11 / 15
北欧の章
北欧の章-6…揺らぎだす神界
しおりを挟む
翔達が聞いた咆哮は、オーディンとトールの耳にも響いた。
「なんだよこの声は……!親父、なんか知らないのか?」
咆哮に顔をしかめながら耳を塞いでいたトールは、まだ頭の中でガンガン鳴り響いている声にイライラしながら隣で並んで聞いていた父親の方を向くと、オーディンにも異変が起きていた。
ただ、以前にロキがなったソレとは異なっており、彼はただただ戦慄していた。
「終わり…終わり…終わり…これで、全部終わるのか…」
「…親父?」
訳のわからない言葉を呟きながら立ち尽くしているオーディンを揺すりながらトールは困惑する…今までこんなに何かへと怯えている彼を見たことがないのだ。いくら、子の前で弱気を見せたくはないから…とは言われても、ここまで自分の親が恐怖を感じるのを見ることは殆ど無いに等しいと言っても過言ではないだろう。
その間にもオーディンは、トレードマークの緑色の帽子が頭から落ちたのにも気づかずに、まるで世界が終焉を迎えるのを見つめることしか出来ない…といったような表情で、うわ言のように『終わり』という単語を呟き続ける。
すると、二人の元へと一人の女性が飛んでくる。靡いている自身の美しい銀髪を三つ編みへと纏め上げており、動きやすそうで機動性に優れたコンパクトな鎧の下に、少し動きにくそうな、ヒラヒラとした服を身につけても尚凛々しい、勇ましい顔立ちの女性である。そして彼女の右の腕には盾が、左右の手には1本ずつ剣が握られていていつでも戦うことが出来る体勢を作っている。そして光で紡がれた輝く翼を畳んで、オーディンへと跪いて報告を始める。
「オーディン様、先刻の謎の咆哮の後より原因不明の症状が多数報告されています。そしてヨルズ様より至急来い、との連絡が……オーディン様?」
「あ…あぁ悪いなワルキューレ、儂は最近のところ寝れていなくてな…ヨルズの所へは今すぐに向かうとしよう、下がってもいいぞ」
トールが親父、しっかりしろ…と連呼しながら肩を叩いたおかげでどうにか意識を取り戻したのか、苦笑いしながらオーディンはワルキューレの頭を撫でてありがとう、と答えた。そんないきなりのスキンシップにも全く動じず、それでは失礼します、と立ち上がったワルキューレは礼儀正しく一礼してまた飛んでいく。それを、つれないねぇ…と妙に親父臭い事を呟きながら彼は見送り、そんな自分の父親を情けなく思ってトールはため息をついた。そしてオーディンは再度息子の方を向いて命じる。
「それではトール、再び奴を探して監視を頼むぞ」
「今度はミスったりはしないぜ…多分な」
「……因みに、今回は何で見失ったんだ?」
ふと疑問に思ったことを会話のクッションがてらに挟むと、トールはさらに深いため息をついて答える。
「足元に火薬が仕込まれてたんだ、それを気づかずに踏んだらパチパチパチッ!…って大きな音がして、それに驚いてたらいつの間にか巻かれてたんだ…」
「…そうか、それは驚くな」
何とも下らない罠にビビる息子に呆れてながら、それじゃあ行ってくるぜ、と張り切りながらアスガルドへと降りていくトールをオーディンは見守った後に、誰にも聞かれないように呟く。
「ついに、終焉が始まるというのか…」
「なんだよこの声は……!親父、なんか知らないのか?」
咆哮に顔をしかめながら耳を塞いでいたトールは、まだ頭の中でガンガン鳴り響いている声にイライラしながら隣で並んで聞いていた父親の方を向くと、オーディンにも異変が起きていた。
ただ、以前にロキがなったソレとは異なっており、彼はただただ戦慄していた。
「終わり…終わり…終わり…これで、全部終わるのか…」
「…親父?」
訳のわからない言葉を呟きながら立ち尽くしているオーディンを揺すりながらトールは困惑する…今までこんなに何かへと怯えている彼を見たことがないのだ。いくら、子の前で弱気を見せたくはないから…とは言われても、ここまで自分の親が恐怖を感じるのを見ることは殆ど無いに等しいと言っても過言ではないだろう。
その間にもオーディンは、トレードマークの緑色の帽子が頭から落ちたのにも気づかずに、まるで世界が終焉を迎えるのを見つめることしか出来ない…といったような表情で、うわ言のように『終わり』という単語を呟き続ける。
すると、二人の元へと一人の女性が飛んでくる。靡いている自身の美しい銀髪を三つ編みへと纏め上げており、動きやすそうで機動性に優れたコンパクトな鎧の下に、少し動きにくそうな、ヒラヒラとした服を身につけても尚凛々しい、勇ましい顔立ちの女性である。そして彼女の右の腕には盾が、左右の手には1本ずつ剣が握られていていつでも戦うことが出来る体勢を作っている。そして光で紡がれた輝く翼を畳んで、オーディンへと跪いて報告を始める。
「オーディン様、先刻の謎の咆哮の後より原因不明の症状が多数報告されています。そしてヨルズ様より至急来い、との連絡が……オーディン様?」
「あ…あぁ悪いなワルキューレ、儂は最近のところ寝れていなくてな…ヨルズの所へは今すぐに向かうとしよう、下がってもいいぞ」
トールが親父、しっかりしろ…と連呼しながら肩を叩いたおかげでどうにか意識を取り戻したのか、苦笑いしながらオーディンはワルキューレの頭を撫でてありがとう、と答えた。そんないきなりのスキンシップにも全く動じず、それでは失礼します、と立ち上がったワルキューレは礼儀正しく一礼してまた飛んでいく。それを、つれないねぇ…と妙に親父臭い事を呟きながら彼は見送り、そんな自分の父親を情けなく思ってトールはため息をついた。そしてオーディンは再度息子の方を向いて命じる。
「それではトール、再び奴を探して監視を頼むぞ」
「今度はミスったりはしないぜ…多分な」
「……因みに、今回は何で見失ったんだ?」
ふと疑問に思ったことを会話のクッションがてらに挟むと、トールはさらに深いため息をついて答える。
「足元に火薬が仕込まれてたんだ、それを気づかずに踏んだらパチパチパチッ!…って大きな音がして、それに驚いてたらいつの間にか巻かれてたんだ…」
「…そうか、それは驚くな」
何とも下らない罠にビビる息子に呆れてながら、それじゃあ行ってくるぜ、と張り切りながらアスガルドへと降りていくトールをオーディンは見守った後に、誰にも聞かれないように呟く。
「ついに、終焉が始まるというのか…」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる