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知らない時間
55:人の恋バナは面白い
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走って何処かへ行ったトゥットを待ちながら、私は久々にアガタとコラーロと3人だけになった。これはちょうど良い機会なのだろう。
「アガタ、コラーロ、ちょっと話があるの。良いかしら?」
「当然でございます」
「勿論です!」
そう言った2人は窓の方へ行くと手早くカーテンを閉めて、扉の前でそれぞれが呪文を唱えてから私のすぐ近くに戻ってくる。まったく察しの良い侍女だ。
カエオレウムに来る時にもあまりちゃんと話をしたことがなかったのに、それを問いただすこともなく私の言うことを聞き、時には意見もくれる。こんな私にはもったいない2人だ。幼い頃から一緒にいるこの2人なら、私が何を言おうと信じてくれる。
それにも関わらず今まで黙っていたのはあまりにも突拍子もない計画だったから。
巧く行かなかった時に巻き込みたくなかったから。
でも今はーー
「2人とも驚かずに聞いて欲しいんだけど、私は結婚をせずにペルラに帰ろうと思っているの」
「「はい。そうなのですね」」
「・・・え?もう少し驚かないの?」
「驚きもしたいのですが、カエオレウムに来てからの皇女様の対応はとてもオケアノス殿下を慕っているようには見えませんし…、ねぇ、コラーロにはどう見えている?」
「そうですね~、憎々しげ一歩手前と言う視線ですね。まぁ私から見てもオケアノス殿下は最悪ですので、さっさと帰れるモノでしたらペルラに帰りたいですけども。殿下とご結婚されるのでしたらシドン氏をおススメしたい程です」
「ああ、分かるわ。頼りになりますもの!ーーでもシドン氏はリビュア人ですし難しいでしょうね…殿下はあまり物事を深くお考えにならないのだと思います。思慮深ければ皇女様が嫁がれた意味を考えてもっと動くでしょうに…。気遣いといった点でしたらニックス氏も素晴らしいと思いますよ!皇女様はご不在なことが多いですが、お部屋にこもられている際にも気遣いの物や、城で働く面々への周知も彼がして下さいました」
「さすがに露骨過ぎたかしら…」
「いえいえ、このアガタめの意見で恐縮ですが、初めにカエオレウムでの挨拶からオケアノス殿下は皇女様をライバル視しているように見受けました」
私以外の目から見ても同じように見えているのね。それなら過去云々の話はしないでも、ここから先の話はできそうね。
「そう言ってくれると助かるわ。でもこのまま婚姻しないでペルラに帰ることは、恐らく陛下がお認めにならないでしょう?ですから、オケアノス殿下から婚姻を拒絶いただく手を考えたいのよ」
「皇女様が馬鹿殿下に拒絶される?!そんなの許しがたいです!」
「では他にどんな手があるというの?シュケレシュとの貿易でペルラは以前よりは豊かになってはいるけど、国民の特性上カエオレウムと戦になったら勝ち目はないもの」
「でしたらこんな手はーー」
「ただ今戻りました!!」
コラーロが話しかけたのと同時に、クローゼットの方から明るい声が聞こえて来た。トゥットが戻って来たのだろう。日中にも拘らずカーテンを閉めている不穏な雰囲気を隠すため、アガタとコラーロは急いでカーテンを開いた。
「おかえりなさい。良く知ってそうな人はいたの?」
「ええ!丁度いました!アルテム早く早く!」
「えっ、トゥット!?突然目の前に貴婦人のドレスが沢山あるんだけど!?エッセ侯爵令嬢、足下にお気をつけ下さい」
「はい。あら、このドレス見覚えがございます」
んんっ?エッセ侯爵令嬢ってことはセールビエンスも来ているの?
トゥット、どういうことかしら…
「ルサルカ様!!」
「セールビエンス様!?」
「お久しぶりでございます。アルテム様に新しい化粧のご紹介をしていただいていた所に、トゥットさんがいらしてルサルカ様にお会い出来ると仰っているのを聞いていても立ってもいられず…。突然押し掛けるなんてご無礼をしてしまい…」
「いいえ!とんでもない!私こそ長らく不義理をしてしまって…。さぁ立ち話もなんですからこちらにお座りになってください。そして、アルテムも突然呼びつけてごめんなさいね」
「問題ございませんよ。皇女様のお願いなら真っ先に対応しろと会頭に言われていますので」
「ーートゥット、アルテムを連れて来たと言うことは」
「そう!アルテムは元々はリビュアの中でも指折りの名家の三男坊なんだよ。で、なまじっか、家にお金があるからいい歳まで働かないで家に閉じこもったんだって!」
意外過ぎる。どちらかと言えばパーティや社交界などに毎夜通っていそうな外見なのに。
「トゥット…その話は皇女様や侯爵令嬢の前では…」
「いいえアルテム!私はそのお話を聞きたいのです!!」
思わず立ち上がって声を張り上げると、アルテムが二三歩後ろに後ずさりする。
嫌だ、私ったら思わず大声を出してしまったのね。
「そのお話…?閉じこもっていた私の話ですか?」
「それも大変興味深いですが、今お聞きしたいのは『何故外に出ようと思ったか』ですわね」
「外に出ようと思った理由ですか。簡単です。シュケレシュを見て面白そうって思ったからです」
「シュケレシュに興味をもったから、だけ?」
「アルテム~?嘘はダメだよ??皇女様、アルテムはシュケレシュにも興味はあったけど、一番はシュケレシュで働いていた女の子に恋しちゃったのがここで働くきっかけって会頭から教えてもらいました!」
「えっ、ちょっ、なんでそれ知ってるの!?ーーもう、そうです。ずーっと家で絵画とか彫刻とか眺めていたアルテム少年は、絵画に見まごうばかりの女性を見かけて、彼女について調べてもらったらシュケレシュって商会で働いてるって聞いて、急いで会頭に雇ってくれるようにお願いしたんです」
「それで、シドンが雇ってくれたの?」
「面白そうだから良いよって。結果は報告させられましたけど」
困ったように眉を八の字にして後ろ頭を掻いている雰囲気で、結果が良くなかったのが分かる。
聞かない方が良いかしら。
「アルテム様、結果をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
セールビエンス!?結構突っ込むのね。
いや、アルテムとそれだけ打ち解けているってことかしら。
アルテム、嫌なら断っても良いのよ?言葉にはできないけど視線でそうテレパシーを伝えられるかしら。
「もうキズも癒えているので大丈夫ですよ。彼女はダガーの奥さんになりました」
キッツい。
想定外の登場人物の名前に反応が出来なくなった。
「アガタ、コラーロ、ちょっと話があるの。良いかしら?」
「当然でございます」
「勿論です!」
そう言った2人は窓の方へ行くと手早くカーテンを閉めて、扉の前でそれぞれが呪文を唱えてから私のすぐ近くに戻ってくる。まったく察しの良い侍女だ。
カエオレウムに来る時にもあまりちゃんと話をしたことがなかったのに、それを問いただすこともなく私の言うことを聞き、時には意見もくれる。こんな私にはもったいない2人だ。幼い頃から一緒にいるこの2人なら、私が何を言おうと信じてくれる。
それにも関わらず今まで黙っていたのはあまりにも突拍子もない計画だったから。
巧く行かなかった時に巻き込みたくなかったから。
でも今はーー
「2人とも驚かずに聞いて欲しいんだけど、私は結婚をせずにペルラに帰ろうと思っているの」
「「はい。そうなのですね」」
「・・・え?もう少し驚かないの?」
「驚きもしたいのですが、カエオレウムに来てからの皇女様の対応はとてもオケアノス殿下を慕っているようには見えませんし…、ねぇ、コラーロにはどう見えている?」
「そうですね~、憎々しげ一歩手前と言う視線ですね。まぁ私から見てもオケアノス殿下は最悪ですので、さっさと帰れるモノでしたらペルラに帰りたいですけども。殿下とご結婚されるのでしたらシドン氏をおススメしたい程です」
「ああ、分かるわ。頼りになりますもの!ーーでもシドン氏はリビュア人ですし難しいでしょうね…殿下はあまり物事を深くお考えにならないのだと思います。思慮深ければ皇女様が嫁がれた意味を考えてもっと動くでしょうに…。気遣いといった点でしたらニックス氏も素晴らしいと思いますよ!皇女様はご不在なことが多いですが、お部屋にこもられている際にも気遣いの物や、城で働く面々への周知も彼がして下さいました」
「さすがに露骨過ぎたかしら…」
「いえいえ、このアガタめの意見で恐縮ですが、初めにカエオレウムでの挨拶からオケアノス殿下は皇女様をライバル視しているように見受けました」
私以外の目から見ても同じように見えているのね。それなら過去云々の話はしないでも、ここから先の話はできそうね。
「そう言ってくれると助かるわ。でもこのまま婚姻しないでペルラに帰ることは、恐らく陛下がお認めにならないでしょう?ですから、オケアノス殿下から婚姻を拒絶いただく手を考えたいのよ」
「皇女様が馬鹿殿下に拒絶される?!そんなの許しがたいです!」
「では他にどんな手があるというの?シュケレシュとの貿易でペルラは以前よりは豊かになってはいるけど、国民の特性上カエオレウムと戦になったら勝ち目はないもの」
「でしたらこんな手はーー」
「ただ今戻りました!!」
コラーロが話しかけたのと同時に、クローゼットの方から明るい声が聞こえて来た。トゥットが戻って来たのだろう。日中にも拘らずカーテンを閉めている不穏な雰囲気を隠すため、アガタとコラーロは急いでカーテンを開いた。
「おかえりなさい。良く知ってそうな人はいたの?」
「ええ!丁度いました!アルテム早く早く!」
「えっ、トゥット!?突然目の前に貴婦人のドレスが沢山あるんだけど!?エッセ侯爵令嬢、足下にお気をつけ下さい」
「はい。あら、このドレス見覚えがございます」
んんっ?エッセ侯爵令嬢ってことはセールビエンスも来ているの?
トゥット、どういうことかしら…
「ルサルカ様!!」
「セールビエンス様!?」
「お久しぶりでございます。アルテム様に新しい化粧のご紹介をしていただいていた所に、トゥットさんがいらしてルサルカ様にお会い出来ると仰っているのを聞いていても立ってもいられず…。突然押し掛けるなんてご無礼をしてしまい…」
「いいえ!とんでもない!私こそ長らく不義理をしてしまって…。さぁ立ち話もなんですからこちらにお座りになってください。そして、アルテムも突然呼びつけてごめんなさいね」
「問題ございませんよ。皇女様のお願いなら真っ先に対応しろと会頭に言われていますので」
「ーートゥット、アルテムを連れて来たと言うことは」
「そう!アルテムは元々はリビュアの中でも指折りの名家の三男坊なんだよ。で、なまじっか、家にお金があるからいい歳まで働かないで家に閉じこもったんだって!」
意外過ぎる。どちらかと言えばパーティや社交界などに毎夜通っていそうな外見なのに。
「トゥット…その話は皇女様や侯爵令嬢の前では…」
「いいえアルテム!私はそのお話を聞きたいのです!!」
思わず立ち上がって声を張り上げると、アルテムが二三歩後ろに後ずさりする。
嫌だ、私ったら思わず大声を出してしまったのね。
「そのお話…?閉じこもっていた私の話ですか?」
「それも大変興味深いですが、今お聞きしたいのは『何故外に出ようと思ったか』ですわね」
「外に出ようと思った理由ですか。簡単です。シュケレシュを見て面白そうって思ったからです」
「シュケレシュに興味をもったから、だけ?」
「アルテム~?嘘はダメだよ??皇女様、アルテムはシュケレシュにも興味はあったけど、一番はシュケレシュで働いていた女の子に恋しちゃったのがここで働くきっかけって会頭から教えてもらいました!」
「えっ、ちょっ、なんでそれ知ってるの!?ーーもう、そうです。ずーっと家で絵画とか彫刻とか眺めていたアルテム少年は、絵画に見まごうばかりの女性を見かけて、彼女について調べてもらったらシュケレシュって商会で働いてるって聞いて、急いで会頭に雇ってくれるようにお願いしたんです」
「それで、シドンが雇ってくれたの?」
「面白そうだから良いよって。結果は報告させられましたけど」
困ったように眉を八の字にして後ろ頭を掻いている雰囲気で、結果が良くなかったのが分かる。
聞かない方が良いかしら。
「アルテム様、結果をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
セールビエンス!?結構突っ込むのね。
いや、アルテムとそれだけ打ち解けているってことかしら。
アルテム、嫌なら断っても良いのよ?言葉にはできないけど視線でそうテレパシーを伝えられるかしら。
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