親父さんの手

まるっこ

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第2話

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 僕が物心ついた頃には、ヤスさんは近所の子供たちのリーダーだった。
 
 活発でガキ大将という言葉が似合うヤスさんと、内気でどんくさい僕とでは、タイプはあまりにも違った。でも、ヤスさんはそんな僕にもやさしかった。

 小学校の学年が上がっていくごとに一緒に遊ぶような機会は減っていったけど、それでも根の部分では、幼い頃と変わってなかったと思う。

 
 ヤンチャ坊主だったヤスさんは、やがて中学生になると、いわゆるヤンキーと呼ばれるカテゴリーに入っていった。 
 僕が中学に入学した時にはヤスさんは当然ながら3年生で、古い言葉でいえば番長という存在になっていた。


 少し中学生活に慣れた頃、体育のためクラスメートたちと僕が運動場に向かっていると、ヤスさん一派に出くわした。皆に緊張が走った。入学間もない1年生にとって3年のヤンキー集団は、魔物集団のようなものだ。
 
 その魔物集団リーダーの「おう!たー坊、体育か?」という声と目線に、一斉に僕に注目が集まった。

 僕がうなずくと、ヤスさんは「ちゃんと勉強しろよ」とだけ言って、仲間たちと去っていった。
 
 クラスメートたちが興味深げに「あの先輩と知り合いなん?」と訊いてきた。
「知り合いっていうか、斜め向かいに住んでるから……」
 
 同級生たちには怖そうな番長も、僕にとってはカエルやカマキリを捕まえて嬉しそうにキャッキャッとハシャいでいた頃と変わらなかった。
 

 一年生も後半になると、ぼちぼちとヤンキーの芽を出すメンツも出てきたが、僕におかしなちょっかいを出したりしなかったのは「ヤスさんのご近所」という威光があったからだろう――。
 
 
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