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第3章 狂いに至る過去
第11話
しおりを挟む六地蔵は有頂天だった。しばらくはね。
カコヨモに来れば友達がいる、小説を読んでもらえる。
だが、いつしかぼんやりとした不満が募っていった。それは何か――。
もっと読まれたい、もっとコメントが欲しい、もっと評価がほしい――という欲望だ。
「歓喜の先触れ」である赤いインジケーターが、狂おしいほどに欲しい。
そのためには、何をすればいい? どうすればいい? 彼は考えた。
思いついたのは、誰かの作品を読み、コメントを残し、場合によっては評価をつける事だ。WEB小説の世界で「読み返し」というそうだが、読まれたユーザーが自分の作品を読みにきてくれる。実際にその現象はあった。これでいけば、読者はどんどん増える。彼はそう踏んだ。
だが、すぐにその高揚した気持ちはしぼんだ。労力に見合うほどの結果ではなかったからだ。営業マンが名刺をバラ撒いたところで、返ってくる反応など微々たるものであるのと同じようにね。
赤いインジケーターが灯らない。六地蔵は、いてもたってもいられない。
次に彼が考えたのが、既存の作品の他に新連載を始める事だった。
新作品が始まれば、一定数はのぞきに来る。それは人間心理だ。
近所に何か新しい飲食店ができたら、一度行ってみようと思うのと同じように。
しかし、美味くなければ客は再び来店しない。目新しさも消え、すぐに閑古鳥が鳴く。
小説も同じだよ。いくら新連載をはじめても、面白くなければすぐに人が寄り付かなくなる。彼はいわばそんな店をいくつも抱える事になった。
人気作家のように出版社に依頼されて始めるわけではない。開店資金が必要なわけでもない。誰に頼まれるわけでもなく、既存の作品が読まれないから新しく始める。いわゆる自転車操業だ。
それでも新しい作品を始めれば、赤いインジケーターが灯る。
イイネや「これからも楽しみにしています」などといったコメントに胸が踊る。
だが、そんな書き込みはなんだったのか……と思うほど、冒頭の数話だけで潮が引いたように読者はいなくなる。彼は「みんなどこに消えた~読み進める事もなく~」と昔流行った歌をデタラメに寂しく口ずさむ。
そんななか、六地蔵は、ハタと思った。こんなにもたくさんの連載作品を抱えて、そのどれもが絶望的に読まれていない事を、周囲にどんな風に思われているだろう……。あのバレンタインの日のクラスメートたちのように自分の事を気の毒そうに見ているのだろうか。それとも、あの忌々しいサタンビッチどものように自分を嘲笑ってるんだろうか、と。
六地蔵の心が悲鳴をあげる――憤怒ッ! 憤怒ッ! 憤怒ッ! あんなのはもうたくさんなのですねッッ! 許せないのでございますねッッ!
彼は、そのたたずまいや振る舞いからは想像できないほどプライドが高く、強い自己顕示欲や陰湿な攻撃性を隠し持っていた。そういうケースは実に多い。
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