やり直し皇女は母国に帰りたい

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104:魔女ストレガ

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ぺルラには海の底に魔女がいる。
海の底はとても深いので光もささず、新月の夜よりも暗い。なぜこんな海の底なのに人が住めるのかと子供のころのアケロンは不思議に思っていた。

「末の皇女が嫁に行ったらしいね」
「今更何を…もう数年前の話だよ」
ストレガは久しぶりに顔を見せに来た友人の情報の古さに呆れて脱力していた。
「仕方ないじゃない。小生、他の国で王族の家庭教師に行ってたんだから。しかもカエオレウムなんだろう?」
「あんたがいてくれたら、ランチャ様も少しはカエオレウム側の使者に抵抗してくださったかもしれないのに、大事な時にいないんだから」
「いてもきっとランチャは受け入れていたよ。攻め込まれたら勝てないもの」

アケロンの答えにストレガがヒステリックに机を叩くと、乗っていたカップがソーサーにぶつかってカチャカチャと音が鳴り響いた。
「勝てないわけがないでしょう!ランチャ様一人で一捻りできる!」
「…だからでしょ。ランチャが動いたらこの世が終わっちゃうもの。そんな力を授けたのはストレガでしょ」
そう言われたストレガは無言で立ち上がると、棚の方へ向かい上から三段目に乗せていた水晶玉を手に取った。それから右手を上に掲げて何かをつぶやくと、水晶玉の中で煙のようなものが渦を巻きはじめ、だんだんと竜巻のようになっていった。
「あれでも制御したんだ。本来の力すべてを出していたら、すでにランチャ様ご自身が危ないからね」
「ぺルラ皇族同士の血はとんでもなかったってことだね。ーー末の皇女はどんな力だったの?カエオレウムで息抜けるような能力ならいいね」
「あの子は何もなかった」
「何も?皇女だよね…?まさか、亡き皇妃様が別のか「そんなわけないでしょ!!」」

アケロンのとんでもない発言をストレガはかぶせるように否定した。そして水晶玉を棚に戻すと、今度は別の本棚の引き出しを開けて巻物を取り出すと机に広げだした。

「ランチャ様はいとこ同士でご結婚された。王妃様の血筋のおじい様は外国の方であったけど、この方もかなりの近親婚を繰り返しているんだよ。この影響で末の皇女様にこちらの血が強く出たんじゃないかと考えているんだ」
「はぁ…隔世遺伝ってやつか。皇族でもたまにいるっけね…でも魔法具を渡したんでしょう?」
「それが、魔法具を渡そうと思ったら泣かれてしまってねぇ…。下手に魔法を渡すと制約で余計につらくなる、魔法具の方が便利だって説得をしたんだけど『魔法が使えないぺルラ皇族なんて意味がありません!』とまで言われてしまってね…私も不憫で何とか魔法をあげたんだ」
「ふぅん…」

アケロンは『何の魔法をあげたのか』とは聞かなかった。
聞いたところで余計に末の皇女が哀れに思えるだけだと思ったからだ。

「ちなみにさ、皇女が生まれたときに君は予言をしてたよね」
「まったくアンタはさっきから嫌なことを思い出させるね!」
「いやだって、その予言を聞いたランチャも王妃も5人の皇女も皆して魔力の一部をその予言を実現させないために使ってるんでしょ?てか、ランチャの膨大な魔力もそっちに使えば末の皇女の予言を打ち消せたんじゃないのかね」
「ランチャ様の魔力はすべての破壊だからまぁできなくはないけどね、破壊だから皇女自身の運命が終わってしまう。だから一部を使って、末の皇女の人生を補正しようとしているだけさ」
「補正ねぇ…予言を打ち消すことはできないわけか」
「できないね。皇女様が持って生まれたもんだからね」

はぁ…とストレガは心配そうに頬杖をつくと、水たばこの吸い口に口をつけ、予言した内容を思い返す。あれほど悪い予言を見たのは後にも先にもこれっきりであった。
生まれたばかりの皇女ルサルカは、今アケロンと向かい合う間にある机の上でストレガの部屋を興味深そうに眺めて赤ん坊らしい屈託のない笑みを浮かべていた。キャッキャと笑う赤ん坊の声の中で、今までと同じように予言を出していたストレガは結果を見た瞬間背筋に冷水をかけられたような気配がしたのである。

『本来の立場を奪い取られて不幸になり世界を壊すきっかけになる』

その結果がどうにか間違いであればと掟に反してもう一度やり直しもした。しかし結果は変わらなかった。
そこでようやく数十年前に見た父親である皇帝ランチャの予言の意味を理解したのである。

『国を安定させ、世界を再構築させる』

ストレガは悟った。皇帝ランチャの予言である『再構築』とは一度この世を崩壊させてしまうということ。そして皇女ルサルカこそ、ランチャが世界を壊す動機になるのだと。
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