【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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選手として

【07-10】会見②

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 【記者会見】
 ――とは、一つの場所で人や団体が複数の記者に対して発表や説明を行い、質問の受け答え(インタビュー)をする会合である。



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 初めての記者会見。
 求められていた自己紹介もなんとかこなした僕は、残りの時間をのんびりと座っていようなどと油断していたのであった。そんな僕を襲うもの、それはもちろん質問の嵐だった。

 「ふじさんTV、『午後のひと時』の谷本です。堤選手に質問です。実際に選手として選ばれたときのどう思われましたか? 自信はありましたか?」

 「にっぽうの時下です。三鴨監督。堤選手の加入で国立VR競技専門高等学校の生徒の加入は二回目になりますよね? 即戦力になると考えての抜擢でなんでしょうか? また、堤選手の加入が今後のチームにどのような影響を与えるとお考えでしょうか? それと、堤選手自身は日本チームにどのような影響を与えられるとお思いですか?」

 「毎朝新聞社の隅田です。堤選手に質問です。堤選手から見た日本チームの雰囲気とはどう言った物でしょうか? 今日も朝、剛田選手と待ち合わせしていた様子が伺えましたが何事もなくチームに合流したということでしょうか?」

 「VRタイムズの加口です。堤選手の事なんですが、今年VR高校に入学ということはキャラクター作成から半年も経っていないということですよね? それほど強い選手ということでしょうか?」

 別に僕に関する質問ばかり、というわけではないが多いことには違いない。僕の予想では新キャプテンとなった置田さんと日本の選手全体の代表と言って過言ではないカズさんに質問が集中するはずだった。しかも、質問をする記者の人はみんな僕の方を見て質問するばかりだからその視線を直に受ける僕は内心戦々恐々である。好奇心全開の質問なんてのは特に怖い。ある意味僕の事なんて一切考えない質問もあるのだ。そして、日常生活で向けられることのない視線による圧力。それらすべてが慣れないものだ。
 僕はまたも現実逃避したかったが、生憎僕が答えなければこの記者会見が進まない。記者会見が進まないということは記者会見自体が終わらないということだ。
 鳴りやまないシャッター音と遠慮のない視線に乗せられた圧に耐えながらも僕は答えた。

 「実際に選手として選ばれた言われた時は本当に自分でいいのかと思いました。なので、自信も全くありませんでした。でもその後、僕が選ばれた理由を教えて貰ってから、それなら僕にもできると思ったのも確かです」

 そんなことはない。自信なんてまったくなかった。だが僕は夕食会の挨拶後の会話を思い出している。だからこその嘘だ。
 三鴨さんも置田さんもカズさんも僕のことをフォローしてくれるのだがどうしても僕にしか答えられないという質問もある。僕は言葉お選びながら答える。今の僕の混乱した頭の中には他の選手の人たちに迷惑が掛からないように、という思いしかなく、僕は打ち合わせと食堂での挨拶後の会話の時のことを思い出しながら答えていくのに精いっぱいだった

 「影響……ですか? そうですね。本音を言えば僕が他の選手に影響を与えることができるとは思っていません。僕自身、まだ自分のスタイルが固まっているわけでもないので」

 逃げの一手。明言できないことはこれに限る。というか、これしかできない。

 「日本チームの雰囲気ですね。正直まだ剛田選手と置田選手以外の選手の方とあったことがないので分かりません。合流に関してもまだという感じですね」

 この僕の発言。僕としては正直に答えただけだった。
 僕が発言を終えて質問者の方を見ると質問者の人はさらに何か言おうと口を開いたが、声を出す前に三鴨さんの声が割り込むことになった。

 「これに関してはチームの事情もありますね。合流したのが合宿初日からだったのもあってまだ他のメンバーには紹介をしていませんし顔合わせもしていません。ただ、こちらとしても協調性のない選手をチームに入れるようなことはしません」

 きっぱりと質問者の眼を見て告げる三鴨さんの表情に質問者も開いていた口を閉じることになった。
 なんでも僕の回答は聞きようによってはチームに馴染めていないという解釈される可能性があると後から聞いた。それか、日本チームが意図的になじませないようにしているだとか、他にも解釈されかねないから補足したようだ。
 僕の他の発言にもいろいろと指摘する余地はあったと後から聞いたがそれらはまだ大丈夫だとも言われたが僕としてはなにが問題なのかも分からなかった。

 VRタイムズさんの質問は僕に関することだったが答えたのは三鴨さんだ。

 「そうですね。確かに彼はまだプレイ歴が短いです。それでも、私たちは彼のプレイスタイルは今後の日本チームに必要なものになるという判断をしました」

 そう言った三鴨さんにVRタイムズの加口さんは尚も質問する。

 「それだと、今の彼は必要なという意味も取れますが? 現状の彼が選ばれた理由などは教えていただけないのですか?」

 VRタイムズの加口さんの質問がされた時、貴社の人たちの視線が一斉に質問者の加口さんの方を向く。それを見た僕もつられるように加口さんに視線を向けた。
 加口さんの方は三鴨さんと視線を合わせたままだ。僕は三鴨さんの顔を伺う。その顔は先ほどからの真剣な顔であるのだが、どこか先程とは違う印象を抱かせた。

 「申し訳ないが彼が選ばれた理由は伏せさせていただきます」

 三鴨さんの返答を聞いて、記者席から溜息交じりの吐息が聞こえた。それも複数。

 「以上ですか?」

 三鴨さんが加口さんに対して聞き返す。加口さんも諦めた顔をして頷いた。

 「以上です。ありがとうございました」

 そう言って、加口さんは自分の席に戻っていった。

 「では、他の方」

 今漂っている微妙な雰囲気を変えるように視界の人が次の質問者を探す。記者陣は手を伸ばし当てられるのを待っている。彼らの顔も先の加口さんと同じように残念そうな顔をしていた。僕はなぜこんな雰囲気になったのかを考える。という言っても考えられる可能性は一つ。僕が選手として選ばれた理由を公表したくなかったというだけだ。僕は自身で納得し頷いた。

 その後も会見は進む。僕に対しての質問も徐々に減っていき、最後の方はやはり置田さんやカズさんに対する質問ばかりになった。
 それを隣で座って聞く僕。流石と言うべきか二人は慣れたものだと答えていた。

 ある程度の質問に答え終え、挙がる手の本数も少なくなり始めた頃、司会者が今日の会見の終わりを告げた。

 「そろそろ時間もいいころになるので、次の方で最後に致します」

 そう言って選ばれた最後の質問者が質問を終え、司会者さんが言う。

 「では、これにて本日の記者会見を終わろうと思います。本日はお集まりいただきありがとうございました」

 今日の僕の最後の仕事。それが今終わった。三鴨さんが立ち上がり、それに置田さんとカズさんが続く。僕も遅れないように素早く立ち上がり椅子を入れて一歩後ろに下がった。

 三鴨さんは司会者の方へ、カズさんと置田さんが食堂へ戻ろうと動き出した。僕は一瞬どちらに行こうか悩み、カズさんと置田さんの向かう食堂へと歩を進めた。

 一歩踏み進めるたびに知らずと達成感が溢れ出してくる。今日を乗り越えたと心底安心したみたいだ。僕はつい腕を伸ばし体を伸ばそうとしたが、ここがどこだかを思い出し止めた。

 そういえば、と記者の方をさりげなく振り返ってみるとカズさんや置田さんの方を向いてインタビューしたそうな人、というか、今にも走り出そうとしている人が見えるが、既の所で止まっていた。
 もしかしたら記者が流れるように話を聞きに行くんじゃないかなんて思ったが取り越し苦労だったみたいだ。

 僕は先に歩いているカズさんたちとの距離を少しだけ詰めるようにして足並みを早めた。
 食堂への扉に辿り着く僕。置田さんが初めに入り、それに続くように僕とカズさんも入っていく。
 入り終え、記者の人たちが見えなくなった時、カズさんが僕に向かって言った。

 「お疲れ。置田さん、瑠太君」
 「お疲れ様です」
 「お、お疲れ様です」

 カズさんに続いて置田さんがねぎらいの言葉を言い、僕も続く。僕はつい深い息を漏らした。

 「はは、大変だったみたいだね」

 カズさんが僕を見て言う。その顔は少し笑みを浮かべていた。

 「お二人のおかげでなんとかなりました」

 僕は会見中に何度かフォローしてくれた二人にお礼を言った。

 「堤君もなかなか話せていたと思う。まあ、徐々に慣れていくといいよ」

 置田さんもそう言ってくれたので、僕も安心する。置田さんは、柔らかい口調を使ってくれていても容姿と地の声だけでは少し怖い印象を覚えるが、褒められた時は素直にうれしいと思える。

 「じゃあ、僕たちは次の仕事をしないとね」

 次の仕事? 僕は全く聞き覚えのないカズさんの発言に頭上ではてなマークが浮かぶ。

 「そうですね。では、俺はあいさつ回りに行ってきます。カズさん。合宿中も時間があれば手合わせしましょう」
 「そうだね。楽しみにしているよ」

 置田さんはそう言って食堂の中へと消えていく。いや、消えてはいないか。置田さんが歩いているといろいろな人が声を掛けていくのですでに人だかりが形成されている。

 「僕たちも行こうか。今日は僕とそばにいると言い。助言もできるしね」

 カズさんはそう言って僕に笑いかけてくれた。もしかすると、突然の新たな状況に強張った表情をしているであろう僕への気遣いだったのかもしれない。だが、カズさんの浮かべた笑みは僕にさらなる不安を催したのだった。
 

 


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