ウェブ小説に狂った男

まるっこ

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第3章 狂いに至る過去

 第12話

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 過去のトラウマが、六地蔵が慣れ親しんだ理論を呼び起こす。
 本当の願望を抑圧し、自分を慰め守る理論の発動だ。
 
 「友達に囲まれたいなんて思わない、うらやましくなんてない」
 「チョコなんてほしくない、気にもしてない、モテたいなんて思ってない」
 
 それは時を経て――、
 
 「趣味で書いておりますので、PVや評価は気にしておりません」
 「自己満足で書いておりますので、読まれたいとは思っておりません」
 「読まれなくていい。アマチュアは好きに書けばいい、好きを詰め込めばいい」
  
 そんな言葉に、置き換わった。

 この考えを、六地蔵はしきりに発信するようになる。
 なぜなら、この言葉は彼の中で「魔法の効力」を発するからだ。自分を慰めると同時に正当化し、読まれない事は気にしていないという周囲へのアナウンス効果も兼ねる。

 だが、愚かな事に、彼はそうしながら同時に、自分の作品を全力で宣伝した。
 おそらく一度覗いてしまった楽園が、「読んでほしい」という本当の願望を抑圧しきるのを邪魔したのだろう。

 その矛盾極まりない行為に自分では気づかぬまま、六地蔵は狂ったように連載を始め、好きなように放置し、狂ったように終わらせていった。少年漫画などでも、人気のない作品を「俺たちの戦いはこれからだ!」といって強引に終わらせるそうだね。

 赤いインジケーターほしさに小説を更新できない時は、「お知らせノート」のようなものに宣伝をはじめ、取るに足らぬ事を書いて発信した。

 そうして彼が「魔法の言葉」を頻発し、同時に作品を宣伝すればするほど、読者はさらに減っていった。
 SNSと同じだよ。面白くない上に、無意味な発信を頻発するユーザーのフォロワーは減っていく。

 そして読まれない作品だけが、山のように積み上がっていった。

 そもそも、幾多の小説を同時進行で書いていくなど、ほとんどの人間には不可能だ。
 ごく一部、極めて少数の人間にだけ、それができる。
 頭の中を、物語ごとに完全に仕切り、物語を展開させていく。
 
 もっとも、それは読者を楽しませる小説という意味においてだ。
 自分が好きなように書きなぐるだけなら、いくらでもできる。
 だがそれは、コンビニ1店ロクに利益を出せない人物が、5店、10店の経営を手掛けるようなものだ。待っているのは絶望的な赤字と破産だよ――。
 

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