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3章 主人との日々
雨
しおりを挟む『お母さん!僕にはなんでお父さんがいないの?』
まだ小さかったその子供には周りのお父さんという存在が理解できなかった。
生まれてからずっと母と暮らしていた。
別段、裕福でも貧相でもない家庭は小さな男の子には特に何も感じないものだったが
ただ1つ父親という存在が分からない。
『お父さんはね最初からいないの、峻矢は何も気にしなくていい』
母はそうはぐらかす。
「・・・懐かしい夢だな」
酷くなる雨音に峻矢は起こされた。
(父親か・・・)
峻矢は父親は顔も知らない。
詳しくはぶれた写真を一度見たことがあるくらいだった。
ずっと母と暮らしてきた。
そのせいか彼は父という存在が分からなかった。
父親の背中を見たことがない彼には父親になるという想像もまた然り
そもそも結婚というものが自分の遠くにあるような気がしていた。
ドアのノックと共に金髪の美女の声が聞こえた。
「峻矢様、お食事の準備ができました。」
「あ、ありがとう」
どうしてなのか、いつも起きると同時にその声は聞こえた。
特に合図もしていない。特にお願いもしていない。
しかし目を覚ましベッドから起き上がるとその声は聞こえる。
ラナンは耳がいいんだろうか・・・
ベッドから起き上がり、台所へ向かうと2人が待っている。
2人はすでに服を整え、仕事をする準備も完璧である。
席に着き一言
「いただきます。」
「いただきます。」
「・・・」
峻矢の一言を合図に2人は手を合わせる。
合わせた手を開きラナンが作ったであろう食事に手を伸ばす。
・・・と急に電話が鳴りだす。
まだ朝は早い、今日は特に用事もないはずだった。
(恭子の奴か?)
「峻矢様、私が出ます。」
「お願いするよ。」
止まった手をもう一度伸ばし、今度こそと思い振れる直前
「峻矢様、お電話です。」
どうやら恭子ではないらしい。
電話をラナンから受け取り、耳に当てる。
ラナンは峻矢の顔をじっと見ていた。
(何用かな?)
「はい、峻矢ですけど・・・」
「峻矢さんですか!お母様がお亡くなりになりました!
今すぐに病室に!」
え・・・・・・
なんの冗談だろうか・・・
思考回路が回らない。どこかで切れているのだろうか。
何を言われているのかわからない。
『お母様がお亡くなりになりました』
(母さんが・・・しんだ?)
受話器を落とした峻矢は、それと同時に足を崩し体を落とした。
峻矢の目の前には黄と白のぼやけた世界が映っていた。
「峻矢様!!峻矢様!!マシロ、今すぐ医者を呼んで!」
誰かの呼ぶ声がする。しかし峻矢には何を言われても理解できなかった。
床をあわただしく走る音、誰かの女の人の声、酷くなる雨音だけが頭の中に混ざりくねって反響していた・・・
『峻矢、お父さんがいなくても気にしなくていいのよ。
あなたにはお母さんがいるもの。』
男の子は母に抱かれて幸せそうに眠っている。
『あなたは心の優しい人間だもの、きっと大丈夫』
母親は男の子の顔を穏やかに見つめる。
『大丈夫、大丈夫・・・』
2人は幸せそうに過ごしている。
「母さん!」
いつもの天井・・・
(全部、夢だったのか・・・何もかも・・・悪い夢だったのか・・・)
「峻矢様・・・」
隣を見るとラナンとマシロ、前にお世話をかけてもらった医者がいた。
2人は悲しい顔で見つめ、1人は顔を伏せていた。
「ど、どうしたんですか?・・・」
「・・・」
「・・・」
「何があったんですか?今から朝ごはんを・・・」
「・・・」
白い服を着た男性はゆっくりと近づくとゆっくりと話した。
「お母様は・・・お亡くなりになったのです。
あなたはそのショックで倒れました・・・」
「それは・・・夢じゃない・・・の・・・か」
時計を見ると短針が10という数字に向けられている。いつもならもっと早い時間に向けられているし、遅くなればラナンが起こしてくる。つまり・・・
それが事実だと理解したとき、峻矢の頭は水に埋もれたような気がした。
頭に上がった熱は冷め、脳が酸欠を起こすかのように頭痛を促す。
・・・
・・・そしてあふれた水が目から流れ落ちた。
水は止まらなかった。
胸から湧き出る水は血よりもはるかに多かった。
「・・・そんな・・・母さん・・・」
「お辛いかもしれませんが・・・」
「母さんは・・・どうして・・・」
「交通事故にございます・・・」
「そんな・・・」
(交通事故・・・なんだよそれ・・・なんだよ・・・それ)
酷くなる雨はやまなかった、やみそうにもなかった。
流れ落ちる水は恵みのものとも言い切れず・・・
2人はただその水を見つめていた。
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