【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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慣れてきた日常

【04-03】待ち合わせ

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 翌日の朝、僕が目覚めると拓郎が共有スペースで暗記をしていた。見た感じ日本史だろうか。
 
 「おはよう」
 「ん? ああ、おはよう」
 
 僕が声を掛けると拓郎が遅れて返してきた。集中していたみたいだ。
 僕が身支度をした後、二人で食堂に行く。拓郎は、自信がまとめたノートを片手にフラフラとした歩みを重ねていた。僕がそれを注意しようとしたときには既に食堂についていた。
 僕が食堂に入ると、拓郎と同じようにノートや教科書を片手に朝食を食べている人が思いのほか多くて驚いた。僕たちはいつも通り朝食を食べた後、自室で制服に着替えて、校舎に向かった。
 
 
 
-------



 校舎に着までの道でも暗記を続ける拓郎をどうにか誘導しながら歩いた。昨日のうちにしておかなかったのだろうか。
 僕たちがすでに慣れた朝の道を歩き終え、校舎に着くと教室にはほとんどの生徒が既に着いていた。昨日、先生が早く来ていたから、みんなも早く来ることにしたのだろうか。
 僕たちは自分の席に着いて最後の復習を始めた。
 
 「全員いるなー」
 
 僕が集中していると、最早お馴染みになりつつあるセリフと一緒に角田先生が入ってきた。
 
 「全員VR接続しろ」
 
 昨日と同様にVR空間でテストを行うようだ。僕たちは速やかに準備を行い、各自接続を始めた。
 
 
 
-------



 最初の科目の日本史が終わり僕は体を伸ばした。その後も二教科、計三教科を終え、昼休憩になった。僕たちは昨日と同じように食堂に行って午前のテストの答え合わせなんかをしながら昼食を食べた。坪田君と勇人が日本史の論述の回答で激しい討論をしていた。僕としてはどちらも正解だと思ったので意識半分で聞いていた。
 昼食を終え、午後の分のテストを終えてからVR接続を切ると教室には早くもテスト後の独特な雰囲気が漂っていた。みんな口々に「AWやるぞー」と言っているのが聞こえる。僕もしたいが、今日は矢澤コーチとの約束があるのだ。待ち合わせ場所は、反応速度訓練用施設だ。僕は持ってきていた教科書を机に入れたまま軽くなったカバンを持って立ち上がる。
 
 「早く戻ろうぜ」
 
 前に座る拓郎が後ろに振り向きながら僕に言ってきた。僕はこの後予定があることを告げる。
 
 「ごめん。この後寄るところがあるんだ」
 「寄るところ?」
 
 この学校では授業後に街に出るということがないので中々聞かない言葉だったのだろう。拓郎の顔には疑問という文字が浮き上がるかのような顔をしていた。
 
 「うん。この前お世話になった矢澤コーチに呼ばれてるんだ」
 「矢澤って日本チームのコーチだって人だよな?」
 「うん」
 「なら仕方ないか。それにしてもなんでだ?」
 
 拓郎が聞いてくるが僕も分からないのだ。
 
 「僕も分からないんだよね。でも、僕のビルドを色々気にしていたから、そのことかも」
 
 僕が予想を告げると拓郎は納得した様子で言ったくる。
 
 「分かった。じゃあ、先に帰るわ」
 「うん。ありがと」
 
 拓郎が智也たちの方に向かって歩いていくのを見ながら僕は教室を出た。向かう先は反応速度訓練用施設。自分から施設に行くのは初めてなので少し心が躍っていた。
 
 
 
-------



 僕は校舎を出て、すぐ近くにある巨大な建物を目指した。僕の他にも一年校舎から反応速度訓練用施設に向かう人がいるようだ。二、三年の校舎からそれ以上の人が反応速度訓練用施設に向かって歩いているのが見える。
 反応速度訓練用施設は巨大な施設だ。反応速度はどんなスポーツでも重要な要素を占める要素だ。当然VR競技でも重要な鍵になる。クラスメイトでも今はまだ使っていない人が多いが、二年ぐらいからは一週間に一度はどんな生徒でも反応速度訓練用施設に行くようになると何かで読んだ気がする。
 僕が反応速度訓練用施設にたどり着くといくつかの扉があってそこにある列に並んでいる生徒が見える。戦闘の人が生徒証をかざしてから中に入るのが見えた。僕も空いてそうな列に並んで順番を待ってから中に入った。
 
 
 
-------



 中に入ると広いエントランスがあった。エントランスの中央に円形のカウンターあって、正面に奥に続く通路がある。左右には上へ昇るエレベーターがある。エントランスには椅子とテーブルが置かれていて、そこに何組かの集団が座っていた。僕はエントランスに入ったはいいが、そこからどうすればいいか分からなかったので、とりあえず中央にあるカウンターを目指した。
 
 カウンターには案内用ロボットと施設の地図が映っているディスプレイが置かれていた。そのディスプレイがタッチパネルになっていて、そこから操作を行うことができるようだ。僕はディスプレイを操作した。このカウンターでは訓練施設の内容と使い方等が調べられるようだ。
 僕がディスプレイで遊んでいると、後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 
 「堤君かな?」
 「はい」
 
 僕が声のする方へ振り向くと、そこには矢澤コーチが立っていた。
 
 「待たせたかな?」
 「いえ」
 「そうか。場所を移そうか」
 
 矢澤コーチが周囲を見ながら言った。
 僕も釣られて周囲を見渡すと、すごい数の視線が僕たちに集まっていた。一瞬、意味が分からなかったが、よく考えれば矢澤コーチは日本チームのコーチだ。この学校の生徒の誰もが知っていてもおかしくない。僕はあまり興味がなかったので読んでないが、VR系情報雑誌の特集なんかが組まれていてもおかしくない立場の人だ。
 改めて、矢澤コーチが日本チームのコーチだと理解した僕は、コーチの提案を受ける。
 
 「はい。どこにしますか?」
 「訓練室を一室借りている。そこに行こう」
 
 反応速度訓練用施設について何も知らない僕には頷くしかない。僕は矢澤コーチに付いて行く。
 矢澤コーチが右側のエレベーターに乗ったので、僕も乗る。エレベーターはどこにでもあるようなエレベーターに寮と同じように認証器がついた階を選ぶボタンがついている。五階までボタンだあるので五階建てなんだろう。矢澤コーチが認証して四階を選択した。
 動くエレベーターの中で無言の二人。続く沈黙が辛くなり始めた時、到着の音が鳴り、エレベーターが止まった。
 エレベーターの外には人影がなく、静かな通路があった。前を歩く矢澤コーチに付いて行くと、認証器の付いた部屋に着いた。先ほどと同様に認証をして中に入る矢澤コーチに続いて僕も中に入った。
 
 「ここが今日借りた訓練室になる」
 
 僕は訓練室の中を見渡す。訓練室の中には、パソコンが一台と人一人がちょっとした運動をしても大丈夫なぐらいな大きさのステージがあった。パソコンの近くには三人掛けのアンティークソファが二つとそれに合わせたテーブルが置かれていた。ドリンク用のサーバーのようなものも置かれていた。こんな部屋を生徒が使えるとは驚きだ。
 
 「ここの四階以上は生徒以外の人が使うときに利用される部屋になってる。そのため、この施設の大半の訓練はここで出来るようになっているんだよ」
 
 矢澤コーチがステージのような何かを見ながら説明してくれた。
 なるほど。生徒用じゃなかったのか。
 
 「今日は私の名義で借りている。その様子だと個々の施設は初めてかい?」
 「はい。じゃあ、あとでここの説明もしよう。それよりも本題だ」
 
 後で施設の使い方を教えてくれるみたいだ。ゴールデンウィーク前に先生たちが教えてくれると言っていたが、矢澤コーチに教えてもらうのでも大丈夫だろうか。まあ、先生もコーチも変わらないか。それよりも本題とは何だろうか。
 
 「ありがとうございます。それよりも本題って……?」
 
 僕は矢澤コーチの言う本題を聞くために身構える。
 
 「おめでとう! 君は『特殊指定強化選手』に選ばれた!」
 
 僕には矢澤コーチが言っていることが分からなかった。
 
 
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