【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

文字の大きさ
16 / 101
はじまりまして。

【02-04】ステータス

しおりを挟む
 夕焼けに染まり始めた空の下、ヴィーゼの町の小さい噴水付近で僕は今戸惑っていた。
 タキシードを来たピエロは、僕を見たまま、道具を片し始めた。
 僕は逃げることも考えたが、やめておいた。
 僕が何か悪いわけでもないし、僕の足で逃げようとしても彼の足さばきを見る限り、逃げきることはできないだろう。

 片づけを終えたピエロが、僕の方に歩いてきて小声で言った。

 「見たことを忘れろ」

 ピエロのその有無を言わせない圧力に僕は首を縦に振ることしかできなかった。
 僕の反応を見て満足したのかピエロはそのまま広場から去っていった。僕の耳にはピエロの足が石畳に当たった音がカツッという聞こえていた。よくわからないが、イベントの伏線かもしれない。
 
 僕は興奮と残念な気持ちの入り混じったなんとも言えない気持ちになった。次に何をするのか考えようと、さっき座っていたベンチに座った。

 僕は、空中に浮かぶディスプレイに表示される地図を見ながら考える。いろいろとイベントの情報が書いてあるけど、僕に必要なイベントはなかなかない。中には暗殺者ギルドに入るイベントとかも書いてあるが、現状の機動力が改善される見込みがないかぎり、入る意味はないだろう。僕はここにきて、ステータスの確認をしていなかったのを再度思い出した。ディスプレイの地図を閉じ、メニューからステータスを選択する。

=======

 名前:tail
 性別:男
 職業:盗賊

 レベル:一
 STR:三(上限:三)
 MAG:一(上限:一)
 VIT:五(上限:五)
 AGI:一(上限:一)
 DEX:二(上限:二)
 SP:三
 
 スキル:再生(限定:核がなくなると再生しなくなる。核は一定時間で再生する)
     猛毒(限定:ヒュドラの牙・隠密迷彩蛇の牙)
     隠密(限定:隠密迷彩蛇のみ)
     迷彩(限定:隠密迷彩蛇のみ)


=======


 ある程度の予想はしていたが、見事に本体が弱くなっている。この〔再生〕スキルは本体にも有効なようだけど、他のスキルは違みたいだ。〔猛毒〕スキルも〔隠密〕スキルも〔迷彩〕スキルも汎用性の高いスキルなだけに残念だ。
 今の僕にできる戦い方は遠距離から隠密迷彩蛇のオンちゃんを使ったサイレントキルぐらいだろう。オートガードがあるとはいえ、接近されれば僕本体の能力の低さから競り負ける可能性が高い。
 このゲームでは、スキルが豊富にあるとはいえ、一から取得するのは簡単じゃない。一番簡単に取得する方法が職業関係のスキルだから、職業関係のイベントで自分のビルドに合った職業を見つけたかったが、簡単ではなかったようだ。
 動かなくてもいい職業といえば術師が思い浮かぶが、MAGが一な時点で僕に適性はない。盗賊系統で動きの速さに関係しない職業は掲示板では見つからなかった。

 結局僕は、今日する予定だった町の散策を続けることにした。僕がまだ行っていない場所は大通りの北側の冒険者ギルドの方と第二通りの東側だ。僕は訓練場を目指すことにした。現状新しい職業が見つからない限り、盗賊のスキルを身につけるしかない。

 僕が腰を浮かし立とうとすると、さっき話してたおばあさんがやってきて、僕の隣に座った。

 「まだいたのかい?」

 僕を見ておばあさんが言う。

 「はい。あまりいい職業が見つからなくて」
 「今は何の職業なんだい?」

 なんだかおばあさんが相談に乗ってくれるみたいだ。

 「盗賊です」
 「ほう。変わったのについたねぇ」
 「変わってるんですか?」 
 「盗賊なんて言葉自体が良くないだろう」

 盗賊は意味的に悪人だ、ということだろうか。NPC《ノンプレイヤーキャラクター》の盗賊は少ないのかもしれない。
 
 「まあ、名乗りにくいかもしれませんね」

 とりあえず同意しておく。

 「なんで盗賊を選んだんだい?」
 「僕、キメラ種ですから」
 「適性がないってことかい?」 
 「はい」

 僕は頷いた。
 おばあさんは腕を組み、何か考えている。

 「おまえさん、盗賊以外になる気はあるのかい?」
 「はい。最初はそのつもりだったんで」
 「じゃあ、なんでならないんだい?」
 「僕に合う職業が見つけられなくて」

 おばあさんは熱心に話を聞いてくれている。僕が知らない職業もこのおばあさんが知っている可能性はある。僕はおばあさんの言葉を聞き逃さないように構えた。

 「おまえさん、『賞金稼ぎ』になる気はないかい?」

 だから、身構えていた僕はつい聞き返してしまった。

 「え?」
 「だから、賞金稼ぎだよ!賞金の掛かった犯罪者やモンスターを捕まえたり倒したりする職業だよ!」

 いや、僕も賞金稼ぎ自体がわからないわけではないのだが、

 「それって冒険者と同じじゃないんですか?」
 
 そう。言ってることは冒険者と変わらないように聞こえるのだ。

 「ちがうね。詳しくは言えないけど違うんだよ」

 違うらしい。僕は考える。このまま、盗賊になるよりはいいのかもしれない。とりあえず確認する。

 「隠密系のスキルを覚えられますか?」
 「当然。賞金首を尾行したり、待ち伏せしたりするからね」

 それなら、別にいいかもしれない。待ち伏せ専門でやれば、ある程度の依頼はできるだろうし。問題がないわけではないが、このまま時間を無駄にするよりはいいかもしれない。それに掲示板になかったイベントも見てみたい。

 「僕は、賞金稼ぎになろうと思います。おばあさん、賞金稼ぎになる方法を教えてください」
 「よく言った!早速登録しに行こう!」

 おばあさんはそう言って、僕の腕をつかんで立ち上がる。僕もつられて立ち上がる。立ち上がった僕を見てから、おばあさんは軽い足取りで僕を引っ張って歩く。僕は予想以上に強い力でおばあさんに引かれながら歩いた。

 おばあさんに引かれて歩くこと数分。僕は今、よくわからない場所にいる。おばあさんと話していた噴水広場から、さらに住宅街の方に入っていき迷路みたいな道を歩いている。印象としては、テレビで見たことがあるヨーロッパの裏路地だろうか。建物が狭い感覚で建っているため道は薄暗く、石畳からは冷たい感じが伝わってくる。
 それからさらに数分歩くと、おばあさんは一つの建物に入る。僕も一緒に入る。

 建物の外観は、ほかの住宅と同じ感じだったが、中はとてもきれいに整頓されてる酒場のような場所だった。丸テーブルと丸椅子が置かれている。人影はなく、明かりはついているが、暗い雰囲気が漂っていた。

 おばあさんは僕の腕を離し、奥にあるカウンターに入ると一枚の紙を取り出して、僕を手招きした。
 僕は、おばあさんのいるカウンターに行く。

 「これが登録用紙だよ」

 そう言って渡された紙には名前を書く場所があるだけだ。僕は名前を書いて渡した。

 「テイルだね!これでおまえさんは今日から、賞金稼ぎだよ!よろしくね」

 そう言って手を出すお婆さん。僕もそれを握り返す。

 「私はマリア = ブラス。この賞金稼ぎギルドのギルドマスターさ!」
 
 おばあさんがギルドマスターだったようだ。賞金稼ぎギルドの関係者だとは思っていたがギルマスとは。

 「テイルです。よろしくお願いします」

 僕は改めて挨拶してから、聞きたいことを聞く。

 「今ので登録出来たんですよね?僕はこれから何をすればいいのでしょう?」

 「そうだね。とりあえずはこのままスキルの取得をしてもらうよ。おまえさんはまだ弱い。賞金稼ぎの仕事は当分回せないから、スキルを覚えたらしばらくは鍛えてくるといい」

 そう言って僕に一枚の板を渡す。

 「これがギルド証だよ。なくさないように。こっちから用があるときはそのカードに表示されるからこまめにチェックしとくんだよ!あとは訓練場に裏に庭があるからそこでスキルを教えるよ。ついてきな」

 ギルマスはカウンターを出て、奥にある扉の奥に入っていく。

 「なにしてるんだい!早く来な!」

 穏やかそうな声なのに、力がこもった声で言ってくる。僕は、おばあさんが通った扉を通った。

 扉の向こうは庭だった。周りには高い石壁が建っていて、外から中が見えないようになっていた。地面は所々草が生えているが大体の部分は土がむき出しになっていた。

 「じゃあ、これからスキルを教えるよ。教えるスキルは〔気配察知〕と〔気配遮断〕の二つ。このスキルは他のスキルの基礎になるからしっかり覚えるんだよ」

 僕はギルマスにスキルを教わった。方法としてはギルマスが気配を強めたり弱めたりするのを感じる練習をするだけ。最初は全く分からなかったけど、二時間を過ぎる頃には気配の変化は分かるようになっていた。ギルマス曰く、今はなんとなくわかるだけでも、使っていくうちに直感的に分かるようになるらしい。

 「そろそろかね。ステータスを見てごらん」

 ギルマスに言われ、ステータスを確認する。



=======

 名前:tail
 性別:男
 職業:賞金稼ぎ

 レベル:一
 STR:三(上限:三)
 MAG:一(上限:一)
 VIT:五(上限:五)
 AGI:一(上限:一)
 DEX:二(上限:二)
 SP:三
 
 スキル:再生(限定:核がなくなると再生しなくなる。核は一定時間で再生する)
     猛毒(限定:ヒュドラの牙・隠密迷彩蛇の牙)
     隠密(限定:隠密迷彩蛇のみ)
     迷彩(限定:隠密迷彩蛇のみ)

     気配察知
     気配遮断

=======



 職業の欄が賞金稼ぎになって、スキルが二つ増えていた。

 「二つとも取得できてました」
 「そうかい。そりゃよかった。教えたスキルは町中でも練習すると上達も早くなるからね。常に使うように。じゃあ、今日はこれで終わりだね」

 スキルの取得が終わった僕たちは室内に入る。

 「最後に、当分はこっちが呼び出すまでは来なくていい。連絡はさっき渡したギルドカードにするからね。後は、冒険者ギルドに登録しておくように」

 僕はギルマスに聞き返した。

 「冒険者登録ですか?」
 「そう。普通とは少し違うけどね。賞金稼ぎとして冒険者ギルドに登録することになる。これをしておけば冒険者の仕事を受けることができる。腕を鍛えるにはちょうどいいだろう。窓口でうちのギルドカードを渡せば勝手に登録してくれるから」

 そういうことらしい。元々は他のギルドに入るために入らないことにしていただけだから、冒険者登録ができるのは嬉しいことだ。

 「分かりました。後で登録しておきます」
 
 「あとはこれだね」

 ギルマスに一枚の地図を渡された。

 「この町の地図で、うちのギルドメンバーがよく使う店が書かれている。割引してくれることもあるから利用するといい。ここまでの道も書いてあるからなくすんじゃないよ!」

 渡された地図には、宿屋や、食事処、武器屋に防具屋、ほかには道具屋などいろいろと書かれていた。一応この建物がこの町の賞金稼ぎギルドのギルド支部らしい。

 「ありがとうございます」
 「頑張りなさい」

 最後に穏やかな声でそう言ってくる。僕は返事をしてからギルドを出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

処理中です...