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Episode〈6〉漣波 ⑴
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「映画館……ですか」
「うん」
夕食の生姜焼きを箸で摘まみながら、カタナは話を続ける。
「行ってみたいなって」
あれから、私とカタナは文字通り寝食を共にするようになった。朝は彼に合わせて私が起床し、夜は私に合わせて彼が帰宅する。一緒に入浴して、一緒に眠る。
以前の彼では考えられないほど、カタナは自宅で時間を過ごすようになった。
もちろん、今まで通り彼に休日という概念はないし、家でも持ち帰った仕事に打ち込んでいることが長かった。それでも、ときどき暇をみては「映画を見よう」と私を誘うようになった。
そんな日は、夕食と入浴を済ませてから眠るまでの間、一本だけ映画を二人で観る。
最初のうちは私に作品の選出を任せていたカタナだったが、最近は表示されたサムネイルから気になるものを選んだり、ネットで調べたのか特定の映画を指定するようになった。
ジャンルにこだわりはないようだったが、相変わらず、どの作品にもじっと黙って見入っていた。
「あんた、言ってたでしょう。映画館ではポップコーンとジュースを買って作品を観るって。それ、やってみたい」
「私は構いませんが……」
言いよどんだ私の、言葉の先を察したカタナが口を開く。
「あんたの職場からも家からも離れていて、片桐組のシマにも藤埜組のシマにもかかっていない、そんな場所なら問題ない」
そう言いながら、彼はスマートフォンの画面を机の上に差し出した。
「ず、ずいぶん遠いですね……福島県?」
マップに表示されたピンがしめしている場所は、地方の中でも“田舎”と呼ばれるような地域にあるショッピングモールだった。
「うん。片桐は関東、藤埜は西日本。行くなら、北が一番安全だから」
ただ映画館に行くためだけに、車で4時間はかかる場所へ行こうと提案するカタナとスマートフォンの画面を見比べながら、「そんなにも映画館に行ってみたいのか」と内心驚く。
「あんたと、ちゃんと出かけてみたいんだよ」
私の心中を読み取ったように、カタナはため息交じりに言葉を投げた。
「新婚旅行、つまんなかったでしょ」
「……そんなことは」
「いいよ、そんな下手な気遣いは」
カタナはテーブルの上からスマートフォンを取り上げると、何やら画面を操作しながら、また口を開いた。
「今週の日曜日、時間が取れそうなんだ。一泊ぐらいならできるかもしれない」
「知らない旅館に泊まっていいんですか?」
「万が一を考えてよく調べたけれど、あのあたりに関係者の影は見当たらなかった。大丈夫」
はっきりとそう言い切って、カタナが私を見る。
「オレはすごく行きたいんだけど。あんたは、行きたい?」
「行きたい、です」
考える前に、返事が口をついて出た。
「そう。それじゃあ、日曜日に」
カタナは嬉しそうにほほ笑んで、食べ終えた皿を流し台へと持って行った。
「うん」
夕食の生姜焼きを箸で摘まみながら、カタナは話を続ける。
「行ってみたいなって」
あれから、私とカタナは文字通り寝食を共にするようになった。朝は彼に合わせて私が起床し、夜は私に合わせて彼が帰宅する。一緒に入浴して、一緒に眠る。
以前の彼では考えられないほど、カタナは自宅で時間を過ごすようになった。
もちろん、今まで通り彼に休日という概念はないし、家でも持ち帰った仕事に打ち込んでいることが長かった。それでも、ときどき暇をみては「映画を見よう」と私を誘うようになった。
そんな日は、夕食と入浴を済ませてから眠るまでの間、一本だけ映画を二人で観る。
最初のうちは私に作品の選出を任せていたカタナだったが、最近は表示されたサムネイルから気になるものを選んだり、ネットで調べたのか特定の映画を指定するようになった。
ジャンルにこだわりはないようだったが、相変わらず、どの作品にもじっと黙って見入っていた。
「あんた、言ってたでしょう。映画館ではポップコーンとジュースを買って作品を観るって。それ、やってみたい」
「私は構いませんが……」
言いよどんだ私の、言葉の先を察したカタナが口を開く。
「あんたの職場からも家からも離れていて、片桐組のシマにも藤埜組のシマにもかかっていない、そんな場所なら問題ない」
そう言いながら、彼はスマートフォンの画面を机の上に差し出した。
「ず、ずいぶん遠いですね……福島県?」
マップに表示されたピンがしめしている場所は、地方の中でも“田舎”と呼ばれるような地域にあるショッピングモールだった。
「うん。片桐は関東、藤埜は西日本。行くなら、北が一番安全だから」
ただ映画館に行くためだけに、車で4時間はかかる場所へ行こうと提案するカタナとスマートフォンの画面を見比べながら、「そんなにも映画館に行ってみたいのか」と内心驚く。
「あんたと、ちゃんと出かけてみたいんだよ」
私の心中を読み取ったように、カタナはため息交じりに言葉を投げた。
「新婚旅行、つまんなかったでしょ」
「……そんなことは」
「いいよ、そんな下手な気遣いは」
カタナはテーブルの上からスマートフォンを取り上げると、何やら画面を操作しながら、また口を開いた。
「今週の日曜日、時間が取れそうなんだ。一泊ぐらいならできるかもしれない」
「知らない旅館に泊まっていいんですか?」
「万が一を考えてよく調べたけれど、あのあたりに関係者の影は見当たらなかった。大丈夫」
はっきりとそう言い切って、カタナが私を見る。
「オレはすごく行きたいんだけど。あんたは、行きたい?」
「行きたい、です」
考える前に、返事が口をついて出た。
「そう。それじゃあ、日曜日に」
カタナは嬉しそうにほほ笑んで、食べ終えた皿を流し台へと持って行った。
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