8 / 33
1.誰が為に生きるのか
⑧
しおりを挟む
また、少女は夢を見る。
「お入り」
小さな箱庭の中にポツンと佇む小屋。小鳥の囀りが聞こえてきそうな温かく美しい庭に佇む少女はその声で小屋の扉を開けた。
「さぁ、座って。紅茶が冷めてしまう」
「…ここは」
夢だと分かる。
変に穏やかな空気に凪いだ心がそう言っている。
シャンと背すじを伸ばし座る老婆の正面に腰を据えるとふわりと紅茶の爽やかな香りが鼻を掠めた。
夢なのに、変だ。
少女がゆらゆらと揺れる紅茶の表面を覗いていると、頭の中もグラグラ揺れる。
「オズに言いくるめられては駄目じゃないの」
「……え? 」
「私の所へ来るつもり無かっただろう。確かにオズは腕のいい魔法士だが大事な事をすぐ隠す。あっという間にお前はあやつり人形さ」
言っている意味が分からない。
だけど、妙に納得が出来る。
老婆の話は嘘ではないと少女は思った。
「一度、私の所へいらっしゃい。本当の貴方にしてあげる」
「本当の、私? 」
カタカタと少女のティーカップが揺れる。
小刻みにカタカタ揺れて、紅茶が波打つようにぐにゃぐにゃと歪む。
ふいに少女がカップを覗き込むと、そこには同じ赤髪の青年がいた。
「わッ!! 」
同じ顔をして驚く青年。
「それが、本当の姿さ」
「今、顔が……」
「それが本当のお前だよ。アシュリーだなんて馬鹿な名前使うんじゃない」
「男だったんですが……」
「アシュリーという名は返すよ。お前にとって大切な名だろう。さぁ、ここまで話したんだ、目が覚めたら飛んでおいで」
グニャリと老婆の顔が歪んだ。
「待っているからね」
暗闇が足元を崩していく。
老婆も、テーブルも椅子も全て暗闇に溶けて消える。その暗闇に少女が沈みこんでいくとフッと目が覚めた。
夢の余韻に浸る暇なく身体を起こし「……夜が明ける前にいかなくちゃ」そう呟くとソファから飛び降りた。
オズはおらず、月明かりが入るだけの薄暗い部屋。玄関までそっと歩き、ゆっくりとドアを開く。生ぬるい風が部屋に入り込み、淡い色の夜が草木に溶けていた。
このまま、風に乗ってどこかに行けないだろうか。
少女はふとそう思った。
「……飛んでいけそうな気がする」
「どこへ行くの」
少女は驚いて振り向くと月明かりにぼんやり照らされたオズが玄関に立ち冷たく少女を見つめていた。
「オズさん」
静かな怒りがひしひしと伝わり、少女は思わず後ずさりした。怖い、と全身に走った感情でゆっくりと外へと足を出していく。
「こ、来ないで」
「どこへ行く? 僕が、君を助けると言ったよね」
「……でも」
行かなければならない、そんな使命感が身体を突き動かすのだ。
少女はゴクリと生唾を飲み、震える手をギュッと握った。
目の前にいる恐ろしい存在から逃げようと少女は思い切って背中を向けて駆けだした。
「動くな 」
オズの低い声に突然突風が吹いた。草木が思い切りひしゃげるくらいに強い風に少女は足元を掬われ転んでしまった。
しまった! と思った時にはもう遅い。オズはもうそこまで迫ってきていた。
「お入り」
小さな箱庭の中にポツンと佇む小屋。小鳥の囀りが聞こえてきそうな温かく美しい庭に佇む少女はその声で小屋の扉を開けた。
「さぁ、座って。紅茶が冷めてしまう」
「…ここは」
夢だと分かる。
変に穏やかな空気に凪いだ心がそう言っている。
シャンと背すじを伸ばし座る老婆の正面に腰を据えるとふわりと紅茶の爽やかな香りが鼻を掠めた。
夢なのに、変だ。
少女がゆらゆらと揺れる紅茶の表面を覗いていると、頭の中もグラグラ揺れる。
「オズに言いくるめられては駄目じゃないの」
「……え? 」
「私の所へ来るつもり無かっただろう。確かにオズは腕のいい魔法士だが大事な事をすぐ隠す。あっという間にお前はあやつり人形さ」
言っている意味が分からない。
だけど、妙に納得が出来る。
老婆の話は嘘ではないと少女は思った。
「一度、私の所へいらっしゃい。本当の貴方にしてあげる」
「本当の、私? 」
カタカタと少女のティーカップが揺れる。
小刻みにカタカタ揺れて、紅茶が波打つようにぐにゃぐにゃと歪む。
ふいに少女がカップを覗き込むと、そこには同じ赤髪の青年がいた。
「わッ!! 」
同じ顔をして驚く青年。
「それが、本当の姿さ」
「今、顔が……」
「それが本当のお前だよ。アシュリーだなんて馬鹿な名前使うんじゃない」
「男だったんですが……」
「アシュリーという名は返すよ。お前にとって大切な名だろう。さぁ、ここまで話したんだ、目が覚めたら飛んでおいで」
グニャリと老婆の顔が歪んだ。
「待っているからね」
暗闇が足元を崩していく。
老婆も、テーブルも椅子も全て暗闇に溶けて消える。その暗闇に少女が沈みこんでいくとフッと目が覚めた。
夢の余韻に浸る暇なく身体を起こし「……夜が明ける前にいかなくちゃ」そう呟くとソファから飛び降りた。
オズはおらず、月明かりが入るだけの薄暗い部屋。玄関までそっと歩き、ゆっくりとドアを開く。生ぬるい風が部屋に入り込み、淡い色の夜が草木に溶けていた。
このまま、風に乗ってどこかに行けないだろうか。
少女はふとそう思った。
「……飛んでいけそうな気がする」
「どこへ行くの」
少女は驚いて振り向くと月明かりにぼんやり照らされたオズが玄関に立ち冷たく少女を見つめていた。
「オズさん」
静かな怒りがひしひしと伝わり、少女は思わず後ずさりした。怖い、と全身に走った感情でゆっくりと外へと足を出していく。
「こ、来ないで」
「どこへ行く? 僕が、君を助けると言ったよね」
「……でも」
行かなければならない、そんな使命感が身体を突き動かすのだ。
少女はゴクリと生唾を飲み、震える手をギュッと握った。
目の前にいる恐ろしい存在から逃げようと少女は思い切って背中を向けて駆けだした。
「動くな 」
オズの低い声に突然突風が吹いた。草木が思い切りひしゃげるくらいに強い風に少女は足元を掬われ転んでしまった。
しまった! と思った時にはもう遅い。オズはもうそこまで迫ってきていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる