【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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選手として

【07-07】挨拶

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 全日本選抜プレイヤー合宿開始初日。
 夜に行われる夕食会が始まる前。食堂奥の通路の先にある一室で僕は重大な知らせを受けた。

 「それと、夕食会の途中で記者向けの会見をします。三人ともそれに出てもらいますのでよろしくお願いします」
 「えっ?」

 僕がつい漏らした疑問符に三鴨さんが言う。

 「あれ? 聞いてませんでしたか?」

 僕は全く聞き覚えがない。

 「はい」
 「おかしいな。矢澤コーチには言ったはずだけど。まあ、大丈夫でしょう。今日の主役は置田さんと剛田さんだから」

 別に大した問題ではないと言うことだろうか。なんの問題もないと三鴨さんの顔が語っている。僕はただ了承するしかなかった。

 「分かりました」

 不承不承な顔をした僕に気づいたのか、カズさんが僕に言ってくれた。

 「大丈夫だよ。僕もできるだけフォローするから」
 「そうですね。俺もできるだけフォローします」
 「ありがとうございます」

 僕の両隣に座る二方が僕に手助けを約束してくれた。若干、心が軽くなった僕は二人にお礼を言った。

 「では、記者会見の件はいいですね。次はこの後の夕食会での挨拶です。そこで置田さんのチームリーダー就任発表と挨拶をお願いします。堤君は新メンバーの発表で紹介するだけだから」

 今度は僕を安心させるためか最後に僕に対しての一言があった。僕は頷いて了承の意を示す。

 「挨拶って僕もするんですか?」

 カズさんが三鴨さんに質問する。

 「はい。なんだかんだ言って一般人から見た日本チームの象徴は剛田さんですからね」
 「分かりました」

 三鴨さんがこともなげに言ったことに置田さんが不安な仕草は見せなかった。つい最近までVR競技の選手に興味のなかった僕からすれば剛田さんが日本チームのリーダーでなかったことに驚いているぐらいだ。僕以外の人でも剛田さんがリーダーだと勘違いしている人は多いと思う。僕はソファーに座りながら三人の打ち合わせを聞く。
 話の内容は今回の挨拶に際して何を話してほしいか、何を話してはいけないか、等、情報操作や印象操作をするための指示を受けているみたいだった。これに関しては置田さんと剛田さんは承知済みのことのようで、逆に意見を言っている様子も見て取れた。
 こういった世界に一切関わりがなかった僕は、何気なく見ていたテレビの会見の裏でこのような談合《打ち合わせ》がされているとは思ってなかった。三鴨さんが最初に二人にお願いしていたことの意味も話を聞いているうちになんとなくだが分かってきた。

 話し合いが終わりに差し掛かると、丁度いいタイミングで部屋のドアがノックされる。

 「はい」
 「時間です」
 「今から行く」

 そう言って席を立つ三鴨さんが続けて僕たちに言う。

 「では、行きましょうか。打ち合わせ通りにお願いします」

 そう言って三鴨さんが出ていき、それに置田さん、カズさん、僕の順で続く。僕は基本聞かれた事だけを答えておけばいいことになっている。三鴨さんの話ではこの夕食会は基本的にパトロンに対してのものであるから僕のことはあまり詳しく話さなくていいとのことだった。紹介された時に少し話してほしいとのことだったけどどうしようか。僕はカズさんの後ろを歩きながら自己紹介の文言を考えていた。



-------



 部屋を出て通路を歩く。左に伸びる通路の奥には一仕事終えたのかコック帽をかぶった男性が壁に背中を預けて一息ついていた。
 進む先はドアの向こうの食堂。三鴨さんの前を歩いていた大久保さんらしき男性が今ドアを開けた。開いたドアの向こうは僕がさっき見た時よりも一層パーティー会場のような風貌をしていた。それを引き立てるのは紳士淑女のお歴々。それぞれが今日のために仕立てた衣装で着飾っているのがここからでもありありと伺える。緊張が増していく僕。それでも足は動き続ける。今の僕には自分の歩き方が兵隊の更新になっていないか懸念しても確認するほどの余裕がなかった。僕がこれまで感じた事のある緊張とは種類の違う緊張を感じて僕の頭の中の白は増していった。

 「これより全日本選抜プレイヤー合宿、夕食会を始めます」

 いつの間にか僕はドアを潜り、食堂の中に入っていた。ドア近くに置かれていたマイクスタンドで大久保さんが開会を宣言している。僕はドアを出て給仕用のカウンターの方に進んだところに置かれていた即席の舞台の裾に立っていた。打ち合わせでは僕の紹介が三鴨さんからされたらここから舞台に上がり自己紹介をすることになっている。僕はそれを思い出して再び食堂内を見渡した。
 三鴨さんやカズさんたちと一緒に現れたためか僕への視線も一定は集まっているのだが、大半は舞台上に注がれていた。

 「今日はお集りいただき――」

 三鴨さんの感謝の挨拶から始まり合宿の開催を宣言してから挨拶を終えた。その後は視界の大久保さんの進行で打ち合わせ通り置田さんとカズさんの挨拶が入った。置田さんは初めてのリーダーをどのように努めていくかや勝利への渇望を話していた。熱の入ったその演説に食堂内にいる人のテンションも若干上がっている。カズさんも去年の大会の話から始まり今年はどのように活躍したいか目標を言って挨拶を終えた。二人とも「ご紹介をいただきました○○です」から始まって「応援よろしくお願いします」の一言で終わっていたので僕もそれを真似よう等と考えていると僕の番が来たようだ。

 「次はこの合宿から加わる新たな選手の紹介です。今年、国立VR競技専門高等学校に入学し実験組に所属するもその個性的なビルドから日本チームに強化選手として加わることになりました。堤瑠太選手です。堤選手舞台へどうぞ」

 僕はその合図を聞いて舞台へ上がる。一段上がるだけの簡単舞台だったがそこに上がってみるとさっきまで感じていた空気が一変したのを感じた。僕はなんとか部隊の中心にいる三鴨さんの下に行きマイクを貰った。緊張でそれこそ心臓が口から飛び出しそうな僕はあらかじめ決めていた一言から始めた。

 「只今、ご紹介をいただきました堤瑠太です。えっと、何を話せばいいのでしょう」

 最初はよかった。あらかじめ決めていた言葉がスラリと出たから。でもそれに続く言葉は決めていなかった。その結果がこれだ。僕は完全に真っ白になった頭が一周回って落ち着いたらしくゆっくりとだが話し始めた。

 「正直、ぼ、私が今ここに立っていることは奇跡のようなものだと思っています。それでも、選ばれたからには頑張りたいと思います。どうか応援よろしくお願いします」

 僕の自己紹介は紹介というよりも抱負を述べるだけの短いものだったが言い終えた後に拍手を貰えたので失敗ではなかったのかな。僕はマイクを三鴨さんに戻し舞台から降りた。

 「ありがとうございました。堤選手は来年の大会からの出場を目標に訓練しています。彼の活躍にご期待ください。次は――」

 大久保さんが無難にまとめて次に進行する。そして終わる開会式。大久保さんが全行程の終了を宣言し三鴨さんが最後に締めて夕食会の始まりとなった。といっても、既に皿とコップを器用に片手で持っている人が多いのでこれは形式的なものなのだろう。だが、僕にとっては今日乗り越えるべき二つの壁の一つを乗り越えたことの宣言だった。僕は無意識に息を漏らしていた。
 舞台から降りてきた三鴨さんが息を漏らした僕を見て苦笑し僕に告げた。

 「じゃあ、次は記者会見だね」

 二つの壁の間隔はとても狭いものだったようだ。

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