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第二章
月食
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「それでは次のパートナーも前回と同様に登録します。では3日後に部屋の移動を行います。それまでに荷物をまとめておいてくださいね。」
次の日、侑輝と近衛乙月は受付時間が始まった途端に次のパートナーの受付を行った。当然のことであるが、近衛乙月のお願いあっての事であった。侑輝はすぐ隣の近衛乙月が満足そうに微笑んでいることに自らも少し満足した。
「10位内を目標にしてたのに、うっかり1位になったね」
「うっかりではありません。私は分かってましたよ。侑輝さんは努力家ですから」
「そう…かな」
確かに今回、入院生活で遅れた学習分を補うために、また近衛乙月の足を引っ張らないために通常時よりは勉強した気がする。しかし、努力家と言われると若干、違和感がある。テストの総合点数は好感度の占める割合が相当高いため、学力だけならば2位の組に負けている可能性もある。勿論それは近衛乙月を除外してではあるが…
まあ…好感度も重要視されている点数には変わりない
1位という実感が未だ感じることができなかった侑輝は違和感を払拭するように開き直ることにした。
「3日後からは、特別部屋か…」
正直、普通の部屋だけでも十分な設備がある。わざわざ特別部屋を用意する必要があまり感じられない。
「キッチンがあるみたいですよ」
嬉しそうに言う近衛乙月を横目に侑輝は思った。キッチンも無いよりはあるほうがいいかもしれないが、あまりメリットもない。おそらく、すでに特別部屋を使用している人でさえキッチンを使用している人はほとんどいない。普通部屋でもコーヒーくらいならポットで充分であるだろうし、電子レンジもあるからである。キッチンがあるからと言っても料理をする人はいないだろう。学食を使えば支給されている小遣いを消費することはないが、料理をする場合、食材はその小遣いをわざわざ消費する必要がある。
「まあ、気分転換に料理するくらいならいいかもしれないな」
「私は、3日後から毎日しますよ」
「え…?」
…あ。侑輝は以前に食堂で近衛乙月が言ったことを思い出した。確か料理を作ってくれると言っていた。侑輝は半分冗談だと思っていた。近衛乙月であっても料理をすることが、ただの時間とお金の無駄であることは分かっているはずだ。
「それって、もしかして俺の分も?」
「はい」
近衛乙月は当然のように返事をした。
「いや、近衛さん。食材はお小遣いから負担なんだよ?それに勉強時間もなくなるわけだし、流石に毎日は…」
「…。もしかして私の料理、嫌ですか?」
近衛乙月は、少し考えたあと不安そうな顔をして尋ねる。
「いやいや、そういうわけではなく。お小遣いが増えると言えども食費は負担になるわけで…。食堂だったらタダだから、別の場所にお金が使えるわけで…。近衛さんの料理は食べてはみたいよ」
「それなら良かったです。大丈夫ですよ。私はそんなに欲しいものがあるわけではないので侑輝さんに毎日食べてもらえるのであれば、寧ろ私にとっては一番合理的で幸せな使い方なんです。」
「そう…なんだ。ちなみに朝、昼、晩のどこで作るの?」
「勿論、全部ですよ?」
「え?」
侑輝は高校生になるまでに料理をしていなかったので、食費がどれくらいかかるかは分からなかったが、もし一日一人1000円必要だとすると、1か月で2人で6万円くらいになる。また昼食も料理するとなると弁当ということだろうか。昼休みは約1時間しかないので必然的にそうなるだろう。
「近衛さん、流石に3食共は必要ないんじゃないかな。食費も足りるかわからないし」
侑輝は近衛乙月の願望を理解したわけではないが、趣味の一つとして認識することにしたが、それでも3食となると抵抗せざる終えなかった。
「そんなことないですよ。5万円なら十分足ります。」
近衛乙月は十分な自信があることが、侑輝には見て取れた。また食費も近衛乙月自身のお小遣いから全て出すことが窺えた。
「やっぱり1食くらいでいいと思うよ」
「いえ、私が作りたいので気にする必要はありません」
…そうでない。近衛乙月からしてみるとしたいからするのであるから、侑輝は気にしなくていいということであったが、侑輝からすると料理を作ってもらうのみならず食費を出してもらうわけで罪悪感というか依存し過ぎのように感じるのであった。侑輝も料理できれば、まだよかったのであるが、片腕ではマシな料理はできないし、手伝うことも難しいだろう。しかし、あまりにも抵抗すると近衛乙月を悲しませることになる。
まあ簡単に言うと侑輝は、できるだけ近衛乙月に負担を掛けさせたくはなかった。
「近衛さん」
「はい」
「間をとって2食にしよう」
「いえ、気にする…」
「俺は、近衛さんの料理を食べたい気持ちもあるけど、一緒に勉強する時間も大切だから」
侑輝は「一緒に」という言葉を極力協調していった。
「…」
近衛乙月は少し驚いた顔をした後、腕を組みながら顎に手を当てて斜め下を見ながら少しの間固まった後、納得してれたのか顔をほころばせた。
「わかりました、確かに一緒に勉強できる時間は少し減るかもしれませんし…できれば3食作りたかったですが…そうですね」
「ありがとう」
侑輝は安心しながらお礼を言うと、まだ完全に納得していない様子だった近衛乙月は、嬉しそうに微笑んだ後、すっきりしたように「はい」と答えた。
侑輝は流れに乗るように追加して言った。
「勿論、俺も半分は食費は払うよ」
「いえ、私がつくりたいので」
…やはりか。近衛乙月は侑輝の予想通りに答えた。
結局、何度かの押し問答があった後、女性は美容にお金がかかり、侑輝は綺麗な人のほうが良いというようなことをやんわりと伝えることでなんとか納得してもらった。近衛乙月によると、自身は化粧水やクリームは安いものでも構わないと言っていた。また侑輝が綺麗な人のほうがいいと言った時、近衛乙月が普段化粧しないことに狼狽ため、侑輝も焦ったが、化粧なしでも綺麗であるということを強く言うと近衛乙月は満足したのか、その後の侑輝のお願いは大体通ったのであった。
次の日、侑輝と近衛乙月は受付時間が始まった途端に次のパートナーの受付を行った。当然のことであるが、近衛乙月のお願いあっての事であった。侑輝はすぐ隣の近衛乙月が満足そうに微笑んでいることに自らも少し満足した。
「10位内を目標にしてたのに、うっかり1位になったね」
「うっかりではありません。私は分かってましたよ。侑輝さんは努力家ですから」
「そう…かな」
確かに今回、入院生活で遅れた学習分を補うために、また近衛乙月の足を引っ張らないために通常時よりは勉強した気がする。しかし、努力家と言われると若干、違和感がある。テストの総合点数は好感度の占める割合が相当高いため、学力だけならば2位の組に負けている可能性もある。勿論それは近衛乙月を除外してではあるが…
まあ…好感度も重要視されている点数には変わりない
1位という実感が未だ感じることができなかった侑輝は違和感を払拭するように開き直ることにした。
「3日後からは、特別部屋か…」
正直、普通の部屋だけでも十分な設備がある。わざわざ特別部屋を用意する必要があまり感じられない。
「キッチンがあるみたいですよ」
嬉しそうに言う近衛乙月を横目に侑輝は思った。キッチンも無いよりはあるほうがいいかもしれないが、あまりメリットもない。おそらく、すでに特別部屋を使用している人でさえキッチンを使用している人はほとんどいない。普通部屋でもコーヒーくらいならポットで充分であるだろうし、電子レンジもあるからである。キッチンがあるからと言っても料理をする人はいないだろう。学食を使えば支給されている小遣いを消費することはないが、料理をする場合、食材はその小遣いをわざわざ消費する必要がある。
「まあ、気分転換に料理するくらいならいいかもしれないな」
「私は、3日後から毎日しますよ」
「え…?」
…あ。侑輝は以前に食堂で近衛乙月が言ったことを思い出した。確か料理を作ってくれると言っていた。侑輝は半分冗談だと思っていた。近衛乙月であっても料理をすることが、ただの時間とお金の無駄であることは分かっているはずだ。
「それって、もしかして俺の分も?」
「はい」
近衛乙月は当然のように返事をした。
「いや、近衛さん。食材はお小遣いから負担なんだよ?それに勉強時間もなくなるわけだし、流石に毎日は…」
「…。もしかして私の料理、嫌ですか?」
近衛乙月は、少し考えたあと不安そうな顔をして尋ねる。
「いやいや、そういうわけではなく。お小遣いが増えると言えども食費は負担になるわけで…。食堂だったらタダだから、別の場所にお金が使えるわけで…。近衛さんの料理は食べてはみたいよ」
「それなら良かったです。大丈夫ですよ。私はそんなに欲しいものがあるわけではないので侑輝さんに毎日食べてもらえるのであれば、寧ろ私にとっては一番合理的で幸せな使い方なんです。」
「そう…なんだ。ちなみに朝、昼、晩のどこで作るの?」
「勿論、全部ですよ?」
「え?」
侑輝は高校生になるまでに料理をしていなかったので、食費がどれくらいかかるかは分からなかったが、もし一日一人1000円必要だとすると、1か月で2人で6万円くらいになる。また昼食も料理するとなると弁当ということだろうか。昼休みは約1時間しかないので必然的にそうなるだろう。
「近衛さん、流石に3食共は必要ないんじゃないかな。食費も足りるかわからないし」
侑輝は近衛乙月の願望を理解したわけではないが、趣味の一つとして認識することにしたが、それでも3食となると抵抗せざる終えなかった。
「そんなことないですよ。5万円なら十分足ります。」
近衛乙月は十分な自信があることが、侑輝には見て取れた。また食費も近衛乙月自身のお小遣いから全て出すことが窺えた。
「やっぱり1食くらいでいいと思うよ」
「いえ、私が作りたいので気にする必要はありません」
…そうでない。近衛乙月からしてみるとしたいからするのであるから、侑輝は気にしなくていいということであったが、侑輝からすると料理を作ってもらうのみならず食費を出してもらうわけで罪悪感というか依存し過ぎのように感じるのであった。侑輝も料理できれば、まだよかったのであるが、片腕ではマシな料理はできないし、手伝うことも難しいだろう。しかし、あまりにも抵抗すると近衛乙月を悲しませることになる。
まあ簡単に言うと侑輝は、できるだけ近衛乙月に負担を掛けさせたくはなかった。
「近衛さん」
「はい」
「間をとって2食にしよう」
「いえ、気にする…」
「俺は、近衛さんの料理を食べたい気持ちもあるけど、一緒に勉強する時間も大切だから」
侑輝は「一緒に」という言葉を極力協調していった。
「…」
近衛乙月は少し驚いた顔をした後、腕を組みながら顎に手を当てて斜め下を見ながら少しの間固まった後、納得してれたのか顔をほころばせた。
「わかりました、確かに一緒に勉強できる時間は少し減るかもしれませんし…できれば3食作りたかったですが…そうですね」
「ありがとう」
侑輝は安心しながらお礼を言うと、まだ完全に納得していない様子だった近衛乙月は、嬉しそうに微笑んだ後、すっきりしたように「はい」と答えた。
侑輝は流れに乗るように追加して言った。
「勿論、俺も半分は食費は払うよ」
「いえ、私がつくりたいので」
…やはりか。近衛乙月は侑輝の予想通りに答えた。
結局、何度かの押し問答があった後、女性は美容にお金がかかり、侑輝は綺麗な人のほうが良いというようなことをやんわりと伝えることでなんとか納得してもらった。近衛乙月によると、自身は化粧水やクリームは安いものでも構わないと言っていた。また侑輝が綺麗な人のほうがいいと言った時、近衛乙月が普段化粧しないことに狼狽ため、侑輝も焦ったが、化粧なしでも綺麗であるということを強く言うと近衛乙月は満足したのか、その後の侑輝のお願いは大体通ったのであった。
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