好感度教育

蝸牛まいまい

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第三章

乙月の発端

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私は恵まれていた。両親は年に何兆円ものお金を動かす人たちだった。当然、私が育てられるために使われた金額も普通の人とは比較できない。しかし、両親は私を完璧に育てることにこだわった。勉強、習い事、立ち振る舞いまでも指導され、趣味と呼ばれるものはなかった。決して、勉強や生け花やピアノ、茶道、格闘技、料理が嫌いだったわけではなかったが、すぐに嫌いになった。なぜなら、それらの全てで私は完璧を求められたからである。それが苦痛でたまらなかった。いつも傍には使用人が控えており、指導する人が控えており、母親が控えている。ずっと監視されて干渉されて生きてきた。お金があっても欲しいものを買ってもらえるわけではない、ただ必要なものを与えられるだけであった。テストでは100点をとることが当たり前、習い事では賞をとることが当たり前、だからといって褒められるわけでもない。
私は…恵まれていた。
中学3年生の時、このα学園に入る権利を得たとき、私は希望が少しだけ見えた。両親には当然、別の私立高等学校に入ることを強制されていた。私は隠れながら入学の手続きを踏んだ。晴れて入学。
しかし…。しかし、何も変わらなかった。両親からは離れられた。きっと実家では大事件になっているに違いない。それでも気分は良くならなかった。自由になったところで私には生きる理由がなかった。私の人生は両親に与えられたものに過ぎなかった。自由になったところで残ったものは空っぽの自分であった。
だから、私は自殺することにした。怖くはなかった。頭に響くのはいつも両親と指導員の怒りの声。この声から離れられるのであれば、この苦痛から逃れられるのであれば、それだけで十分。
…あのときまでは、本当にそう思っていた。彼が私を引っ張った時までは…



今、私は恵まれている。お金が特別あるわけではない。習い事はもうしていない。裸の私。そして、無防備に私の裸に、胸に寄りかかる彼がいる。他に必要なものなんてない。身体が喜びで震えている。頭の中には彼の身体の形、髪型、目や鼻、耳、口の形、声、匂い、味、全て挙げるとするときりがないくらいに満たされている。密着している肌が熱い。今でも昨夜のことを思い出すと身体が熱くなる。頭の中で常に脳内麻薬が生成されているよう。無意識に彼を考えてしまう。料理をしているときも、勉強しているときも、いつの間にか彼を考えてしまう。どうすれば喜んでくれるんだろう。どうすれば気持ちよくなってくれるんだろう。どうすれば好きになってくれるんだろう。考えるだけで心が躍る。
太ももに頭を載せる彼、自分の料理を食べる彼、胸の中で寝る彼、それを感じただけで私の心は満腹なのである。昨夜は、ついに…
「ふふ、ふふ、ふふふ、ふふ… …」
もう一度、彼を見る。胸にぴったりと顔をつけ、疲れたように、満たされたように目をつぶる。熱い、身体が熱い、無防備な姿を見ているだけでまた絶頂しそうだ。彼を自分のものにしたような征服感。彼を生きがいとする私にとって、彼を世界の中心とする私にとっては、私は全てを手に入れたような気分である。
彼さえいれば、彼さえ傍にいてくれれば何もいらない。彼が100であり、それ以外は0に等しい。
私は今、恵まれている。それが、近衛乙月であった。
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