新世界が聞こえる

はら田

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1.誰が為に生きるのか

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 オズが感情の見えない表情で少女を見下ろす。冷や汗も震えも止まらない。
琥珀色の瞳が怯えている。震える身体が段々と熱くなり、泣き出しそうになる。
その時だ、少女が唸り声を上げた。恐怖からではない、身体が燃えるように熱くなった。

「……うッ」

少女の骨がミシミシと動き始めた。少女の身体より遥かに大きくなろうとしている。もはや人間ではとどまれない程に。

「う、うぅ! 」
「……しまった」

 声にならない声でもがき苦しむ少女からオズは助けようとはせず数メートル距離を取った。
少女は徐々に身体を大きくし、四肢は全て地を駆けるために、太くしなやかに。身体の表面には鳥のような大きな羽毛が生え、鋭い嘴が暗闇に光った。
   鷲の顔、翼と前足、獅子の胴体と後ろ足。まさに魔獣そのものであった。オズは間一髪、前足の爪を避けて二メートルはある巨大な魔獣を見上げた。

「グォ……」
「想定外だ」

背中に生えた翼を狭そうにひとたび羽ばたかせれば家が揺れる。

「……グォォ!! 」

唸りを上げ、少女だった魔獣は空へ飛び立とうと翼を羽ばたかせた。

「行かせない。雷鳴の剣ラヨエスパーダ

オズは唱えたと同時に槍投げの要領で光を放った。四肢を暴れさせる魔獣の身体の至る所に稲妻のように鋭い光が突き刺さる。まるで剣のように身体を突き抜け、魔獣は爪先を地面に何度も食い込ませながらのたうち回った。

「グォォォ!!!! 」
「暴れないで。落ち着くんだ」
 
 地面も、草木も揺れる。地響きが止まない。
魔獣は苦しむようにもがくと、大きな翼を何度も羽ばたかせた。
いかづちの剣は徐々に光を失い身体から消え、痛々しい傷だけが残った。自由になった少女であった魔獣は木々がしなるほどの力で翼を羽ばたかせ四肢を暴れさせながら宙に浮いた。

「しまった、油断した」

 オズは強風に耐えながら飛び立った魔獣を見上げ、眉を寄せた。

 生ぬるい風を切るように空をかける。
瞬く夜の星たちに目もくれないで大きな羽を羽ばたかせ、四肢は空を駆ける。

大きな生き物が山を超えるのは一瞬だ。

 あっという間に西の山を越え、夢に出た美しい箱庭が暗闇の中にぼんやり見えた。
そのまま一直線に駆け下りると、紅茶の柔らかい匂いとたくさんの花の香りがした。懐かしいような、暖かい空気が身体を包み少女だった化け物も穏やかな空気の中に溶けてゆく。
庭を荒らさないようそっと四肢を地面に下りると、夢で見た老婆が杖をついて凛と背筋を伸ばし立っていた。

「よく来たねぇ。さぁ、本当の姿にお戻り」
「…グルル」

 傷だらけの唸る魔獣に老婆は手を伸ばし、そっと大きな嘴を撫でた。巨大な化け物の姿に驚くことは無く、寧ろ愛おしそうに撫でる。

「この身体じゃ家に入れないだろう。さぁ……」

 老婆は杖とトンと地面に打ち付けた。
すると化け物の身体からたちまち羽毛が剥がれ落ち、嘴は柔らかな赤い唇になる。ふわりと風を含んだ短い赤髪の青年が姿を現したのだ。あの赤髪の少女ではない。
傷だらけの青年は安心したように目を細めた。

「さぁお入り。紅茶が冷める前に」
「……」

視界が違う。
夢で見た老婆が低く見える。青年は暗闇の中、自分の姿を確かめられないが自分の身体がすっかり変わったのがわかっていた。

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