かぐわしいかな、黄泉路の薫香 ~どうにか仕事に慣れたけど どうかしてると思います!

日野

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4 息抜いて つまんだ駄菓子が呼ぶ懸念

4-1 おだやかな

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「見た目がごつい分、パワーのあるマシンだからね」
 翌日に功巳がそういって百合に支給したパソコンは、これまで使っていたものより二回り以上大きいものだった。なぜか本体のあちこちが青や赤に光っている。
 パワーのあるパソコンらしいが、そのパワーが必要不可欠な仕事は目下なさそうだ。
 とりあえず、と百合はインストールしたアプリで、朝一番に清巳にメッセージを送った。
 ――昨日、九泉香料の仕事について説明を受けました。ぬえの件など少々驚きましたが、前向きにとらえようと思っています。
 説明を受けるまでに、異動してから一ヶ月もかかっている。
 正直なところ、そのことを誰かに告げ口したい気持ちが頭のどこかにあり、清巳はちょうどいい相手だった。
 メッセージを送信して百合は気がすんでいたが、受信した清巳はそうではなかったようだ。
 PDFで表示される書面の文字を書き起こし、定期的にかたわらの鹿野の撫でていると、昼休みの直前に功巳が声を上げた。
「ねえ、如月さんさ、清巳が怒ってるんだけどなにか知ってる?」
「どうして私が知ってるんですか?」
 朝のメッセージかな、と予測はついていた。
「だよねぇ。如月さんのことで話があるって清巳が連絡してきて」
「私が首になるとか、なにか重大な話だったらどうするんですか……それを私に教えて」
「そっか。聞かなかったことにしておいて」
「わかりました」
 それから功巳は真剣な顔をし、延々キーボードを叩き続けていた。しばらくすると「んー」と唸り、ため息をつき、それを交互にくり返す。
「……如月さん、清巳と連絡取ってる?」
「状況報告くらいでしょうか、お世話になりましたし」
「……お昼、清巳と食べてきますね。こっちに出てくるって……」
「楽しんでいらしてください」
「清巳怒ってるみたいなんだよねぇ、なんかあったかなぁ」
 真実清巳が怒っているなら、戻ってきたときに功巳はその話をするだろう。
 とくになにも気にせず百合は笑顔を返し、暖かい温かいお茶を口に運んだ。
 功巳のオフィスには冷蔵庫やキッチンなどの設備はなく、すべてねえやさんが切り盛りしてくれていた。百合は朝の一度以外は冷茶をつくることをやめ、ねえやさんの煎れるお茶を楽しませてもらっている。
 功巳が上着を手に立ち上がった。
「外出てくるね。清巳がどんな具合かで、戻りは変わります」
「直帰の可能性もありますか?」
「あ、僕ここに住んでるんだよ。奥のほう」
「ここがお住まいなんですか?」
「うん、職場が近いようで近くないんだよねぇ」
 延々続く廊下、それのどのあたりに暮らしているのか――尋ねないでおく。
「こちらって表札は出さないんですか? はじめてきたとき、表札がなくてわからなかったんです。八咫さんが迎えに出てくれたからよかったですけど」
「表札かぁ、考えておくよ」
 気のない返事の功巳が部屋を出たとき、百合のひざにいた鹿野がのびをしながら身を起こした。
「そろそろお昼だよ、どうする?」
 ゴロリと音を立て、鹿野は功巳が出ていった襖に向かう。後ろをついていった百合が襖を開くと、小走りに出ていった。
「私もお昼食べに出るから、しばらく時間置いてね」
 鹿野の返事はないものの、言葉が通じていると確信している。
 異動して勤務地が変わったので、昼食は外で取りたかった。
 会社のあたりに飲食店の数はさほど多くなく、どうしても昼時には列ができてしまう。そのため百合は昼休みをすこしはやめに取っている。契約上は一時間の休憩だ、時間の前後は功巳に許可を取ってあった。
「お昼なににしよう。こってりがいいなぁ」
 気に入っているステーキハウスの日替わりが、まだ金曜日のメニューだけためしたことがない。今日そこにいけば日替わりメニューを制覇できる。問題があるとするなら、昨日もその店で昼食を取ったということである。
 上着とマフラーを身に着けた百合は頭に店の候補を思い浮かべ、そそくさとオフィスを出ていった。
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