主従の逆転関係

蝸牛まいまい

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3章 主人との日々

真実

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・・・
・・・
体が重くだるい・・・
あれから数日間、何も口にしていなかった。
動いていないお蔭かまだ餓死することはないだろう。


「失礼します、食事を変えにきました。」
「ラナン・・・早く外せ・・・」

幾度となく繰り返されたやり取りだった・・・
ラナンは何も気にせずに机の上の冷めた食事と温かい食事を入れ替える。
しかし峻矢はラナンに対する少しの抵抗として食事をとらなかった。
そして弱弱しい声で峻矢は訴え続けた。


「恭子は・・・?」
「恭子様には峻矢様が一人旅に行ったと伝えてあります。
勝手に行ってしまった謝罪として少しお金を渡しておきましたが・・・
・・・そろそろかもしれません・・・」
「あ・・・あいつは勘のいいやつだから、きっとすぐに気が付いてくれる。」

(恭子・・・お前しかいない・・・
ここから抜け出したら・・・2人で別の場所に・・・)

「おれは・・・恭子と結婚するんだ・・・」
「・・・」

突然、扉が開く鈍い音がする。


開かれていく扉の隙間からは白い髪が垣間見えた。

「・・・マシロ?」

(そういえば、ここ数日マシロには会っていない。
もしかするとマシロは俺を・・・助けにきたんだ・・・)

白い髪は今まで見た中で最も輝いて見えた。

(俺がマシロを助けたように・・・きっとマシロも・・・)






・・・・・・マシロの右手には茶色の繊維があった。
「・・・マシロ?」


右手には・・・手錠と足枷をはめられた恭子がいた。
マシロの目は暗く、しかし鋭い光が輝いていた。

「恭子!!!!」
「シュン・・・助けて!!」

茶髪の髪は乱れ、顔は汚れている。
そんな姿を見て峻矢の頭には血が上った。
愛する彼女を傷つけられた怒り、理不尽に数日間監禁されている怒り、そして助けた恩も忘れこのような非人道的なことをする2人に対する怒り、すべてが頭の血液の流れを爆発的にした。


「ラナン、マシロいい加減にしろ!!!!」

怒鳴り上げると脳天を割られるような痛みが走る。
それすらも腹立たしかった。

マシロはベッドの近くにぶっきらぼうに恭子を投げ飛ばした。

「痛い!なんなのよ!」


「ラナン!マシロ!いい加減にしろ!お前ら何をしてるのかわかってるのか!
俺がせっかく助けてやったのに!お前らは!」

2人はそんな言葉にも動じずに暗い目を2人に向けた。
まるで2人を殺してしまうかのような目、冷たく悲しそうで憎しみを含んで熱く2人を見つめた。


「・・・峻矢様は愛すべき相手を間違っているのです。
私たちだけいればいいのです。
こんな女は峻矢様が愛する価値がありません。」
「こんな女って何よ!!それはあんた達のことでしょ!」

「黙りなさい!」
「ひっ!」

ラナンの目はいつにも増して暗く、まるで魔王のようなオーラを垂れ流している。
恭子はそれに気圧され驚き震える。




ラナンの声は地下室に響き渡り静寂に包まれた。




止まった冷たい時間の中で・・・マシロは左手を挙げた・・・


(・・・俺のカメラ・・・)

2人の目は小さな手に集まった。

ゆっくりと進み、片手の錠が外れている峻矢の手に渡した。

「・・・びでお」

(ビデオ・・・?)

弱弱しく震えた手を抑え、ビデオのボタンを振り絞って押す。









『恭子ちゃん、結婚するの~?』
『そうそう、冴えない売れない男なんだけど金だけは持ってるのよ~』
『え~俺とはもう会えないの~?寂しいじゃんか~』
『だいじょうぶ!あいつ鈍感だから気づかないわよ!』

ビデオの中にいるのはよく知っている茶髪の女の子と有名な小説家だった。
女の子は美しい裸体を晒して、小説家とベッドの上にいた。

『恭子ちゃん可愛いもんね~
でも今回は男落とすのに時間かかったんだね~』
『まあ鈍感だったから。でも沈んでるところ励ましてあげのよ。
楽だったわ。』
『流石恭子ちゃん!』
『まあ沈ませたのは私なんだけどね~』
『どういうこと?』
『あの男、母親を事故で亡くして落ち込んでいたんだけど~
私が起こした交通事故なんだよね~』
『うわ~ひで~』
『ふふふ、まあね、どうせ金しか持っていないやつだからいいのよ。
それに最近一人旅してるんだって~馬鹿よね~』
『一生してればいいのにな!』
『本当にそうよね、まあ少しお金もらったからいいのよ!』

嬉しそうに笑う女の子の顔はよく自分に向けられていたものだった。
そして自動的に流れた次の動画は幼馴染の交わっているシーンだった。
幼馴染の喘ぎが地下室に響いた・・・
いや・・・響いたのは地下室ではなく脳の中かもしれない。












・・・糸が切れた。

なんの糸だろうか・・・

脳の中の細い血管だろうか・・・

脳の神経だろうか・・・

幼馴染の思い出だろうか・・・

幼馴染への愛だろうか・・・

いや、母親の思い出かもしれない

それとも目に繋がる神経だろうか・・・

目の前が真っ暗だ

崩れていく脳細胞は幼馴染の思い出の居場所だった。



「・・・きょうこ・・・これは・・・」

崩れ落ちた脳細胞は組織液になり目からこぼれ落ちる。
何も口にしていなかったはずなのに涙がこぼれ落ちる。
もう怒りさへ湧いてこなかった・・・
悲しみさへも湧いてこなかった・・・
それなのに涙は湧いてくるのだ・・・


「ち、違うのよシュン!これは・・・その冗談で!
遊びで!愛してるのはシュンなの!」

・・・・・・何を言ってるの?

・・・目の前には闇が広がっていた。
・・・何も見えない
・・・何も






『峻矢様には私たちだけいればいいのです。』

   









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