やり直し皇女は母国に帰りたい

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やり直す時間

83:開会のファンファーレ

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「うわっ、このタイミングで王太后が紫のドレスで来ちゃうとか最高だね!小生が大好きな展開だよ!!」
持ち場となったホテルの窓辺からルサルカ達のいる舞台を見ながらアケロンは口笛を吹いている。彼の視界にうつっているのは先代の崩御以降一度も公に現れなかった王太后が、祖国の皇女の手を取って、親しげに舞台に上がる姿である。それに加えて2人ともが臣下の色紫色を身にまとっていることに対して、どう反応すべきか動けずにいるカエオレウム貴族達の姿が滑稽でしかたがなかった。
思わず声を立てて大笑いしていると、同じ光景を目にしているだろうアガタからの通信魔法が聞こえてくる。

『アケロン様、笑っている場合ですか!しっかり見張っていて下さいよ!」
「はーい。でも、皇女の作戦が上手くいったようで嬉しくなるじゃない?ねぇ、フルクトスもそう思うでしょ」
『非常にお美しいです…っあ、はい。なによりですね。ーーしてアガタ様』
『なんでしょう?不審な動きをする人を見つけて下さいましたか?』
『いえ、それはまだなのですが…今、私の姿はハタから見たらどのように見えているのでしょうか?』

仮面を外せないフルクトスであったが、そのままでは悪目立ちするだろうとアガタは幻術を使って彼の姿を変えていた。お陰で仮面であることも、その人がフルクトスであることも周囲には分からないようにでき、フルクトスもしっかりと見張りとして役に立つことが出来ていた。
しかし、アガタの幻術のせいで別の問題が起きているのである。

『ああ、のお姿にしてございます。特別ですよ』
「え、え、アガタそれって誰よ。ちょっと気になるじゃない!フルクトス、ちょっと窓から顔出してみてくれない?」
『アケロン様は私の存在を認識しているから幻術は見えないと思いますが…』
「大丈夫!この眼鏡着ければ見えるんだよねーーってランチャ!?」
『ランチャ、という方なのですか。ここに来る途中ですれ違う女性達から黄色い声を出されたり、セルブスからも色々言われたのですが、よほど整った容姿の方なんでしょうね』
「うん…まぁ、たしかに若い頃は整ってたけど…アガタ、ランチャの顔好きなの?」
『皇帝陛下ほどお美しい男性を私はこの世で拝見したことがございません!!』
「そっか、うん…、さて、仕事に戻ろうかね…」

想像もしていなかったアガタの趣味にアケロンは茶化すことも出来ず、意識を皇女達とそして自分がいる建物周辺に向けた。
今の所おかしな動きをする者はいない。そしてそれは他の2人の担当区域でも同じであった。
祭りらしい、騒々しさと陽気な空気。所々で湧き上がる子供のはしゃぐ声に露店から立ち上る香り。誰かの手から抜け出してきた風船。非日常ではあるが、祭りの範囲内にすぎないことしかない。いっそ、皇女の過去に起きた出来事は記憶違いであれば良いとすら思えた。

「こうも良い香りがするとお腹が減るよね~。なんか買ってこようかな」

実際そんなことをする気はないが、アケロンは冗談を零して、建物の真下に出展している店を見下ろした。すると、その店の内側に置かれていた物に気がついた。
「なんであれがまだ残ってるんだ…?」
アケロン先生?どうかしましたか』
「フルクトス、僕のいる建物の真下にある出店が見えるかい?」
『見えますよ。”特製ドリンク”と書いてあります』


◆◆◆◆◆◆


陛下を中心に左に王妃、オケアノス、右に王太后様と私と言う順序で並んでいた。サラはといえば、なんと私の隣にしっかりと並んでおり民衆に向かって微笑んで手を振ってみせている。

そんなオケアノスでも一応は恥も外聞もあったのだろう。王太后様が私を自分の隣に、そしてサラはその横に立つようにと言った際に何か言いたげに口をモゴモゴとしていた。それを見た王太后はわざと大げさな身振りでこう言った。
「オケアノス殿下、まさか両手に若い女性を立たせたいのですか?祭りとはいえ、さすがにそれは宜しくありませんよ」
「王太后様、なんと言うことをおっしゃるのです?サラは私の古い友人です!ニックスとサラは毎年共に…」
「私は王族ではございませんのでこちらで失礼いたします。テンペスタス子爵令嬢も良ければご一緒に戻りましょう」

ニックスはそう言ってオケアノスの言い訳に使われるのを先に封じてしまうと、サラにも自分と一緒に戻るように促していた。そんなニックスの言葉へサラは不思議そうに首を傾げて答えていた。
「これまでもお祭りの時には殿下とご一緒でしたでしょう?おかしなニックス様」
それはそれは美しい、まるで聖女のような微笑でそう答えるサラを見て私は鳥肌が立った。彼女は自分がここに立っているのは当然であると信じているのだ。
もう一つ気になったことがある。国王陛下も王妃も、サラのドレスこそ問題視していたけれど彼女が壇上にいることについては指摘することはなかった。王族ではないサラがここに立っているのを少しも疑問に思っていない様子で、それが奇妙に感じた。

私の気がかりをよそに、細かなアクシデントはあったものの無事に全員が揃ったと式が始まるファンファーレが高らかに鳴り響いた。
その瞬間だった。

過去で耳にした弦を弾く音が微かに聞こえ、反射的に音の方に目を向ける。音は聞き覚えがあるけれど、場所は全くの逆方向だ。そんなハズはないといやに落ち着いている頭とは裏腹に何かに反射した光で目が眩み過去あの時と同じだと察するのに時間はいらなかった。
弓が刺さる、そんなことを考える暇もなく私は何かに弾かれたようにサラの腕を引くと自分の体の後ろに隠してかばうように覆った。
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