾りオレンジサワーにする」
「ハイボールは色々あるけど何が良い?」
僕がそう聞くと、真木さんはメニューを眺めて、角を指定した。
「角ハイボールと生搾りオレンジサワーね」
二人にそう言うと、僕は厨房に戻り、指定された飲み物を用意した。その飲み物を持っていく時に、オーナーが僕に声をかけてきた。
「あの子らは嶺二の友達か?」
「あっそうですよ」
僕が答えるとオーナーはうんうんと小さく頷いた。
宮本理沙《みやもとりさ》は面白くなかった。先日、私に告白してきた男子が、私より綺麗な女の子と楽しそうに話しているのが気に入らなかったのだ。告白は断ったけど、なぜかその行動は、自分に対する裏切りに見えた。
「宮本さん。どうしたの?」
桑原が聞くと、満面の笑みで、彼女はこう答えた。
「なんでもないです」
彼女は、そのままお客さんに呼ばれて、飛び出していく。氷見嶺二が、宮本理沙に告白したことは、桑原は知っていた。その結果も嶺二から聞いていて知っているのだが・・それで嶺二が落ち込むのは理解するけど、宮本理沙の様子がおかしくなるのは腑に落ちなかった。
「真木さん。これうちのオーナから、サービスだって」
「うわ・・ありがとう。美味しそうね」
それは希少部位ばかりの焼き鳥の串盛りだった。僕の友達ってことで、オーナーが気にしてくれたみたいだ。
「日吉さん。飲み物頼みますか?」
彼女の飲み物がなくなりそうなのを見て、僕はそう聞いた。彼女は少し悩んでから、僕におすすめを聞いてきた。女性客に人気のカシスオレンジを進めると、彼女はそれを注文してくれた。
少しお客の波が緩やかになり、少し休憩を取る余裕が出てきた。僕はオーナーに言われて、裏口にある休憩所で少し休ませてもらっていた。そこへ宮本理沙がやってくる。僕が少し気まずくしていると、彼女の方から口を開いてきた。
「3番テーブルにいる客は誰ですか?」
「あっ、友達だよ」
「仲良さそうね」
「え・・と。知り合ってそんなに経ってないけど、気が合うみたいで仲良いよ」
「ふ~ん・・・」
何が言いたいんだろう。何か気に入らないように見えるけど、それが何か理解できなかった。
「それよりこの前はごめん・・君に気がないのにあんなこと言って・・」
「別に・・・」
やはり気まずい。沈黙が嫌で話を進めたけど、さらに気まずさが残る。
「そろそろ戻るね」
気まずさに耐えれなくなった僕は、そのまま休憩所を後にしようとした。
「ちょっと嶺二くん・・・」
宮本理沙に呼ばれて足を止める。振り返って話を聞いた。
「どうしたの宮本さん」
「・・・デートならいいよ。前はいきなり付き合ってって言われたから断ったけど・・順序良く行くなら考える・・・」
意外な言葉が彼女の口から伝えられた。デートで様子を見て、良さそうなら付き合おうって意味かな・・その言葉を聞いて、すごく嬉しいはずなのだけど・・なぜか素直に喜べなかった。
とりあえずデートの約束をして、その場を後にする。告白した手前、彼女のその話を、なぜか気が乗らないと断る勇気は僕にはなかった。
ホールに戻ると、真木さんが僕を手招きする。すぐに彼女たちの元へと向かう。追加の注文を聞きながら、真木さんに意外な誘いを受けた。
「さっき愛梨と話ししてたんだけど、来週の日曜日、等々力渓谷に絵を描きにいくんだ。それに嶺二くんもどうかと思って。嶺二くん写真撮るの好きって言ってたでしょ。あそこの自然は良い被写体になると思うんだけど」
等々力渓谷には行ったことなかった。確かに東京ではあそこの自然は良いと話を聞いている。純粋な興味もあるし、真木さんの誘いが素直に嬉しかった。僕は二時返事でそれをOKする。
真木さんは美大生で、絵の勉強をしている。ポケットサックスの演奏を聴いた時は、音楽の道を目指しているのかと勝手に思っていたけど、そっちは完全に趣味で、本道は美術の方らしい。
彼女たちはそれからしばらく店にいて、帰って行った。その後、真木さんからメッセージが送られてきた。そこには、安いとか美味しいとか、店を褒めてくれる内容が書かれていた。そして最後に、接客してくれた店員さんが、気さくで親切でとても良いと書いてくれていた。
外食評価サイトの口コミのようなそのメッセージの内容に、僕は店からの投稿に対する返事のような返信を送った。硬い口調で書かれたそのメッセージを見て、真木さんがどんな表情をするか想像して僕は微笑む。
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