やり直し皇女は母国に帰りたい

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知らない時間

60:おあつらえむきの毒

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緑の壷の件でシドンは私が関わるのに否定的だった。まぁ分からなくもない。
アケロンも知っていれば確実に止めたでしょうし、それこそお父様が知ったらいつも持っている三叉槍でお尻を叩かれるだけでは済まないでしょう。これのせいで過去の私は命を落としたのだから、関わること自体が危険というのは重々承知している。
だからこうしてシドン達の話を聞いたアケロンが眉間に皺を寄せているのは当たり前なのだ。

「はぁ…皇女様、なんでこんな無茶をするんです?」
「無茶かしら?」
「無茶過ぎます。ランチャの耳に入ったら国を滅ぼしてでもカエオレウムに抗議に来るでしょうし、小生は当然のこと宝石姉妹の命もない」
「それほど…?!」

私が怒られる、と言うレベルではないのは当然理解している。でも、周囲にまでお父様がそのようなことをされるかしら?シドンはどう思うーーああ、力強く頷いているから同意なのね。

「大体シュケレシュの皆さんが全うだったから良かったようなもんだよ?もし利益しか見てない商人集団だったら、皇女様の名前も利用されてたかもしれないし、えーっと、あなたなんて名前だっけ?」
「メルカトルと申します」
「そう!メルカトルと裏で手を結んで皇女様を黒幕に仕立て上げることだって簡単だよ。なのに、小生に相談もなくまったく…」
「ごめんなさい。どうしても気になってしまって」
「過ぎたことだから仕方がないけど、今後は一人で危険なことをしないで。シドン、ありがとうね」
「とんでもない。シュケレシュはペルラおよびルサルカ様とは良い関係を築いていきたいだけです。そしてこのメルカトル達も今ではシュケレシュの一員です」
「はい。カリドゥスでは悪事に手を染めることとなっておりましたが、今では後ろめたいこともなく太陽の下を歩けます」

メルカトルは以前見た時とは別人のように晴れやかな表情でそう語った。良心の呵責のない仕事とはここまで人間をかえてしまうのかと、見ているこちらが驚いてしまうほどよ。
とはいえ、今日の私は思い出話や叱られる為にここに来たのではないのよ。

「それでシドンはどうして私と、そしてアケロンを呼んだの?」
「いい加減本題に入れと言うことですね。お2人に来ていただいたのは、その緑の壷の中身についてお話をさせていただこうと思ってのことです。皇女様が仰っていた通り、カリドゥスでは『緑の壷』をリビュア製のお茶として流通させていたそうです。そしてその中身は猛毒でした」
シドンの説明にメルカトルは慌てて付け加える。
「皇女様!言い訳と取られてしまうかもしれませんが、私ども従業員は本当に知らされていなかったのです!」
「うん。それはシュケレシュも保証しますよ。本当に販売しているメルカトル達には『高級茶葉』としてしか説明がなかった。お陰で盗み飲みをした何人かが重篤になっていますし。ーーまぁ、彼らがいたことで毒の成分は7割程は分かったのですが、残りの3割が分かりません。それを伺いたくてお2人に来ていただきました」

シドンにそのように説明されると首を傾げたくなってしまう。過去でのサラはそれほど重篤になっただろうか、と。

「重篤といいますと、命を落とした方もいるということ?」
「はい。そしてこれは他の国にも流通される直前でした」
「危ない所だったわけね」

するとアケロンは難しい顔をしてシドンに問いかけた。
「シドンはこのことをリビュアに報告をしたのかい?」
「ーーーまだです」
「それはカエオレウムこの国との関係性のため?それとも商売のため?」
「どちらでもありません。リビュア製として出回ってしまっていたのだとしたら報告は義務ですが、今回は、皇女様のお陰もあり未然に防げました。この状態でリビュアが文句を言っても無駄でしょうし、下手したらこちら側に疑惑をかけてくる可能性もありますからね」
「それってさ、小生は皇女様を守ってくれたって受け取るけど間違いないかな?」
「そんなおこがましいこと考えも及びませんでしたよ」
ん?私を守る?どういうことかしら?
「アケロンどういう意味?」
「皇女様は結構賢いのに、回転が鈍くなる時あるよね」
「失礼な!シドン、どういうことです?」
「私如きでは大賢者様のお考えなんて全然皆目検討もつきません」
「まぁ~~!私を除け者にするのね。良いわよ、ーー早く本題に入ってくださらない?」
「承知しました」

クスクスと笑いながらシドンは側にいた人から壷を受け取るとアケロンの前に緑色の壷を置いた。アケロンは躊躇うこともなくその蓋を開けると、しばらく掌を扇のようにして香りを立たせて嗅いだり、茶葉をいくつか宙に浮かせて目の前にたゆたわせて中身を吟味した。

「へぇ、ちんの羽って生で見たのは初めてだよ」
「やはりそうですか」
「リビュアの最高級ランクの茶葉に鴆の羽毛とはお誂え向きだね。良く考えてるじゃない」
「こんなのが出回ったらそれこそリビュアは外国から糾弾されますね…」

鴆?羽ということは鳥のことかしら。過去で私はこの毒のことを何も教えてもらえなかったけど、羽が入っているのはそんなに問題なのかしら。

「アケロン、私にも分かるように教えて頂戴」
「失礼。そうだよね。鴆はリビュアに古くから伝わる毒の羽を持つ鳥のことだよ。まぁ実在はしてないみたいだけどね、昔から影でその羽に見立てた毒の糸が作られていたんだ。それが入っている」
「その毒は強い毒なの?」
「強いね。羽1枚をコップに浸して一晩置いた水を飲ませれば、飲んだ相手は命を失うよ。この壷には細かくちぎった羽が入っているようだから、一杯飲んだ程度じゃ致死量にはならないけど、常用したら死に至るね。しかもこの毒は無味無臭だからまず気がつかない」
「凄い毒なのね…」
過去の私はマリに言われたとはいえ、それをサラに飲ませてしまったのね。効果の凄さを知った今思うと、彼女が命を落とさなくて良かったと思うほかないわ。
でも、そんな毒を販売しようとしていたカリドゥスの目的はなんなのかしら。

「シドン、この毒は全て回収出来ているの?」
「おそらく…としか言えません。メルカトルが把握している分は押さえましたが…」
「と言うことは、カリドゥスに直接聞く以外に手はないってことね…」
「皇女様?小生がさっき言った話ちゃんと理解している?間違ってもカリドゥスに直接会いに行ったりはしないでよね」
「ーー」
「皇・女・様ぁ~~??」
あ、マズイ。アケロンの額に血管が浮いてるわ。もし『そう考えていました』なんて正直に言ってしまったら私は本当に部屋に軟禁されてしまうかもしれない。
笑顔で詰め寄ってくるアケロンに私は大きく首を横に振って否定するしかなかった。
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