刃に縋りて弾丸を喰む

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Episode〈4〉繭籠 ⑴

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 ふ、とまぶた越しに柔らかな光りを感じる。ゆっくりと目を開くと、もう見慣れた天井にカーテンから漏れた朝日が差していた。
 ところで、私にはひとつ特技がある。朝、目覚ましを使わずとも自らが決めた時間通りに起床できるのだ。
さらりとした冷気をおびる朝の空気を一息、吸い込んで軽く伸びをする。それから、腕をついて身体を────……。
 ───起こせなかった。
 「えっ……」
 腰をぐるりを覆う重みと体温に初めて気づいて、とっさに隣に視線を向ける。
 そこには、なんと───“なんと”、より“もちろん”、の方が適切な表現ではあるだろうが───カタナが眠っていた。
  『これからはオモチャを使う暇もないぐらい、いっぱい抱いてあげるから』
 新婚旅行から、もうひと月ほど経っただろうか。あの言葉通り、それまでは自宅で私と顔を合わせることもなかったカタナが、日を置かず私の身体を抱くようになった。
 遅くとも日付が変わる前には帰宅し、入浴もそこそこに、カタナは毎晩彼の寝室の大きなベッドに私を引き込む。
そんな生活へと日々が変化して、1ヶ月。つまるところ、私がカタナの寝室で朝を迎えるようになって、1ヶ月。
 私は、初めてカタナの寝顔を彼のベッドの上で見た。
 「……」
 すう、すうと穏やかな寝息が朝の静けさにふんわり溶けてゆく。いまだ起きる気配のないカタナを前にして、私は戸惑っていた。
 先日旅館で迎えた朝と、今日自宅で迎えた朝とでは、私のなかで大きく意味合いが違う。
 新婚旅行は、チェックイン・アウトという“区切り”がある。それに、そもそも彼にとってあの旅行は義務───それ自体が“仕事”のようなものだった。新婚旅行しごとの間は、ハネムーンを楽しみにやってきた新妻みそらとして振る舞うこと、それそのものが私のなすべきことだと確信できた。
 しかし、しかしだ。今日はなんでもない日で、ここは自宅。いつもなら、カタナはとっくに家を出ているような時間。
 ───“美空”は、どうするのが、正解?
 カタナが寝過ごしている───なんて可能性は正直なところ、信じられないが───のであるならば、彼を起こした方がいいだろう。
 今日は彼の休日である───なんて可能性も正直なところ、信じられないが───のであるならば、彼を起こさない方がいいだろう。
 ……それから、あともう一つ、頭をよぎった案がある。
 今日が彼の休日だったとして、“夫との休日を目一杯楽しもうと、無邪気に彼を起こす美空”……という、選択肢。
 「……」
 起こすべきか、起こさぬべきか。ぐるぐると頭の中で考えを巡らせながら、横目にカタナの顔を見遣る。
 白銀の髪の隙間から覗く端正な顔と伏せられた長いまつげに、新婚旅行の朝を思い出す。
 ───ほっぺた、柔らかかったな。
 あの日、初めて触れた彼の顔。いつもは長い髪に隠されたそれが、すぐそこに、無防備に横たえられている。
 気づけば、つい手が伸びていた。
 それから、すぐ私は悲鳴をあげた。

 「熱……っ」
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