好感度教育

蝸牛まいまい

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第三章

将来の夢

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「みなさん、学力テストが近づいてきています。しっかりと勉学に励みましょう」
2日間の休養の後、侑輝と乙月は当然であるが授業に出席した。乙月さえいれば授業など必要はないが、だからと言っていかないわけにはいかない。しかし、正直学力テストに関しては何1つ心配はなかった。そもそも、好感度だけで400点は超えるのだから当然である。しかし、特別部屋に居続けるためには多少の努力も必要である。侑輝として普通部屋でも勿論、満足していたものの部屋というより、お小遣いが目的であった。やはり、毎日甲斐甲斐しく料理をする乙月のためにも勉強を怠るわけにはいかない。
しかし、そんな侑輝に大きな大きな問題が1つできたのである。問題の発生源は言うまでもない、乙月である。
「侑輝さん、今日は何時に寝ますか?」
乙月と身体を重ねてから数日間、毎日身体を重ねているのである。授業もあるので回数は控えているが、勉強を脅かすには十分であった。
「乙月さん、勉強の時間もう少し増やしたほうがいいんじゃない?学力テストもあるわけだし」
「大丈夫ですよ、私たち2人なら少なくても十分だと思いますよ」
乙月の言うことはもっともである。恐らく、勉強をほとんどしなくても乙月の点数と2人の好感度点数だけで10位に入れる可能性が高い。
「それは…そうかもしれませんが、将来を考えても勉強は必要だと思うんだけど…」
「将来ですか…。侑輝さんは将来何になりたいんですか?」
「え…」
侑輝は言葉に詰まった。侑輝にはこれと言ってやりたいことが無いのである。
「普通にサラリーマンとか?」
「なりたいんですか?」
「いや、うーん…どうだろ」
侑輝は自問自答してみる。しかし、サラリーマンという抽象的なものになりたいと言っても説得力は無いし、そもそもなりたいかと問われると、そんな抽象的なことを問われてもわからないというのが事実であった。それに、片腕の無い人を雇ってくれる会社はあるんだろうか、ろくにタイピングもできない。だが、もうすぐ届くであろうオートメイルがあれば、できるかもしれない。
「そういえば、乙月さんは何になりたいの?」
「私は、侑輝さんの妻になりますよ?」
乙月の顔は、まるで当然というようだった。
「あっ!えっ…そうだね」
侑輝は突然の告白に顔が熱くなるのを感じたが、どこか安心した。いつもの乙月である。
「侑輝さん」
「ん?」
「会社に行く必要あるんですか?」
「え?それは…お金稼がないと生きていけないからね…」
「いえ、お金を稼ぐだけであれば侑輝さんである必要もないと思うんですよ」
「え?」
「お金を稼ぐのってそんなに難しいことではありませんし、家の中でできます。というか侑輝さんを会社に行かせるのは…。外には他の女も沢山いるわけですし、私の目も届きにくいわけですし。侑輝さんが浮気なんてする人でないことは当然わかっていますが、他の女が侑輝さんを襲う可能性だってあります。家にいればずっと一緒に居られるわけですし、危険も少ない。お金は適当に稼ぎながら侑輝さんと一緒に家にずっと…ふふ…そうしましょう」
乙月は最初こそ侑輝の目を見ていたが、途中から上を見ながらぶつぶつを独り言を言いだしていた。
「あの…乙月さん?」
「侑輝さん、サラリーマンになりたいんですか?」
「え…うーん…」
「なりたいんですか?」
乙月は瞳孔を光らせるように侑輝の目をじっと見た。侑輝はすぐさま理解した。嘘は付けないと…
「正直、そんなになりたいわけではないけど…」
「そうですか、よかった。じゃあ侑輝さんは外に出て働く必要ありません」
「え…」
「将来、お金なら私が適当に稼ぎます。大丈夫です。ある程度贅沢できる程度には稼ぎますから」
乙月は軽く言った。侑輝は自分自身の情けなさを感じながら、乙月の天才性に感心した。きっと乙月なら本当にやってのけるだろう。
「…それじゃあ、俺は主夫ってことか」
「え?」
「え?」
2人の頭が斜めに傾いた。
「家事は私がしますよ?当たり前じゃないですか。家事は女の役目です」
「じゃあお金を稼ぐのは?」
「私が適当に稼ぎますよ?大丈夫です、一日1時間もあればいいですから」
「俺は?」
「私の夫です、ふふ、私の夫…」
「いや、家で何すればいいの?」
「私の夫をしていただければと…」
「夫をするって何?」
侑輝は乙月の思考についていけていなかった。つまりはヒモになれということだろうか。
「私の隣にいて、私の料理を食べて、私と一緒に寝て、私と一緒にお出かけしたり、私とセックスすることです」
「セッ!」
ヒモですね。
「乙月さん」
「はい」
「俺って生きてる価値あるのかな」
「当たり前じゃないですか、侑輝さんのいない世界に価値なんてありません」
「そんなに」
「はい」
侑輝は自身の甲斐性の無さにあきれてしまった。恋人にヒモになれと言われては情けなくて仕方がないだろう。しかし、乙月はそれを現実にする能力も資質があることを十分に理解はしていた。侑輝は心の中で大きく溜息をつきながら、自身の無力さを強く感じた。目の前の彼女は優しい目で侑輝を見ていた。その目は、侑輝の全てを飲み込むように黒く、安定し、そして温かった。
「乙月さん…」
侑輝は乙月にすがるように抱きしめた…謝罪と感謝を込めて。
「はーい、ベッドに行きましょうか」
優しい声と共に乙月に手を引かれながら侑輝は小さく決意した、乙月までとはいかずとも在宅で稼いでみせると…。
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