新世界が聞こえる

はら田

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1.誰が為に生きるのか

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 また、少女は夢を見る。

「お入り」

 小さな箱庭の中にポツンと佇む小屋。小鳥の囀りが聞こえてきそうな温かく美しい庭に佇む少女はその声で小屋の扉を開けた。

「さぁ、座って。紅茶が冷めてしまう」
「…ここは」

夢だと分かる。
変に穏やかな空気に凪いだ心がそう言っている。
シャンと背すじを伸ばし座る老婆の正面に腰を据えるとふわりと紅茶の爽やかな香りが鼻を掠めた。

夢なのに、変だ。
少女がゆらゆらと揺れる紅茶の表面を覗いていると、頭の中もグラグラ揺れる。


「オズに言いくるめられては駄目じゃないの」
「……え? 」
「私の所へ来るつもり無かっただろう。確かにオズは腕のいい魔法士だが大事な事をすぐ隠す。あっという間にお前はあやつり人形さ」

言っている意味が分からない。
だけど、妙に納得が出来る。

老婆の話は嘘ではないと少女は思った。

「一度、私の所へいらっしゃい。本当の貴方にしてあげる」
「本当の、私? 」

 カタカタと少女のティーカップが揺れる。
小刻みにカタカタ揺れて、紅茶が波打つようにぐにゃぐにゃと歪む。
ふいに少女がカップを覗き込むと、そこには同じ赤髪の青年がいた。

「わッ!! 」

同じ顔をして驚く青年。

「それが、本当の姿さ」
「今、顔が……」
「それが本当のお前だよ。アシュリーだなんて馬鹿な名前使うんじゃない」
「男だったんですが……」
「アシュリーという名は返すよ。お前にとって大切な名だろう。さぁ、ここまで話したんだ、目が覚めたら飛んでおいで」


グニャリと老婆の顔が歪んだ。


「待っているからね」

 暗闇が足元を崩していく。
老婆も、テーブルも椅子も全て暗闇に溶けて消える。その暗闇に少女が沈みこんでいくとフッと目が覚めた。
夢の余韻に浸る暇なく身体を起こし「……夜が明ける前にいかなくちゃ」そう呟くとソファから飛び降りた。
オズはおらず、月明かりが入るだけの薄暗い部屋。玄関までそっと歩き、ゆっくりとドアを開く。生ぬるい風が部屋に入り込み、淡い色の夜が草木に溶けていた。

このまま、風に乗ってどこかに行けないだろうか。

少女はふとそう思った。

「……飛んでいけそうな気がする」
「どこへ行くの」

 少女は驚いて振り向くと月明かりにぼんやり照らされたオズが玄関に立ち冷たく少女を見つめていた。

「オズさん」

 静かな怒りがひしひしと伝わり、少女は思わず後ずさりした。怖い、と全身に走った感情でゆっくりと外へと足を出していく。

「こ、来ないで」
「どこへ行く? 僕が、君を助けると言ったよね」
「……でも」

 行かなければならない、そんな使命感が身体を突き動かすのだ。
少女はゴクリと生唾を飲み、震える手をギュッと握った。
目の前にいる恐ろしい存在から逃げようと少女は思い切って背中を向けて駆けだした。

「動くな 」

オズの低い声に突然突風が吹いた。草木が思い切りひしゃげるくらいに強い風に少女は足元を掬われ転んでしまった。
しまった! と思った時にはもう遅い。オズはもうそこまで迫ってきていた。
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