主従の逆転関係

蝸牛まいまい

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3章 主人との日々

結婚

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「恭子、毎日来てもらってありがとう」
「何しけた面してんのよシュン」
「もう少し元気になったら落ち着こうと思うから。」 

幼馴染は少し顔を伏せると笑った。

「そういえば、お金の管理とかはどうしようか?」
「ああ、今はラナンに頼んでるんだよ。
俺もこんな状態だし・・・
それにお前に頼むのもなんか怖いな!」

ラナンは必要な生活用品も熟知している。今の状態を考えラナンに頼むのは必然だ。寧ろ金遣いの荒そうな幼馴染に頼むのも心配だ。
幼馴染は冗談交じりに笑った。

「一緒になったら少しは考えるに決まってるじゃないの!」

幼馴染は呼応するように笑った。

「それもそうだな・・・」
「それじゃあ、また来るから・・・」
「ああ、ありがとう」



嵐のような幼馴染は台風に変わりつむじ風に変わり
南風に変わっていった。献身的に峻矢の心を支え暖かくした。

(結婚か・・・なんか想像できないな・・・)

外を見ると長く続く雨が今もなお勢いが衰えずに降っている。
少し重たい脚を動かし書斎に行こうと立ち上がる。

「峻矢様・・・今はまだ・・・」
「いや、大丈夫。ありがとう」

心配なのかラナンはすぐ後ろについて歩く。



書斎の中はいつもと雰囲気が違っているように感じた。

(母さんが死んで少し俺も変わったか・・・)

机の上は埃1つなくとても整理整頓されている。
おそらくラナンとマシロだろう。
しかしいつも同じ場所にあるカメラがなかった。

「ラナン、ここにあったカメラは?」
「え?あ、いえ・・・わかりません」

ラナンは少し動揺をしたかと思うと思い出すように顔を左上に向けた。

「もしかすると恭子かもしれないな・・・」



峻矢の持っていたカメラは小説を書く時に情景を撮っておくためのものであった。
ある程度高価であるため恭子が面白がって持っていったのであろうか。

(まあ、許してやろう・・・)

峻矢は最近の恭子との生活を思い出し少し微笑んだ。





結婚か・・・










「ラナン、マシロ・・・話がある。」


静かな夕食時、3人は手を止めた。
ラナンとマシロは2人で目を合わせた。

(2人とも結構仲よくなったのか・・・)

ここ最近落ち込んでいたこともあり気づいていなかった。

「なんでしょうか。」
「・・・」

2人は手を机の下に入れると冷静な目を向けた。
2人ともわかっているようだった。



「恭子と・・・結婚しようと思うんだ・・・」

2人の目は『結婚』という言葉を聞いた途端に光を失った。
冷静さを感じさせるはずの冷たい目は暗い熱が籠っていた。

「も、勿論2人とはこれからも暮らしていくから安心してほしい。」

2人の雰囲気は暗くなるばかりで峻矢は不安を感じた。

「2人とも恭子とは性格が合わないのは少しはわかるけど・・・
悪い奴ではないんだ・・・そのことについても安心してほしい。」


一言吐くほどに気が遠くなるような間が生まれる。
ラナンの用意したスープはそのせいだろうか・・・
2人の態度のせいだろううか・・・白い湯気はなくなっている。


「明日、言おうと思うんだ・・・恭子に・・・
ここ最近気分もようやく晴れてきたし・・・
2人とも・・・今までありがとう・・・これからもよろしく」
 

2人は無表情だった・・・
その顔がなぜか前の2人に戻ったようで怖くなった。


「あ、あの・・・2人とも?」



「峻矢さま」
「は、はい」
「特に言い返す言葉もありません。
夕食が冷めないうちに召しあがってください。」
「・・・うん」


(やっぱりまだ納得できないよな・・・
まあゆっくりと慣れていくだろう・・・)









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