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第二章
新月
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「今日はありがとう2人とも」
村木恵介は満足したように、目の前のパソコンを横目に侑輝と近衛乙月にお礼した。研究は、好感度の測定と対して変わらず、頭につけて、殆どじっとしているだけだった。違うところと言えば時間が少し長かったのと、よくわからない大きなカメラが四方八方から向けられていたこと、後はいろんな写真を見せられていたことくらいである。しかし、侑輝に比べて近衛乙月は少し時間が長く、また近衛乙月は個室に呼ばれて何か研究の協力をしていたためか、不機嫌というほどでもないが、村木恵介に対して警戒しているようだった。
「今日のデータはきっと大きな発展を生むよ。それと星乃君にはオートメイルの試作品を学園に送っておくよ。少し時間がかかるけど…そうだな、1か月から3か月待ってくれるとありがたいね」
「わかりました」
侑輝にとっては3か月は短く感じた。この話がなかったら一生、片腕で生活するのだから。
「それと、近衛さんについては…いろいろ付き合わせてしまってごめんね。少し私に対して嫌悪感を持っているようだ。星乃君もごめんね」
「いいえ、侑輝さんのためですから」
近衛乙月は嫌悪感を持っているということに対して否定する様子はなく、発せられた言葉には少々の棘があった。
「ああでも、近衛さんにもいい情報があるよ」
「なんでしょうか」
「星乃君からの近衛さんへの好感度が20も上がっていたんだよ。この短期間ですごいね」
「ふふ、そうですか」
近衛乙月は先ほどの冷たい声とは違い、満足したように嬉しそうに赤く微笑んだ。それと同調するように侑輝の顔も赤くなったが、勿論理由は恥ずかしかったからである。
「それと星乃君、オートメイルとかのことについてデータを渡すよ。さっき貸してくれた星乃君の学生証に入ってるから戻ったら学内の端末で確認しておいてくれ。」
椅子に座っていた侑輝は立ち上がり村木恵介の目の前にきて学生証を受け取ろうとした。村木恵介の手の中にある学生証が強く握られていたため侑輝は目の前の男を見た。村木恵介は侑輝の顔をじっと見ると、少し微笑み力を抜いた。
村木恵介の研究所からの帰りの途中である。車の中には研究所の従業員の人が運転席に、侑輝と近衛乙月は後ろに座っていた。
「2人とも今日はありがとう、教授も喜んでたよ」
先程までタブレットを触っていた運転手は後ろを向くと侑輝に話しかけた。
「教授は、見た目とは違ってとても繊細な人なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
侑輝の隣にいる近衛乙月は行きもそうであったが、帰りもほとんど侑輝を見ていたが、しばしば外を警戒するように眺めていた。侑輝は少し落ち着きのない近衛乙月を見て不思議に思ったが、外が苦手なのだと思っていた。
「もともと教授はコミュニケーション障害と自分で言うぐらい控えめな人間だからね。今でも、研究所の仲間のことをいつも考えてるんだよ。他人の気持ちを敏感に察する」
侑輝は妙に納得した。確かに見た目は無頓着そうであったが、侑輝が腕を無くしたことを気にしてオートメイルをくれると言うくらいだ。しかもデータのためでもあるという理由によって侑輝が受け取りやすいように言ってくれたこともある。
「いい人なんですね」
「ああ、研究所で教授を嫌いな人はいないと思うよ」
「思う…ですか?」
好感度の数値が見られるというのに「思う」というのは不思議な話である。
「思う、だね。私たちは基本的に互いの好感度数値を見ない。勿論、研究のために見ることもあるけど、大体は研究所外の人を呼んだりする」
「理由があるんですか?」
「ああ。教授がそれを避けてるんだ。というのも好感度が見られると研究に無駄な感情が出てきてしまうと懸念しているんだ。本当のところはわからないけどね」
「そうなんですか」
学園に帰った頃には日は落ち、月明りの無い夜になった。学園に入った近衛乙月は車の中の落ち着きのない様子は無くなり、いつもの状態に戻っていた。
「近衛さん、今日は付き合ってくれてありがとう。」
「いえ、構いませんよ。私は一緒に居ることができさえすれば満足です」
「そ、そう」
いつもの近衛乙月の優しい微笑みを見た侑輝は安心と恥ずかしさで顔を少し赤くしたが、良い気分であった。
「侑輝さん。それと今日からよろしくお願いしますね」
「は、はい」
「私はお風呂に入ってきます」
「は、はい」
侑輝は少し声が裏返った。前回の添い寝は無意識であったが、今日からは自発的に、意識的に一緒に寝ることになるのである。近衛乙月は軽い面持ちで浴室に向かっていた。…俺もよく洗っておこうかな。
侑輝は近衛乙月の後ろ姿が無くなることを確認すると、自身の浴室に向かおうとした。しかし、一人になった侑輝はふと村木恵介に渡されたデータを思い出した。自身の端末を開いて学生証をセットする。中には「オートメイル(左腕)の説明」というファイルがあった。試しに開いてみると中には大量の説明書があった。
…長い
適当に開いてみると、黒いオートメイルの写真があった。人間の腕とは程遠いが形は人間の腕にそっくりである。短い円柱のような黒いものが、連続的につながっている。少しスワイプして読んでみると、どうやらそれらによって長さを調節できるらしい。侑輝は感動しながら写真をじっくり眺めて、顔がにやけた。侑輝は手を震わせながら沢山並ぶファイルを眺めた。…と妙なものが1つ。「近衛乙月」、それは隠れるように入っていた。震えていた手が固まった。タップして開いてみると、今日の研究に関するデータであった。それは、侑輝に対する詳細な好感度だけではなく、ストレスや精神状態に関するデータが入っていた。侑輝は食い入るようにデータを読み、顔から首へと、そして指へ血が引いていくのが分かった。手の震えは止まらない。
村木恵介は満足したように、目の前のパソコンを横目に侑輝と近衛乙月にお礼した。研究は、好感度の測定と対して変わらず、頭につけて、殆どじっとしているだけだった。違うところと言えば時間が少し長かったのと、よくわからない大きなカメラが四方八方から向けられていたこと、後はいろんな写真を見せられていたことくらいである。しかし、侑輝に比べて近衛乙月は少し時間が長く、また近衛乙月は個室に呼ばれて何か研究の協力をしていたためか、不機嫌というほどでもないが、村木恵介に対して警戒しているようだった。
「今日のデータはきっと大きな発展を生むよ。それと星乃君にはオートメイルの試作品を学園に送っておくよ。少し時間がかかるけど…そうだな、1か月から3か月待ってくれるとありがたいね」
「わかりました」
侑輝にとっては3か月は短く感じた。この話がなかったら一生、片腕で生活するのだから。
「それと、近衛さんについては…いろいろ付き合わせてしまってごめんね。少し私に対して嫌悪感を持っているようだ。星乃君もごめんね」
「いいえ、侑輝さんのためですから」
近衛乙月は嫌悪感を持っているということに対して否定する様子はなく、発せられた言葉には少々の棘があった。
「ああでも、近衛さんにもいい情報があるよ」
「なんでしょうか」
「星乃君からの近衛さんへの好感度が20も上がっていたんだよ。この短期間ですごいね」
「ふふ、そうですか」
近衛乙月は先ほどの冷たい声とは違い、満足したように嬉しそうに赤く微笑んだ。それと同調するように侑輝の顔も赤くなったが、勿論理由は恥ずかしかったからである。
「それと星乃君、オートメイルとかのことについてデータを渡すよ。さっき貸してくれた星乃君の学生証に入ってるから戻ったら学内の端末で確認しておいてくれ。」
椅子に座っていた侑輝は立ち上がり村木恵介の目の前にきて学生証を受け取ろうとした。村木恵介の手の中にある学生証が強く握られていたため侑輝は目の前の男を見た。村木恵介は侑輝の顔をじっと見ると、少し微笑み力を抜いた。
村木恵介の研究所からの帰りの途中である。車の中には研究所の従業員の人が運転席に、侑輝と近衛乙月は後ろに座っていた。
「2人とも今日はありがとう、教授も喜んでたよ」
先程までタブレットを触っていた運転手は後ろを向くと侑輝に話しかけた。
「教授は、見た目とは違ってとても繊細な人なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
侑輝の隣にいる近衛乙月は行きもそうであったが、帰りもほとんど侑輝を見ていたが、しばしば外を警戒するように眺めていた。侑輝は少し落ち着きのない近衛乙月を見て不思議に思ったが、外が苦手なのだと思っていた。
「もともと教授はコミュニケーション障害と自分で言うぐらい控えめな人間だからね。今でも、研究所の仲間のことをいつも考えてるんだよ。他人の気持ちを敏感に察する」
侑輝は妙に納得した。確かに見た目は無頓着そうであったが、侑輝が腕を無くしたことを気にしてオートメイルをくれると言うくらいだ。しかもデータのためでもあるという理由によって侑輝が受け取りやすいように言ってくれたこともある。
「いい人なんですね」
「ああ、研究所で教授を嫌いな人はいないと思うよ」
「思う…ですか?」
好感度の数値が見られるというのに「思う」というのは不思議な話である。
「思う、だね。私たちは基本的に互いの好感度数値を見ない。勿論、研究のために見ることもあるけど、大体は研究所外の人を呼んだりする」
「理由があるんですか?」
「ああ。教授がそれを避けてるんだ。というのも好感度が見られると研究に無駄な感情が出てきてしまうと懸念しているんだ。本当のところはわからないけどね」
「そうなんですか」
学園に帰った頃には日は落ち、月明りの無い夜になった。学園に入った近衛乙月は車の中の落ち着きのない様子は無くなり、いつもの状態に戻っていた。
「近衛さん、今日は付き合ってくれてありがとう。」
「いえ、構いませんよ。私は一緒に居ることができさえすれば満足です」
「そ、そう」
いつもの近衛乙月の優しい微笑みを見た侑輝は安心と恥ずかしさで顔を少し赤くしたが、良い気分であった。
「侑輝さん。それと今日からよろしくお願いしますね」
「は、はい」
「私はお風呂に入ってきます」
「は、はい」
侑輝は少し声が裏返った。前回の添い寝は無意識であったが、今日からは自発的に、意識的に一緒に寝ることになるのである。近衛乙月は軽い面持ちで浴室に向かっていた。…俺もよく洗っておこうかな。
侑輝は近衛乙月の後ろ姿が無くなることを確認すると、自身の浴室に向かおうとした。しかし、一人になった侑輝はふと村木恵介に渡されたデータを思い出した。自身の端末を開いて学生証をセットする。中には「オートメイル(左腕)の説明」というファイルがあった。試しに開いてみると中には大量の説明書があった。
…長い
適当に開いてみると、黒いオートメイルの写真があった。人間の腕とは程遠いが形は人間の腕にそっくりである。短い円柱のような黒いものが、連続的につながっている。少しスワイプして読んでみると、どうやらそれらによって長さを調節できるらしい。侑輝は感動しながら写真をじっくり眺めて、顔がにやけた。侑輝は手を震わせながら沢山並ぶファイルを眺めた。…と妙なものが1つ。「近衛乙月」、それは隠れるように入っていた。震えていた手が固まった。タップして開いてみると、今日の研究に関するデータであった。それは、侑輝に対する詳細な好感度だけではなく、ストレスや精神状態に関するデータが入っていた。侑輝は食い入るようにデータを読み、顔から首へと、そして指へ血が引いていくのが分かった。手の震えは止まらない。
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