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1章 従者との生活
人形な奴隷
しおりを挟む峻矢のベッドに横たわる少女の傷ついた腕には点滴がつながれていた。
「2日3日すれば目も覚めるでしょう。」
「ありがとうございます」
「しかし、この子の状態を見る限り・・・
あまりよろしくない環境で育ったみたいですね」
寝室には医者と、ラナンもいた。
「はい・・・そうみたいですね。
・・・このことは内密にしてもらえませんか・・・」
このことが世間にバレれば自身も危ない。
「・・・わかりました」
「・・・え?いいんですか?」
医者の予想外な返事に驚く。
「はい、私はあなたの父親のことをよく知っております。恵介様はよくご病気を患った時に私のところへいらしていましたから・・・」
そのこと聞いて医者の予想外な返答に納得する。ラナンが気を利かせてくれていたようである。
(ラナンにも感謝しないとな)
「また何かあったらよろしくお願いします。」
「はい、こちらこそお願いします。
女の子には栄養のあるものを食べさせてください。」
「はい」
「・・・ふう~」
やっと一件落着である。
寝ている女の子を見ると穏やかな寝息を立てている。
(何歳だろうか・・・14歳くらいだろうか)
顔には無数の傷と痣がある。
父は本当に最低な男であったことが窺える。
「お疲れ様です、峻矢様」
「あ、ラナンさん。ありがとうございます、父の知り合いの医者を呼んでくれたみたいで」
「いえ」
ラナンは少しそっけなく答えていたが、少し明るい声をしていた。
殺気だった目も消え、少し嬉しそうにも感じた。
鳥の囀りが聞こえる外からの日の指すベッドの上で少女は目を覚ました。
「・・・」
少女は座ったままに起き上がり周りの様子を窺った。
彼女の目は数百メートル、数千メートル、いやおそらく
もっと先を見ているのだろうか。
それともどこも見えていないかのような遠い目をしている。
少女は自らの右腕に違和感を感じたのであろうか、
繋がれている管を無造作に引いた。
ガシャン!!!
少女はその大きな音に動じない。
引いた管は手首から外れ管からは少しの液体が飛び散る。
「・・・」
「目が覚めたのか?」
峻矢は突然の大きな音に驚いてすぐに少女の元に駆け付けた。
少女を見ると体を起こしこちらを向いている。
倒れている点滴に目もくれず少女の傍に立つ。
「大丈夫か」
「・・・」
少女は何も反応をせずにこちらを見つめている。
ただその目は本当に峻矢の目を見ているかと言われれば真偽はわからない。
不安になって再度問う。
「だい・・・じょうぶか?」
「・・・」
少女は依然として態度を変えない。
(もしかして声が聞こえないとかか?)
「失礼します、峻矢様」
「はい、ラナンさん。」
「先ほど大きな音がしたので参りました。」
ラナンは寝室に入るや否や状況を把握したらしく、
倒れた点滴のほうへ歩いていくと片付け始めた。
「ありがとうございますラナンさん。
あの、それと少しお願いがあるんですけど・・・」
「はい」
自分の手に負えないと判断した峻矢は、ラナンが少女のことを少しは知っていること願った。
「それ終わったらすぐにここに戻ってきてくれませんか?」
「はい、かしこまりました」
峻矢はもう一度少女のほうへ体を向ける。
少女も顔だけは峻矢のほうを見ていた。
彼女の顔からは感情というものを感じない。只々、見るにたえない傷跡があるだけだ。
長く白い髪に、大きな目、ちいさな鼻と口はまさに人形のようであった。
しかし生きているのは事実である。
顔にある無数の傷跡と痣、それは人形には決してつくことのないものであった。
(それにしても本当に人形みたいだ)
「あの、俺の声聞こえてる?」
「・・・」
(聞こえてないのか?
本当に生きているのか?)
少女に近づき頬に手を当てようとする。
少女は手が触れようとすると目をつぶった。
(生きてはいるな・・・)
「峻矢様。」
少女に当てていた手を素早く引く。
「ラナンさん。この子って耳が聞こえないとかでしょうか」
ラナンは少女を見るが特に様子の変化はない
「いいえ、音は聞こえているはずです。」
そういうとラナンは少女の目の前にいき大きな声で命令した。
「返事しなさい。」
少女はラナンの声に反応して約2秒後ほどにゆっくりとうなづいた。
「命令すると反応するんですか?」
「はい、峻矢様はもうご存知でいらっしゃると思いますが、
この少女は奴隷です。恵介様はこの少女を人形として買いました。
恵介様は愛人は多くいましたから、この少女は傷つけるための存在です。
恵介様のご指示で命令には従うように調教されているのかもしれません。」
峻矢は少し感づいていたが、ラナンが言ったことを聞いて拳を握りしめた。
(糞親父!!!!!!!)
父親に対する怒りを握りしめ少女の傍らに行くと身をかがめ強く抱きしめた。
少女の体温は人間のように温かったが表情は冷たいままだった。
「・・・ラナンさん。」
「はい」
「・・・少し温かい食事を用意してください」
「かしこまりました」
(とりあえず、助かってよかった。
命令にしか反応できないのは残念だけど・・・)
少女の目を再度確認する。
どこを見ているのかさへわからない。
「な、名前を言ってみろ」
「・・・」
少女は顔を峻矢に向けながらも目は遠くを見ている。
「な、名前を聞いている!」
少女はしばらく間を開けてやっと答えた。
「・・・ありません」
少女は透き通った高い声で答えた。
「・・・そ、そうか」
人形として買われた少女には名前はなかった。
そこからも父親の非道な行いがうかがえる。
(・・・名前はやっぱり必要だろう。
それに極悪な父と俺は違う。)
「お、おい。
これからお前には名前を与える。」
「・・・」
(って言ったのはいいけど・・・
何も考えてない・・・どうしようか)
しばらく流れる沈黙、峻矢は何かないかとあたりを見回す。
少女は依然として名前を探している彼の姿を澄ました様子で見ていた。
峻矢は小さく深呼吸をするともう1度少女を見る。
(焦って考えることもないよな・・・)
少女の目は黒く光りを失っている。
地下にいたせいか肌は白く、傷口が際立っている。
そして肌よりも白い髪の毛は長く少し傷んでいる。
「・・・マシロ
そうだなマシロにしよう。
これからお前の名前はマシロだ。
わ、わかったな。」
・・・
少女は少しの間の後、小さく頷いた。
その後、コミュニケーションをとるため
年齢、誕生日、好きなものなどを尋ねたものの答えられたものは何1つなかった。勿論、予想はしていたが少しの希望を抱いただけである。
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