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2 誰も駅から帰ってこない
第8話
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会社の同僚五人が行方不明に――事件といっていい。
紅緒は沈黙を守ったまま週末を迎え、すでに水菓子の気分ではなくなっている。
中川たちは杳として行方が知れない。
きさらぎ駅探索ツアーは、人気のSNS上で参加者を募った企画だった。紅緒はSNSを利用していないため知らなかったが、現在ユーザー間で認知度の高い話題らしい。
――肝試しツアーに出かけた、総勢九名が姿を消してしまった。
そのうち五名は一灯電社の総務部のメンバーだ。
大変なことである。
金曜日の午後になると、会社の五階にある会議室で居成部長と面談をすることになった。
居成いわく、部内のメンバーひとりひとりと面談し、知っていることがないか話したい。そうすることで、なにか気づけることがあるかもしれない、と。
紅緒はどうするか迷っていた。
同僚である闇濡れ男は、おそらく中川たちに同行していたはずだ。ただそう判断した材料は、彼の口振りだけである。
紅緒は彼をおかしいものとして捉えている。
彼ならなにかやらかしかねない――そんな偏見を持っているのだ。フェアではない。
順番に部内の顔が会議室に向かい、戻ってくる。
如月は二番手だった。
戻ってきた彼は着席すると、となりの席の紅緒にメモをまわしてきた。
整った文字が並び、どんな話をしたかが書き留められていた。
彼は知らぬ存ぜぬで通したそうだ。
一緒に出かけていたらなにか役に立てていたかもしれない、とも話したらしい。ずいぶん空々しい。
もし警察が動くなら、駅などの監視カメラも確認するだろう。そのうち如月の嘘は発覚すると紅緒は踏んでいる。
ではどうしたらいいか――順番がきて足を向けた会議室では、疲れた顔をした居成部長が待っていた。
「悪いなぁ、忙しくなってるのに。いなくなった連中のご家族とのつなぎ役、俺がやることになったからさ、協力頼みます」
総勢十二名の部署で、五名が不在なのだ。
残業代の出る会社でよかった、とうんざりした声を毎日聞いている。
ちなみに毎日残業をしていても、全員仕事を残して退社している有様だ。
「つなぎ役ですか」
「あっちこっちに話が散けてもなぁ。まあ、誰と話しても、似たようなことしか出てこない。そりゃ知らんよなぁ。仲のいい連中でつるんで出かけたわけだから、残ってるのはなんつうか、普通の同僚だろ」
「プライベートは聞いたことがないです」
「だなぁ。で、先週の金曜日ってどんな感じだった?」
紅緒はあったことをそのまま話した。居成はふーん、と鼻を鳴らす。これまでに話をした全員が、おそらく似た話をしているだろう。
「それにしても、肝試しのためにわざわざ遠くまで出かけるのか……三嶋さんはどう? 参加しようとは」
そもそも誘われていない――というのは、ひとまず横に置いておく。
「中川さんに写真を撮ったら見せてください、とだけ頼みました」
「肝試しだもんなぁ。気軽にいこうなんて……いや、そう思ったから出かけてったのか。会社のみんなでいこうなんて、ほかに友達いねぇのかな」
「急だな、とも思いましたし」
「もっとはやく誘われたら、三嶋さん参加した?」
紅緒は愛想笑いをした。
「いかないです」
「中川さん、如月くんのこと誘ってたそうだけど、どうだった? あれか、つき合いそう?」
「脈はなさそうな気がしますが、どうなるんでしょうね」
恋愛はどう転がっていくかわからない。
「如月くん、参加見合わせたっていうけど、出かけてたら仲が急接近みたいなことになってたかねぇ」
「そうかもしれないですね」
「当日に体調崩したっつってたな」
頭から闇を被っていて、如月の顔色さえ見たことがない。体調不良を訴えて、すぐに信じてもらえるような顔色をしているのだろうか。
「誘われたときに気乗りしてないようだったので、いかなかったと如月さんが話したとき、仮病だろうなぁとは思いました」
居成は笑った。
紅緒としては如月の肩を持ったつもりはない。ひとりだけ帰ってきたなどと話したところで、どうにもならないだろう。
話はそこで終わりだった。
紅緒は沈黙を守ったまま週末を迎え、すでに水菓子の気分ではなくなっている。
中川たちは杳として行方が知れない。
きさらぎ駅探索ツアーは、人気のSNS上で参加者を募った企画だった。紅緒はSNSを利用していないため知らなかったが、現在ユーザー間で認知度の高い話題らしい。
――肝試しツアーに出かけた、総勢九名が姿を消してしまった。
そのうち五名は一灯電社の総務部のメンバーだ。
大変なことである。
金曜日の午後になると、会社の五階にある会議室で居成部長と面談をすることになった。
居成いわく、部内のメンバーひとりひとりと面談し、知っていることがないか話したい。そうすることで、なにか気づけることがあるかもしれない、と。
紅緒はどうするか迷っていた。
同僚である闇濡れ男は、おそらく中川たちに同行していたはずだ。ただそう判断した材料は、彼の口振りだけである。
紅緒は彼をおかしいものとして捉えている。
彼ならなにかやらかしかねない――そんな偏見を持っているのだ。フェアではない。
順番に部内の顔が会議室に向かい、戻ってくる。
如月は二番手だった。
戻ってきた彼は着席すると、となりの席の紅緒にメモをまわしてきた。
整った文字が並び、どんな話をしたかが書き留められていた。
彼は知らぬ存ぜぬで通したそうだ。
一緒に出かけていたらなにか役に立てていたかもしれない、とも話したらしい。ずいぶん空々しい。
もし警察が動くなら、駅などの監視カメラも確認するだろう。そのうち如月の嘘は発覚すると紅緒は踏んでいる。
ではどうしたらいいか――順番がきて足を向けた会議室では、疲れた顔をした居成部長が待っていた。
「悪いなぁ、忙しくなってるのに。いなくなった連中のご家族とのつなぎ役、俺がやることになったからさ、協力頼みます」
総勢十二名の部署で、五名が不在なのだ。
残業代の出る会社でよかった、とうんざりした声を毎日聞いている。
ちなみに毎日残業をしていても、全員仕事を残して退社している有様だ。
「つなぎ役ですか」
「あっちこっちに話が散けてもなぁ。まあ、誰と話しても、似たようなことしか出てこない。そりゃ知らんよなぁ。仲のいい連中でつるんで出かけたわけだから、残ってるのはなんつうか、普通の同僚だろ」
「プライベートは聞いたことがないです」
「だなぁ。で、先週の金曜日ってどんな感じだった?」
紅緒はあったことをそのまま話した。居成はふーん、と鼻を鳴らす。これまでに話をした全員が、おそらく似た話をしているだろう。
「それにしても、肝試しのためにわざわざ遠くまで出かけるのか……三嶋さんはどう? 参加しようとは」
そもそも誘われていない――というのは、ひとまず横に置いておく。
「中川さんに写真を撮ったら見せてください、とだけ頼みました」
「肝試しだもんなぁ。気軽にいこうなんて……いや、そう思ったから出かけてったのか。会社のみんなでいこうなんて、ほかに友達いねぇのかな」
「急だな、とも思いましたし」
「もっとはやく誘われたら、三嶋さん参加した?」
紅緒は愛想笑いをした。
「いかないです」
「中川さん、如月くんのこと誘ってたそうだけど、どうだった? あれか、つき合いそう?」
「脈はなさそうな気がしますが、どうなるんでしょうね」
恋愛はどう転がっていくかわからない。
「如月くん、参加見合わせたっていうけど、出かけてたら仲が急接近みたいなことになってたかねぇ」
「そうかもしれないですね」
「当日に体調崩したっつってたな」
頭から闇を被っていて、如月の顔色さえ見たことがない。体調不良を訴えて、すぐに信じてもらえるような顔色をしているのだろうか。
「誘われたときに気乗りしてないようだったので、いかなかったと如月さんが話したとき、仮病だろうなぁとは思いました」
居成は笑った。
紅緒としては如月の肩を持ったつもりはない。ひとりだけ帰ってきたなどと話したところで、どうにもならないだろう。
話はそこで終わりだった。
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