【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

文字の大きさ
51 / 101
変わり始めた日常

【05-02】教員塔

しおりを挟む
 
 教室を出た僕は、廊下で待っていた先生たちのもとに小走りで行く。
 
 「ついてこい」
 
 角田先生にそう言われたので僕は付いて行く。何か話があるんだろう。当事者だからだろうか。今の教室にいるのはよくないと漠然的にわかってしまう。なので、僕はおとなしく付いて行くことにしたのだ。
 角田先生たちは廊下を通り校舎の外に出た。その最中にも視線を感じたが角田先生は黙殺していた。
 
 先生たちは教員塔に入っていくみたいだ。僕がここに入るのは初めてだ。先生に質問がある時はここに来ればいいと聞いていたが、実際には授業終わりだけで十分だ。
 僕は初めての場所にドキドキしながら先生たちの後を付いて行った。

 教員塔の中は校舎と同じような内装になっていた。中に入ると小さめのエントランスがあり、小さめのテーブルと椅子が置かれていて、右側の壁に大きなディスプレイが設置されていた。ディスプレイには教師の名前と今教員塔にいるかどうかが書かれていた。今の時間だと大半の教師が『出』の表示になっていた。他にも教師の呼び出しもできるようになっているみたいだ。ディスプレイの横に連絡を電話機のようなものが置かれている。
 先生はエントランスを通り、奥に続く通路ではなく左側にあるエレベーターに乗る。造りとしては訓練施設に似ているみたいだ。僕は先生達の後についてエレベーターに乗った。
 
 「教員塔は初めてですか?」
 
 南澤先生が聞いてきた。南澤先生の声を聴くのは久しぶりな気がする。角田先生がほとんど話してしまうからだろう。先生に僕は答える。
 
 「はい。いつも授業終わりに聞くことにしているので」
 「そうですか。では、少し説明しておきましょうか。普段生徒はこのエレベーターに乗ることはありません」
 
 僕が何気なく乗ったエレベーターには普段生徒のしようが禁止されているものみたいだ。
 
 「乗っていいのは教師の許可かある場合のみです。質問がある場合は、右にあったディスプレイの横にある連絡用の内線で希望の先生に連絡を取る必要があります」
 「そこで許可をもらうってことですか?」
 
 勝手に生徒が職員室に入ると余計な問題を生むかもしれないからこその措置なんだろう。僕は自分の予想を言ってみた。
 
 「いえ、違います」
 
 だが、予想は間違っていたみたいだ。南澤先生は僕の顔を見ながら続けた。
 
 「内線を受けた教師はエレベーターの許可ではなく、エントランスの奥にある個室の番号を言います。生徒は言われた番号の部屋に行って、そこで質問をすることになってるんです」
 
 なるほど。奥に伸びていた通路の先には質問用の部屋がいくつもあるってことかな。確かに個室であれば長時間の質問もしやすいかもしれない。僕はわからないことがあればすぐに聞くようにしているからないのだけど、生徒の中にはテスト前に一気に質問をするような人もいるはずだ。
 
 「一気に質問するとくには楽かもしれませんね」
 
 僕は自身の感想を言った。
 
 「そうですね。中には質問というより個人授業をお願いしに来る人も少なくありません。『どこどこが苦手なのでおしえてもらえませんか?』って言う具合に。中には、自分から進んだ内容を教わりに来る人もいますね。まあ、珍しい話ですが」
 
 個人授業か。思いつかなかったがそれはいいかもしれない。この高校では塾に行くことができないので、目指す進路によっては僕も頼ることになるかもしれない。個人のレベルで授業を受けることができるのは嬉しい。
 南澤先生の話を聞いているとエレベーターが到着した音が聞こえた。回数表示を見ると五階になっていた。
 
 僕がエレベーターを降りるとそこは寮や訓練施設の四階のように通路と部屋の扉がいくつもあるだけだった。中学の職員室と同じぢょうな感じだと勝手に予想していた僕は面を喰らってしまった。
 
 「驚いたか?」
 
 角田先生が聞いてきた。
 
 「はい」
 「職員室みたいなのを想像していたんだろ。初めてここにきた人はみんな今のおまえのような反応をする。俺もそうだったしな」
 「私もです」
 
 角田先生の言葉に南澤先生も同意した。
 
 「一応言っておくが、よくある職員室のような場所もあることにはある。教員全員にデスクが割り当てられたちゃんとしたのがな。だが、それ以外に教員一人ひとりに個室が割り当てられているんだ。だが、今回は全員が使える教員室ではなく個室で話したほ言うがいいと思ってな。こっちに来てもらった」
 
 角田先生は僕に説明しながらも真剣な表情をしていた。僕の話は他の人がいる中でしない方がいいということなのだろうか。
 エレベーターをおりてから少し歩いた扉の認証器に角田先生が自身のVRデバイスを当てた。扉のロックが解除される音がした後、角田先生、南澤先生、僕の順で入っていった。
 
 扉を潜った先は、よくある個人用のオフィスのような部屋だった。奥に執務用の椅子と手前に簡単な組み立て用の椅子。壁側には本棚が置かれて奥に一枚の扉があった。本棚には三分の一ほどしか本が入ってなく、変わりといっては何だが、壁側に様々なトレーニング用品と思われるものが置かれていた。給水器の横にはプロテインがキロで置かれていた。
 僕は部屋中を見回すと角田先生の方を向く。角田先生は南澤先生に備え付けられていた組み立て用の椅子を渡していた。南澤先生がそれを受け取った後、今度は僕に渡してきた。僕はそれを受け取り適当に組み立てて座った。角田先生も自身の椅子ではなく、組み立て用の椅子を組み立てていた。
 
 「これでいいな。何か飲むか?」
 
 角田先生が効いてきたが僕は喉が渇いてなかったので断った。南澤先生も断ったみたいだ。角田先生は一人で給水器から横に置いてあったコップに水を出して飲んだ後、椅子に座って僕の方を向いた。
 
 「お前を呼んだのは今日の朝のことについて話しておく必要があると思ったからだ。俺たち教師陣も一応の話は聞いているが確認させてくれ。堤、お前は特殊指定強化選手になったんだな?」
 
 僕は頷いて肯定する。
 
 「そうか。実は去年、緒方が強化選手になったときにも同じことがあったんだ」
 
 だから、あまり驚いてなかったのか。ある程度は予想していたということかな。
 
 「朝の感じからして、去年と比べると今回の方がマシかもしれない。まあ、この学校に入ってくる奴らは全員、それなりの奴らだ。実験組の生徒であれば数日置けば大体収まっているはずだ。去年もそうだった。ただ、問題は効率組の方だ。ゴールデンウィークの時以上の対立に発展する可能性もある。もし何かあれば教師である俺たちにすぐに言うんだ。最悪の場合、寮長や望月でも構わん。いいか。何かあればすぐに言え」
 
 僕は頷き、ついでに気になったことも聞いてみた。
 
 「分かりました。先生は何が《・・・》起こる可能性があると判断しているということですか?」
 「いや、ないとは思っているんだが、万が一がないとは言えないからな」
 
 僕はそれを聞いて安心する。この閉鎖させれた環境でいじめなんかに遭った日には地獄の日が続くことになるだろう。
 
 「そうだな。堤、おまえ次第だが格闘戦の訓練をしないか?」
 「えっ。僕がですか?」
 
 いきなりの提案に僕は驚く。
 
 「ないとは思いたいんだが、暴力に訴えられた時の備えとしてだ」
 「はあ」
 
 俺は真剣に考えてみた。確かに、手を出すような奴らがいるかもしれない。前の智也と効率組の口論を思い出していた。
 
 「私も備えはした方がいいとは思います」
 
 南澤先生が僕の隣から言ってきた。南澤先生も万が一の可能性を考えているみたいだ。僕は前向きに考えることにした。もし無駄になっても、格闘の訓練は僕のAWのプレイにも役立つかもしれない。僕はここで提案を受けそうになって、矢澤コーチのことを思い出した。
 
 「えーっと。矢澤コーチに相談してからでもいいですか? 実は昨日貰った訓練スケジュールが結構いっぱいいっぱいで」
 「そうだな。その方がいいだろう。案外、訓練として格闘の訓練が入るかもしれないからな。俺の方はいつでもいい。やる気になったら行ってくれ」
 「はい。ありがとうございます」
 「じゃあ、話は終わりだ」
 
 これで話は終わりみたいだ。角田先生は僕に教室に戻るように言った。
 僕は退室の挨拶をして角田先生の部屋を出て、校舎に向かった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

処理中です...