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第二章
月の表面
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他人に自身の中をほじくられるというのは、とても緊張する。しかし、いつしか緊張は安心に変わり、快楽に変わる。そして、されている者はしている者への信用無では成立しない。他人に身体を預けるだけではなく、中身を見られ、触られるのだから当然である。そして、この場合している者にとっても快楽であった。近衛乙月である。ベッドの上では無防備に寝転がり、無防備に自身の太ももに頭をのせている侑輝がいる。すぐ近くには横顔があり、その顔は依然と違って柔らかい。その姿を見た近衛乙月の心は電子レンジで温められたように熱くなり、脳内には恐ろしく甘く熱いホットココアのような液体が充満するようであった。近衛乙月にとっては、今が一番の幸せであり、今が自分の存在意義だと強く感じていた。嬉しさに、幸せに、興奮に目が熱くなる。自分自身は気づいていないが、瞳孔は通常の1.5倍はあるだろうか。そしてその目の先には暗い穴が入り組んでいた。だが、近衛乙月にとっては大したことではない。穴の形は3Dプリンター並みに完璧に把握している。その穴をつつく棒の形も把握している。そして、どこをつつけば横顔が柔らかくなるのか知っている。できればずっとこうしていたい。頭をのせていたい。顔を眺めていたい。そして、いつもならば顔の目が細くなっていく。しかし今日は違った。
「侑輝さん、もしかして気持ちよくなかったですか?」
通常であれば絶対寝てしまうであろう侑輝は寝ていなかった。侑輝は村木恵介の「近衛乙月」のデータを考えてた。好感度はともかく、ストレスや精神の数値に関して知識のない侑輝にとって、その数値が何を意味するかは分からなかった。しかし、それをまとめた村木恵介のコメントが侑輝を眠さから吹き飛ばすほどのものであった。「近衛乙月は現在、危険な状態である」と始まった。
彼女の君への好感度数値は現在186、これは以前と変わっていない。もともと上限まで高いので、これから先も大きく上がることはないだろう。彼女が君を見る目は、とても敏感だ。君の瞬き一つで彼女の神経伝達が大きく揺らぎ、脳内の電子伝達量が高度な数値計算並みに動く。通常の人とは大きく違う。君の変化をとらえる能力は人間離れしている。
次に、君がいない場合の状態である。これが一番深刻な問題である。君がいないときの彼女が感じるストレスは大きい。どれくらいかと言うと、真冬の湖に裸で入っているくらいである。君が彼女に出会った時、自殺しようとしていたかもしれないと君は言っていたが、それは真実である可能性が高い。原因は調査中であるが、家庭環境が大きく関わっていると考えられる。逆に君といるときは、ストレスが全くないどころか快楽物質が出ている。正直、君がいないとき、彼女が自身の精神を保っているのは異常なくらいである。つまり彼女のためにもできるだけ一緒に居ることをお勧めする。しかし当然、一緒に居られない場合が出てくるだろう。君はそうなった場合に備えて何らかの対策を講じる必要性があるだろう。次に、私の興味本位として一度、彼女の目の前で君の悪口を言ってみた。勿論、嘘であるが彼女が耳にした後の私に対する好感度は絶望的に低かった。データには載せてはいないが、-150あった。以前、会社からリストラされ妻子を失い、恨みに身を任せて連続殺人鬼になった男の彼らに対する好感度を計測したことがある。それよりも低い。しかし、彼女は法律を犯すようなことはしないだろう。なぜならば、通常-150の好感度数値があって犯罪を犯す素振りを見せていないのは、異常な自制心を持っているからである。そうさせているのは君だろう。とにかく彼女は特殊であり、かなり極端だ。今後、何か新しいことがわかったら連絡しよう。
「あの、侑輝さん…」
「は、はい」
侑輝の神妙な顔を近衛乙月は覗き込んでいた。
「どうしたんですか?やっぱり気持ちよくなかったですか?」
「そんなことないよ」
依然として不安そうな顔をする近衛乙月を見て、侑輝はすぐに村木恵介のコメントを思い出す、自身の変化に敏感であると。真冬の湖に裸…。侑輝はいつもお世話してもらっているのである。そんな近衛乙月の精神状態は良いとは言えない。侑輝は胸に棘が刺さった気分だった。棘を抜くためにできることは決まっている。
「近衛さん、一緒に寝ましょう」
「はい」
時刻は22時、寝るにしては少し早い。侑輝はコメントを読むまで近衛乙月に背を向けて寝るつもりであった。電気を切ると部屋は真っ暗になった。部屋には甘い香りが立ち込めている。侑輝は横たわると、すぐ目の前で影が揺らいだ。もしかすると近衛乙月からは侑輝の顔や身体が見えているのだろうか。ふと身体に柔らかいものが密着した。侑輝の腰へと腕が伸ばされた。いつもと違って侑輝は冷静だった。侑輝は見えないながらも自身の右腕で空をさまよわせ、近衛乙月の頭を見つけると、さらさらとした髪を触った。
「侑輝さん、いいんですか?」
静かに近衛乙月は言った。
「…今日は」
静かに答えた。すぐに温かい熱が身体の前に感じた。侑輝は近衛乙月の頭を自分の胸の中に入れ片腕でできる限り優しく包んだ。シャンプーのいい匂いが香る。近衛乙月は自らの両足で侑輝の片足をはさみ、侑輝の腰に添えた腕を密着させる。侑輝は近衛乙月の身体の温かさを感じると共に、冷たさを感じた…
「侑輝さん、もしかして気持ちよくなかったですか?」
通常であれば絶対寝てしまうであろう侑輝は寝ていなかった。侑輝は村木恵介の「近衛乙月」のデータを考えてた。好感度はともかく、ストレスや精神の数値に関して知識のない侑輝にとって、その数値が何を意味するかは分からなかった。しかし、それをまとめた村木恵介のコメントが侑輝を眠さから吹き飛ばすほどのものであった。「近衛乙月は現在、危険な状態である」と始まった。
彼女の君への好感度数値は現在186、これは以前と変わっていない。もともと上限まで高いので、これから先も大きく上がることはないだろう。彼女が君を見る目は、とても敏感だ。君の瞬き一つで彼女の神経伝達が大きく揺らぎ、脳内の電子伝達量が高度な数値計算並みに動く。通常の人とは大きく違う。君の変化をとらえる能力は人間離れしている。
次に、君がいない場合の状態である。これが一番深刻な問題である。君がいないときの彼女が感じるストレスは大きい。どれくらいかと言うと、真冬の湖に裸で入っているくらいである。君が彼女に出会った時、自殺しようとしていたかもしれないと君は言っていたが、それは真実である可能性が高い。原因は調査中であるが、家庭環境が大きく関わっていると考えられる。逆に君といるときは、ストレスが全くないどころか快楽物質が出ている。正直、君がいないとき、彼女が自身の精神を保っているのは異常なくらいである。つまり彼女のためにもできるだけ一緒に居ることをお勧めする。しかし当然、一緒に居られない場合が出てくるだろう。君はそうなった場合に備えて何らかの対策を講じる必要性があるだろう。次に、私の興味本位として一度、彼女の目の前で君の悪口を言ってみた。勿論、嘘であるが彼女が耳にした後の私に対する好感度は絶望的に低かった。データには載せてはいないが、-150あった。以前、会社からリストラされ妻子を失い、恨みに身を任せて連続殺人鬼になった男の彼らに対する好感度を計測したことがある。それよりも低い。しかし、彼女は法律を犯すようなことはしないだろう。なぜならば、通常-150の好感度数値があって犯罪を犯す素振りを見せていないのは、異常な自制心を持っているからである。そうさせているのは君だろう。とにかく彼女は特殊であり、かなり極端だ。今後、何か新しいことがわかったら連絡しよう。
「あの、侑輝さん…」
「は、はい」
侑輝の神妙な顔を近衛乙月は覗き込んでいた。
「どうしたんですか?やっぱり気持ちよくなかったですか?」
「そんなことないよ」
依然として不安そうな顔をする近衛乙月を見て、侑輝はすぐに村木恵介のコメントを思い出す、自身の変化に敏感であると。真冬の湖に裸…。侑輝はいつもお世話してもらっているのである。そんな近衛乙月の精神状態は良いとは言えない。侑輝は胸に棘が刺さった気分だった。棘を抜くためにできることは決まっている。
「近衛さん、一緒に寝ましょう」
「はい」
時刻は22時、寝るにしては少し早い。侑輝はコメントを読むまで近衛乙月に背を向けて寝るつもりであった。電気を切ると部屋は真っ暗になった。部屋には甘い香りが立ち込めている。侑輝は横たわると、すぐ目の前で影が揺らいだ。もしかすると近衛乙月からは侑輝の顔や身体が見えているのだろうか。ふと身体に柔らかいものが密着した。侑輝の腰へと腕が伸ばされた。いつもと違って侑輝は冷静だった。侑輝は見えないながらも自身の右腕で空をさまよわせ、近衛乙月の頭を見つけると、さらさらとした髪を触った。
「侑輝さん、いいんですか?」
静かに近衛乙月は言った。
「…今日は」
静かに答えた。すぐに温かい熱が身体の前に感じた。侑輝は近衛乙月の頭を自分の胸の中に入れ片腕でできる限り優しく包んだ。シャンプーのいい匂いが香る。近衛乙月は自らの両足で侑輝の片足をはさみ、侑輝の腰に添えた腕を密着させる。侑輝は近衛乙月の身体の温かさを感じると共に、冷たさを感じた…
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