闇がしたたる ~三千世界に怪異は嗤う

日野

文字の大きさ
8 / 17
2 誰も駅から帰ってこない

第8話

しおりを挟む
 会社の同僚五人が行方不明に――事件といっていい。

 紅緒は沈黙を守ったまま週末を迎え、すでに水菓子の気分ではなくなっている。
 中川たちは杳として行方が知れない。
 きさらぎ駅探索ツアーは、人気のSNS上で参加者を募った企画だった。紅緒はSNSを利用していないため知らなかったが、現在ユーザー間で認知度の高い話題らしい。

 ――肝試しツアーに出かけた、総勢九名が姿を消してしまった。

 そのうち五名は一灯電社の総務部のメンバーだ。
 大変なことである。

 金曜日の午後になると、会社の五階にある会議室で居成部長と面談をすることになった。
 居成いわく、部内のメンバーひとりひとりと面談し、知っていることがないか話したい。そうすることで、なにか気づけることがあるかもしれない、と。

 紅緒はどうするか迷っていた。

 同僚である闇濡れ男は、おそらく中川たちに同行していたはずだ。ただそう判断した材料は、彼の口振りだけである。
 紅緒は彼をおかしいものとして捉えている。
 彼ならなにかやらかしかねない――そんな偏見を持っているのだ。フェアではない。

 順番に部内の顔が会議室に向かい、戻ってくる。
 如月は二番手だった。

 戻ってきた彼は着席すると、となりの席の紅緒にメモをまわしてきた。
 整った文字が並び、どんな話をしたかが書き留められていた。
 彼は知らぬ存ぜぬで通したそうだ。
 一緒に出かけていたらなにか役に立てていたかもしれない、とも話したらしい。ずいぶん空々しい。
 もし警察が動くなら、駅などの監視カメラも確認するだろう。そのうち如月の嘘は発覚すると紅緒は踏んでいる。

 ではどうしたらいいか――順番がきて足を向けた会議室では、疲れた顔をした居成部長が待っていた。

「悪いなぁ、忙しくなってるのに。いなくなった連中のご家族とのつなぎ役、俺がやることになったからさ、協力頼みます」

 総勢十二名の部署で、五名が不在なのだ。
 残業代の出る会社でよかった、とうんざりした声を毎日聞いている。
 ちなみに毎日残業をしていても、全員仕事を残して退社している有様だ。

「つなぎ役ですか」
「あっちこっちに話が散けてもなぁ。まあ、誰と話しても、似たようなことしか出てこない。そりゃ知らんよなぁ。仲のいい連中でつるんで出かけたわけだから、残ってるのはなんつうか、普通の同僚だろ」
「プライベートは聞いたことがないです」
「だなぁ。で、先週の金曜日ってどんな感じだった?」

 紅緒はあったことをそのまま話した。居成はふーん、と鼻を鳴らす。これまでに話をした全員が、おそらく似た話をしているだろう。

「それにしても、肝試しのためにわざわざ遠くまで出かけるのか……三嶋さんはどう? 参加しようとは」

 そもそも誘われていない――というのは、ひとまず横に置いておく。

「中川さんに写真を撮ったら見せてください、とだけ頼みました」
「肝試しだもんなぁ。気軽にいこうなんて……いや、そう思ったから出かけてったのか。会社のみんなでいこうなんて、ほかに友達いねぇのかな」
「急だな、とも思いましたし」
「もっとはやく誘われたら、三嶋さん参加した?」

 紅緒は愛想笑いをした。

「いかないです」
「中川さん、如月くんのこと誘ってたそうだけど、どうだった? あれか、つき合いそう?」
「脈はなさそうな気がしますが、どうなるんでしょうね」

 恋愛はどう転がっていくかわからない。

「如月くん、参加見合わせたっていうけど、出かけてたら仲が急接近みたいなことになってたかねぇ」
「そうかもしれないですね」
「当日に体調崩したっつってたな」

 頭から闇を被っていて、如月の顔色さえ見たことがない。体調不良を訴えて、すぐに信じてもらえるような顔色をしているのだろうか。

「誘われたときに気乗りしてないようだったので、いかなかったと如月さんが話したとき、仮病だろうなぁとは思いました」

 居成は笑った。
 紅緒としては如月の肩を持ったつもりはない。ひとりだけ帰ってきたなどと話したところで、どうにもならないだろう。

 話はそこで終わりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『お母ちゃん(霊)といっしょ EP1st.~福井・小浜編 悩める「座敷童」の心の壁をぶち壊せ!~』

M‐赤井翼
ホラー
「お母ちゃん(霊)といっしょ」シリーズの実質「第2話」です。 読者様の希望により、いつもの「現代小説」カテゴリーでなく、「ホラー・ミステリー」カテゴリーからのエントリーとなりました。 広義の意味で「ホラー」とは「極端に非現実だけど誇張された状況の不条理さに焦点を当てたジャンル」とありますので、お母ちゃんの「かずみ」は浮遊霊キャラクターですので優しく見守ってやってください! お時間のある方は「エピソード0」(実質的な「第1話」もアップしますのでお母ちゃんが今、家族と一緒に居る「前振り」の話がありますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです! この作品にいただいた「エール」の投稿インセンティブは「こども食堂」運営の応援に使わせていただきますので、よろしかったらご協力ください! では、お母ちゃん(霊】の「かずみ」と娘の「さとみ」、そしてお父ちゃんの「直」と今回のゲストの「座敷童」さんの応援をよろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧💖

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...