【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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一員として

【08-02】ヘ、ヘリですか?

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 八月のある日。夏も真っ盛りな本日は晴天。
 燦々と輝く太陽の光が降り注ぎ、地熱の上昇が始まり出した早朝のグラウンド。
 僕はゴロゴロと転がるキャスターの音を聞きながら矢澤コーチに近づいた。
 今の僕はワイシャツの袖を肘までまくり、ズボンの裾を折ってくるぶしが露出しているような状態だ。昨日の説明の時に正装と言われたから当然ブレザーも持ってきているが、そのブレザーは今スーツケースに掛けている。

 「おはようございます」

 僕は軽く会釈するように朝の挨拶をした。

 「おはよう」

 矢澤コーチも僕に手を挙げながら挨拶を返す。その姿は心なしか疲れがたまっているようにも見えた。もちろんスーツをぴしりと着ている姿はやり手の営業マンのようにも見えなくはないが、その表情には少し陰りがうかがえた。

 「ごめんね。こんな朝早くから」
 「いえ。理由は昨日すでに聞いているので」

 矢澤コーチが僕に謝るが、僕はすでに今の状況に至る理由を知っているので気にしていないと答える。理由が理由なだけに僕もとやかく言うことはしない。というか、できない。
 僕がこうして朝早く制服を着てグラウンドの真ん中に向かっているのは昨日に説明された仕事をこなすためだ。僕がこなす仕事。その内容を思い出すために僕は昨日の夕方のことを思い起こす。


-------



 あれは、そう。昨日の夕方のことだ。
 昨日は僕とカズさんの二人で行われる模擬戦訓練の最終日だった。夕方になり、その日の訓練の終了をカズさんが告げ、いつものように反省会をしていた時の事だった。
 この七日間の訓練で僕の戦闘における経験値は予想以上の上昇を見せている。戦闘の結果だけで言えば『全敗』だが、その過程は初日と比べて大きく変化している。別に強がりではない。自分でもそう確信できる程、僕の戦闘は進歩していた。
 そして、その模擬戦がすべて終わった僕にカズさんと矢澤コーチが総評を下してくれた。二人が言ったことを簡単にまとめると、『今の戦闘スタイルが確立していないこともあるが、今の戦闘スタイルだけでは他国の選手たちと渡り合えるとは思えない』とのことだった。
 それでも、現状は今の戦闘スタイルを洗練されせて行くのが近道だという結論だそうだ。特にコーチは、『僕のスタイルは現状では他にないユニークなものだから好きなようにしていい』とも言っていた。
 僕はそれらを聞いて、より一層頑張ろうと思った。この学校に入学したときも、今も、選手になることに特にこだわりがあるわけではない。しかし、二人の言は僕の目的であるゲームでも当然生かされることだ。今の僕ならヴィーゼの街の南にいるグラスウルフなんて簡単に倒せそうだ。そうすれば、ようやくヴィーゼの街を抜け出せる。今から、王都に行くことが楽しみだ。

 閑話休題《話が逸れた》。
 
 模擬戦の総評と僕とカズさんそれぞれの今後の方針について軽く話した矢澤コーチはテーブルに置かれていたホットコーヒーを口に含むと明日からの予定を説明し始めた。

 「明日からの事ですが、カズさんは予定通り選手全体での集団訓練に入ってください」
 「分かりました」

 矢澤コーチの言葉にすぐに頷くカズさん。その隣に座る美樹さんも軽く頷いていた。初日からいるカズさんの奥さんである美樹さんだが、どうやら明日にはここを去るようだ。一度東京にある自身の会社に戻らないといけないと一昨日話していた時に言っていた。今年の大会には娘さんと一緒に応援委行くからその時の対応に関しても話しておかないといけないとぼやいていたのも聞いている。

 「それで、瑠太君なんだけど……」

 ここで矢澤コーチが少し言いよどむ。それに首を傾げる僕。僕が渡された予定表によれば僕もカズさんが加わる集団訓練に参加できるとのことだったはずだからだ。

 「瑠太君」

 矢澤コーチは僕の顔を、正確には目を見る。その眼差しも、その表情も、真剣そのものだ。

 「はい」

 意図的に作られたその不自然な間に僕はゴクリと音を鳴らして唾を飲み込無のを錯覚した。

 「堤選手。貴方には私と共にニューヨークに行ってもらう」
 「はい?」

 つい聞き返してしまった僕は悪くないと思う。

 「ニューヨークですか?」
 「うん。正確にはマンハッタンだね」
 「マンハッタンですか……」

 マンハッタンだそうだ。当然行ったことはない。

 「うん。ここ数日のコーチ陣での会議で堤選手は今年の大会にはチーム入りせずにチームのスタッフとして同道してもらうことになったんだ。理由はいくつかあるけど、大きなものは二つ。一つは力不足。これは、わかるよね?」
 「はい」

 力不足。
 それはここ七日間で嫌というほど分かった。
 この七日間。初日以降、夕食後は僕たちの自由時間とされていた。この敷地内の訓練施設を使った現実で体を鍛える人や個人の部屋からAWに接続する人、色々な人がいると聞いている。そんな中、僕はカズさんの手伝いをしていた。その内容は、主に模擬戦の審判。
 合宿二日目。初日同様、流れるように食堂に移動した僕たちを見つけた何人もの選手がカズさんに話しかけ模擬戦を挑んできた。
 どうやら、夕食後の時間を使って他の選手と模擬戦をするという人は多いらしく、世界屈指のプレイヤーという言われるカズさんと確実に模擬戦ができる少ない機会がこの合宿だからというのが理由らしい。
 特に、ゲーム内で対人での戦闘を主としている人からすると是が非でもお願いしたいことなんだとカズさんとその周りの選手たちの輪から外れた位置で矢澤コーチに聞いた。

 そして、審判役として丁度近くにいた手の空いている僕が選ばれたということ訳だ。これに関しては僕にも利のあることだと思い、僕も了承した。そして、その考えは間違いではなったと思っている。
 カズさん以外のトッププレイヤーの動きを直に見ることのできた僕はより戦闘経験値を手に入れることができた思う。
 そういった意味でも今の僕の力不足は痛いほど自覚している。

 「もう一つは…… まあ、温存かな」
 「なるほど。隠すのですね」

 矢澤コーチの『温存』という言葉を聞いて、いつのための温存かが分からなかったが美樹さんは分かったようだ。僕が美樹さんの座る方に視線を向けると隣にいるカズさんも口角を少し上げて笑みを浮かべている。

 「そう。堤選手の『自動防御《オートガード》』はこれからのために温存することになりました。仮に、選手としてチームに登録すると選手の持つデバイスを大会側に検査されてしまう。そして、十八歳で選手として加入すると少なからず話題性が出てしまう。そう言った物から隠すという意味でも今回の決定がされました。情報が洩れることを防ぐという事ですね」
 「分かりました」

 僕としては、チームとして決まったことに意義を唱えようとは思わない。僕は少し大げさに頷いて納得したと体で伝える。

 「しかし、選手として大会本番を体験するということも重要だという意見もあってね。実際に参加せずともその空気を感じることは意味があるとね。だから、名目上、君には選手をサポートするスタッフとして参加してもらうことになった。そういうことだ。だから……」

 矢澤コーチが少しの溜めを作ってから僕に言った。

 「君には僕と一緒にニューヨークに向かってもらう。明日ね」
 「明日ですか!?」

 急な予定変更はこうして決まったのだ。
 その後は、いきなりの予定変更に僕に色々と説明する矢澤コーチと共に翌日のための準備をすることになる。
 急いで寮に戻った僕とそれについてきた矢澤コーチ、そして、偶然部屋にいた拓郎と共に身支度をすることで天手古舞になるのだが、それはまた暇なときにでも思い出そう。



-------



 色々と思い出し、我に返った僕は手にある重みを感じた。僕たちの周りには他に一人の女性がいるだけで他には何も見つけられない。その女性だが以前僕が見たことある人だったはず。名前は確か……。菊池さんだったかな? 僕はあやふやな記憶を頼りに女性の名前を思い出し、再び手に掛かる重みを思い出す。

 「荷物はどうしたらいいんでしょうか?」

 僕は周りを見渡しながら持ってきた荷物をどこに置けばいいか聞く。すると、それに僕の予想もつかない返答が帰ってきたのであった。

 「ああ、荷物はもう少し待って。もうすぐここにヘリが来るはずだから」

 ヘリで移動するみたいだ。

 「ヘ、ヘリですか?」

 僕は戸惑いを隠せない。できる事なら昨日のうちに行っておいてほしかった。

 「あれ? 言ってなかったか。大丈夫だよ。案外乗り心地いいから」

 そう言って矢澤あコーチは自身のデバイスを弄り出した。
 僕は仕方なく納得した。今更僕が何を言ったところでこれからの行動が変わることはない。
 僕は観念して自身のデバイスをポケットから出して、黒川に万が一ヘリが墜落したときの対処法を聞くのだった。
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