【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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慣れてきた日常

【04-04】特殊指定強化選手

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 「おめでとう! 君は『特殊指定強化選手』に選ばれた!」
 
 僕はよくわからないワードに聞き返す。
 
 「『特殊指定強化選手』とはなんでしょう?」
 
 『特殊指定強化選手』。言葉の感じから、他のスポーツで言う強化選手と同じ意味だろうか。
 
 「そのまんまの意味だ。VR競技で言うところの『特殊指定強化選手』とは特殊なビルドのキャラを操作するプレイヤーを特例的に日本チームに合流させるための制度になっている」
 「特例的に? 合流?」
 
 僕の頭には、はてなマークがいくつも浮かんでいた。
 
 「そうだ。特殊なビルドのプレイヤーは往々にして有名になりにくい。さらに言えば特殊なビルドをするような人はAWを本格的にプレイする気がない人が多い。そういった人をチーム入りさせるためにできた制度だ」
 「何故僕が選ばれたんでしょう?」
 
 特殊なビルドは賭けに近いものがあるのは周知の事実だ。『特殊指定強化選手』という制度ができた意味も分からなくはない。でも、僕が選ばれた意味は分からない。僕は、本格的にプレイする気がない人という訳ではない。
 
 「君が選ばれたのは単に自動防御《オートガード》が理由だ」
 「自動防御ですか?」
 
 運動訓練のときから目を掛けてくれていたし、断る理由もないのだが、自動防御がそこまで強いとは思えない。
 
 「ええ、実は以前から防御特化のプレイヤーを探していてね。防御特化のプレイヤー自体は何人も見つかっているんだが、そのほとんどが複数を相手にすることを前提にしたキャラではないんだよ」
 「探しているのは複数を相手にできる防御特化ということですか?」
 「そういうことになるね」
 
 僕の自動防御は尻尾六本を使ったものだから腕二本で防御するよりは複数を相手にしやすいと考えられたということだろうか。
 
 「僕のビルドがたまたま日本チームが探していたビルドに近かったということですか」
 「身体的な基準も満たしていたからね」
 「身体的な基準ですか?」
 「そう。特殊なビルドであっても、身体的に選手としての一定の基準を満たしていなければ選ばれないんだよ。この学校に入学している生徒はその基準を満たしている人だけになっているがね」

 なるほど。僕は両方を満たしているということか。

 「というわけで、君には今日から僕が専属のマネージャーになって訓練をしてもらうことになる」
 
 んん。どういうわけだ。分からん。
 
 「専属マネージャーってどういうことですか?」
 「この制度で選ばれたからには選手として通用するレベルになってもらわないといけないからね。どんな訓練をするのかを決めるにしても、個人じゃ限界があるからそこら辺をフォローするために専属のマネージャーがつくんだよ」
 「拒否権とかはないんですか?」

 いきなりすぎる。専属のマネージャーなんてまるで本当の選手みたいじゃないか。訓練をすることも強制されるみたいで嫌だ。
 僕の顔を見た矢澤コーチは微妙な顔をして答えた。

 「君に拒否権はないんだよ、申し訳ないがね。一般人であれば拒否することもできるんだが、この学校の生徒である君にはないんだ。この学校に時点で選手になる意思ありと判断されるのが大きな理由だね」

 僕は何度目か分からないが、この学校が普通の学校ではないことを再認識した。選手になるための学校であるが、選択の余地が全くないとまでは思っていなかった。矢澤コーチの言うことが正しいのであれば、日本チームからの要請は強制に近いということなるのではなかろうか。選手として、サポーターとして、力を貸して欲しいと言われれば断れないのだろう。

 「分かりました」

 僕はこう言うしかなかった。

 「別に深く考えなくてもいいよ。強化選手になったからって選手になるわけじゃない。ぶっちゃけると使えそうな人を逃さないようにするための制度だから」

 「逃がさない、ですか?」
 「作っただけであまりプレイしない人って結構多いんだよ」

 なんとなくだが矢澤コーチの言ってることがわかった。実際にAWというゲームをプレイするつもりがない人が面白半分で作ったキャラが日本チームに必要としているキャラだったときのためということだろう。

 「まあ、なんにしてもよかった。ここで拒否されても困るからね。じゃあ、今日はとりあえず君がこれまでどんなプレイをしてきたか教えてもらえるかい?」
 
 矢澤コーチはぼ億にソファを進めながら自分も座った。
 僕がソファに座ると質問が始まった。
 
 僕はここ一か月近くの話を続けた。一番の話題は火力が出ない事と、避けられない事だった。
 火力が出ないことについては、矢澤コーチは予想していたみたいだ。あまり驚いていなかったし、〔猛毒〕のことを知っているためか、これからに期待という感じであった。
 もう一つの避けられない事については予想外だったらしく、とても驚いていた。僕に自動防御があるとはいえ、避けることが出来るか出来ないかの差は大きい。僕が避けることができないという結論に至った理由とか経緯を長く聞かれた。僕がコーチに話し終わると、今度検証してみようということになって、この話は終わった。
 
 他にも、僕が賞金稼ぎギルドに入った事や、ホーンブルが倒せなかった事などを話していき、最後の方には、僕が操作するときとそうでないときの尻尾の行動の速度が変わることや、気温が低い時に体に巻くと保温ができることなどちょっとした気づいたことも話しておいた。
 
 
 
-------
 
 
 
 一時間ほど掛けて一通り話し終えた僕は急にのどが渇きを感じた。
 
 「すみません。のどが渇いたので飲み物飲んでいいですか?」
 
 僕はドリンクサーバーの方を見ながら聞いた。
 
 「ああ、あれね。中身入ってないんだよ」
 
 矢澤コーチは振り向くように僕の視線を追い、ドリンクサーバーにたどり着くと、それを見ながら言った。
 
 「えっ、そうなんですか?」
 
 なら何故置いてあるのだろうか。
 
 「今日使うといっても、君は生徒だからね。あれが使われるのは外来の人がこの部屋を使うときだけなんだよ。この施設はVR競技以外の選手が使うこともあるからね」
 「そうなんですか」
 
 経費の削減的な意味なんだろうか。いつもは補給していないということか。
 
 「まあ、聞きたいことは大体聞けたから今日はここで解散にしようか」
 「あ、はい。分かりました」
 
 矢澤コーチは腕を回しながら体をほぐし始めた。
 
 「じゃあ、今後、用があるときは生徒証の方に連絡を入れるから忘れずに見ておいてくれ」
 
 僕は頷いた。
 
 「それじゃあ、下に行こうか」
 
 僕たちは、訓練室を出てエレベーターに乗った。一階のエントランスにはさっきいたときよりは人が減っていたが何人かの生徒はまだいた。
 僕たちはその生徒たちを横目に外へ出た。
 
 「じゃあ、さっき言ったように生徒証を確認しておいてね。数日後には君の今後の訓練スケジュールができるだろうから、それができてからまた話そう。」
 「分かりました。よろしくお願いします」
 
 特殊指定強化選手になったのは驚きだったが、僕のためのになることには間違いないのだ。僕は腰を折って頭を下げてそう言った。
 僕はコーチに別れを告げて寮に向う。
 
 寮に着いた僕は、自室に戻ってシャワーを浴びてから時間を見てみると、夕食までまだ一時間ほどは時間があったが僕はAWではなく掲示板を見て過ごすことにした。
 
 
 
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