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2 誰も駅から帰ってこない
第7話
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月曜日、フロアはすかすかだった。
きさらぎ駅探索ツアーに出かけた面々が、全員欠勤した。
――如月以外は。
昼休み直前、居成部長がフロアに向かって口を開いた。
「誰か、今日休んだ連中からなにか聞いてないか?」
先週末の中川たちの会話を、その場にいたものは全員聞いていた。全員の視線を受け如月は手を上げた。
「先週末なんですが、じつは声をかけられていて」
そこで彼が説明したのは、みんなでどこかの駅にいこうと誘われた、というものだ。
居成部長は首をかしげる。
そうするしかないだろうし、詳しく如月が説明してみても、目的地が怪談じみた場所なのだ。
居成部長は顔をしかめている。
「で、如月くんはいかなかったのか? その口振りだと」
「体調崩して辞退したんです」
「で、目的地はどこだって? お化けの話じゃなくてさ」
「企画立ち上げの方と待ち合わせて出かけるって話だったので……詳細は聞いてないんです。電車で遠方にいくようなことは話してましたが」
「ずいぶん不用心だな。そんなのにホイホイついて出かけていくのか? 物盗りかなんかだったら危ないだろう」
責める声ではなく、それはもう居成のひとりごとになっている。
企画を楽しもうという本人たちがいないためか、確かにひたすら危ない話だ、と遠慮なく紅緒も思った。
企画者が中川とどのていどの知り合いなのかわからないが、犯罪などに巻きこまれていないことを紅緒は祈っていた。もし彼女になにかあったら、中川母との縁も終わってしまう。
「……行き先が山かなんかだったら、へたすると遭難だってするもんなぁ」
居成部長のつぶやきに、フロアの空気が重くなっていく。参加者全員が欠勤し、誰とも連絡がつかない。
それから一日、居成部長が欠席者たちに連絡を入れ続けたが、誰ともつながらなかった。
その間に居成部長や欠席者たちの分の仕事もまわってきて、紅緒たちは残業になだれこんでいったのだった。
「まあアレですよ、帰ってこないですよ」
十月も終わりに差しかかった夜の道は肌寒く、如月がのんびりとつぶやいている。
「なにか知ってるんですか?」
月曜日だというのに、残業後の倦怠感がひどい。
二十二時を過ぎるまで残業するのは久々で、なによりその大半が資料やデータを探すことに費やされていた。
同僚たちのパソコンのパスワードなどわからないし、問い合わせが来ても大半がお手上げだ。
なかにはパスワードを付箋に書き、モニターに貼りつけているものもいる。
普段は居成部長が叱りつけていたものだが、おかげで一部のデータは確認ができた――急ぎの確認が必要になりそのパスワードを使ったが、コンプライアンスについて後々つつかれたら面倒そうだ。
「すごいですよねぇ。実在しないはずの駅に、ぞろぞろ遊びにいっちゃったんですから」
オフィスビル街の道にほかの通行人はない。如月の明るい声が流れ、紅緒はいますぐ駆け出したくなっていた――如月のいない場所へ。
「……辞退したって」
「いやぁ、そんなの嘘に決まってるじゃないですか。みんな帰ってないのに、一緒にいったなんておかしいでしょう」
そのとおりだ。すでに紅緒はおかしいと思っている。
「みんなで帰ってきたらよかったんじゃ」
「そこまで俺は親切じゃないですよ」
如月の顔を見つめる。
闇濡れでずぶ濡れで、彼の表情は皆目見当がつかない。
「どうしてその話を……私に?」
「俺だけが帰ってきたっていうの、ふたりだけの秘密ですよ」
紅緒の知りたいこたえではなかった。
彼がどんな表情を浮かべているかわからなかったが、そこにあるのはにやりと口元を歪めたものの気がする。
「なんでそんな」
「中川さんのこと気にしてたから、教えておこうかなって」
ちらりと、中川の訃報でもあったら中川母と対面することができるな、とも思った。
「みんな、無事で」
「最後に見たときは、無事でしたよ」
「みんな……生きてますか?」
予想外の質問が自分自身の口から出ていった。
「たぶん、いまは」
「……生きてるうちに戻ってこられたりは」
「どうでしょう。そんなかんたんには死なないと思いますよ」
興味のなさそうな声を聞いたとき、紅緒たちは会社の最寄り駅を目前にしていた。
さすがに通行人の姿もあり、おたがい口を閉ざしていた。¥
きさらぎ駅探索ツアーに出かけた面々が、全員欠勤した。
――如月以外は。
昼休み直前、居成部長がフロアに向かって口を開いた。
「誰か、今日休んだ連中からなにか聞いてないか?」
先週末の中川たちの会話を、その場にいたものは全員聞いていた。全員の視線を受け如月は手を上げた。
「先週末なんですが、じつは声をかけられていて」
そこで彼が説明したのは、みんなでどこかの駅にいこうと誘われた、というものだ。
居成部長は首をかしげる。
そうするしかないだろうし、詳しく如月が説明してみても、目的地が怪談じみた場所なのだ。
居成部長は顔をしかめている。
「で、如月くんはいかなかったのか? その口振りだと」
「体調崩して辞退したんです」
「で、目的地はどこだって? お化けの話じゃなくてさ」
「企画立ち上げの方と待ち合わせて出かけるって話だったので……詳細は聞いてないんです。電車で遠方にいくようなことは話してましたが」
「ずいぶん不用心だな。そんなのにホイホイついて出かけていくのか? 物盗りかなんかだったら危ないだろう」
責める声ではなく、それはもう居成のひとりごとになっている。
企画を楽しもうという本人たちがいないためか、確かにひたすら危ない話だ、と遠慮なく紅緒も思った。
企画者が中川とどのていどの知り合いなのかわからないが、犯罪などに巻きこまれていないことを紅緒は祈っていた。もし彼女になにかあったら、中川母との縁も終わってしまう。
「……行き先が山かなんかだったら、へたすると遭難だってするもんなぁ」
居成部長のつぶやきに、フロアの空気が重くなっていく。参加者全員が欠勤し、誰とも連絡がつかない。
それから一日、居成部長が欠席者たちに連絡を入れ続けたが、誰ともつながらなかった。
その間に居成部長や欠席者たちの分の仕事もまわってきて、紅緒たちは残業になだれこんでいったのだった。
「まあアレですよ、帰ってこないですよ」
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「なにか知ってるんですか?」
月曜日だというのに、残業後の倦怠感がひどい。
二十二時を過ぎるまで残業するのは久々で、なによりその大半が資料やデータを探すことに費やされていた。
同僚たちのパソコンのパスワードなどわからないし、問い合わせが来ても大半がお手上げだ。
なかにはパスワードを付箋に書き、モニターに貼りつけているものもいる。
普段は居成部長が叱りつけていたものだが、おかげで一部のデータは確認ができた――急ぎの確認が必要になりそのパスワードを使ったが、コンプライアンスについて後々つつかれたら面倒そうだ。
「すごいですよねぇ。実在しないはずの駅に、ぞろぞろ遊びにいっちゃったんですから」
オフィスビル街の道にほかの通行人はない。如月の明るい声が流れ、紅緒はいますぐ駆け出したくなっていた――如月のいない場所へ。
「……辞退したって」
「いやぁ、そんなの嘘に決まってるじゃないですか。みんな帰ってないのに、一緒にいったなんておかしいでしょう」
そのとおりだ。すでに紅緒はおかしいと思っている。
「みんなで帰ってきたらよかったんじゃ」
「そこまで俺は親切じゃないですよ」
如月の顔を見つめる。
闇濡れでずぶ濡れで、彼の表情は皆目見当がつかない。
「どうしてその話を……私に?」
「俺だけが帰ってきたっていうの、ふたりだけの秘密ですよ」
紅緒の知りたいこたえではなかった。
彼がどんな表情を浮かべているかわからなかったが、そこにあるのはにやりと口元を歪めたものの気がする。
「なんでそんな」
「中川さんのこと気にしてたから、教えておこうかなって」
ちらりと、中川の訃報でもあったら中川母と対面することができるな、とも思った。
「みんな、無事で」
「最後に見たときは、無事でしたよ」
「みんな……生きてますか?」
予想外の質問が自分自身の口から出ていった。
「たぶん、いまは」
「……生きてるうちに戻ってこられたりは」
「どうでしょう。そんなかんたんには死なないと思いますよ」
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