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光明の色
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大絶叫に驚いて飛び上がった常盤に対し、今すぐに拾ってこいと蹴り出した後。青藍は頭を抱えて蹲っていた。このアパートにはごみ専用の置き場がある為、住人は好きな時にごみを出せる。汚れてないと良いのだが、と思っていると玄関のドアが開いた音がした。
「まったくまったくまったくもう。どうしてごみをまた拾いに行かなきゃならないのさ。これこそ野良猫だよ!せっかく家猫になったのに!」
「黙れ馬鹿猫。全く文句言いたいのはこっちの方だ」
ぶつくさ言いながら幾つもある紙の束を回収してきた常盤。綺麗なままの束だけでいい、と言っておいただけあって量は8、9割程度だろうか。全部回収できなかったのが悔やまれる、と呻きつつ目線で猫を呼んだ。しばし無言の応酬をしていたが、諦めたのは常盤の方だった。渋々青藍の前に正座する。二人の説教スタイルである。
「で、何してくれてんだてめぇ」
「異議あり。何で怒られているのかが全くわかりません裁判長」
「ツッコミどっころが多すぎる発言するなアホ」
ため息をついた青藍が腕を組む。ジトっとした目で見上げてくる常盤に、これまたジトっとした目を向ける。
「走り書きとは言えど、あれだけのクオリティーの絵を、しかも一部ではなく全部捨てやがるとは。アレは全部お前の作品だろう」
「そうだけど?」
「そうだけど、じゃねぇ。自分の作品を大事にしろって言ってんだ」
しかも、モノクロの絵ならまだましも、発作の際に色鉛筆を使った時の作品まで捨てやがって。そこまで言われて、漸く理解したようだ。しかし、それでも納得いかない顔で常盤は唇を尖らせた。
「でもさ、別にあんなの幾らでも描けるし、とっておいても意味無いし。寧ろ邪魔だし。ミックスペーパーで環境に良し。完璧じゃん」
強がりでも何でもなく、心の底から思っている台詞であるとその表情が語る。青藍は愕然とした表情でソレを見る。
「い、や。意味ないとかそういう問題か?!何時かあの中から選んできちんと仕上げよう、とか。今はそんな気が無くとも、いつか役に立つかも知れない。もっと言えば、画家になれば確実にあの走り書きでも価値が出るぞ?!お前、仮にも画家の端くれ、いや、卵だろう!」
「えー。別にいらないそんなの」
青藍も物書きの端くれ、クリエイターの端くれと言っていい。突き詰めれば根本は画家たる常盤と同じ。だからこそ、走り書きにも意味があると思っている。青藍自身も、かつての走り書きが別の場所でポンと形を変えて役に立ったりもする。ある意味宝の山だ。それを何の感傷も考えもなく捨てるという事が信じられない。しかし、当の本人には全く相手にされない。怒りと混乱に支配され、絶句していると更に信じられない台詞が。
「だって、僕は絵が描ければそれでいい。描いた後の絵には別に興味ないもん」
「……本気で言ってんのか」
「ん。だって、別に画家になろうとか絵に関する仕事をしようとか。そんなの興味ない」
「?!」
思えば、常盤は描くだけ描けば、そのまま放りだしていた。拾い集めるのはいつも青藍。平気で描いた絵の上を歩いていることすらあった。唯一丁寧に扱うのは、買い与えたスケッチブックだけ。思わず視線を向けると、常盤はああ、と微笑んだ。
「あれは、別。だって、青藍がくれたスケッチブックだもん。大切にしてるよ?」
まるで、スケッチブックだけが大切と言わんばかりの口調。まるで自分の絵に興味がない常盤に、青藍は掛ける言葉が見つからなかった。常盤も常盤で、どうして叱られているのかが、結局のところ理解できていない様子。青藍はため息をついて、投げ出していた袋を引き寄せた。
「山ほど言ってやりたいことがあるけどな。まず一つ。作品は大切にしろ。お前が何を考えてぞんざいに扱っているのかは知らんがな。そういう扱いをしているのを見るのは、俺の方が腹が立つ。俺が納得できる説明ができない限り、何度でも説教大会だ。分かったな?」
冷ややかに睨みつけると、不満そうな顔が渋々頷く。常盤には謎が多い。このぞんざいな作品の扱いも、そこに関係しているのではないかと青藍は予想していた。この手の勘はよく当たる。普段ならば全く踏み込もうとしない、踏み込みたくもない他人の事情。今回ばかりはそれを開示しない限り、やりたいようにさせてもらうと宣言しておく。我ながら、執着心が凄いと嗤いたくなるが。
「二つ目。お前に管理を任せておくとろくなことにならないだろうからな。描いた絵は全てこのファイルにファイリングしておけ。いっぱいになったら、そこの棚に並べろ。いいな?」
リビングにおいてあるまだ隙間の多い本棚を視線で示しつつ、ファイルを渡す。どうしてそんな面倒な事を、とぶつくさ言っているのは無視する。分かったな、と鋭く睨みつけてやると、青ざめた顔でコクコク頷く。それを確認して、青藍は息をついた。
「三つ目。これが最重要。お前、ゴミ出し禁止」
チラリ、とゴミ箱の方を一瞥すると、常盤からそれだけは僕にも出来るのに、と悲鳴が上がる。上がるのだが。青藍はにっこりと笑って常盤に顔を近づける。青い顔が紙の様に白くなっていき。
「燃えるゴミと燃えないゴミの区別がつかず。分別も出来ないくせに何言ってやがる。挙句が作品のゴミ廃棄未遂だぞ。信用度がマイナスって事をいい加減理解しろ馬鹿猫」
「そんなぁ」
ふにゃりと眦を下げて泣きまねをする常盤。それをみる青藍の瞳には、全く容赦も情けも無いのだが。
まぁ、結局、指示されたものだけ捨てに行くから、と何故か泣きつかれる羽目になり。青藍がゴミ箱から引っ張り出して口を閉じた袋だけ、指示の通りにゴミ捨て場に運んでいくという仕事だけは常盤が死守する事になるのだが、それは余談。
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